水稲胚乳の成熟におけるプログラム細胞死の時間的・空間的進行過程

要約

水稲胚乳の成熟においては、組織全体が同時にプログラム細胞死を行うのではなく、胚乳組織の中心部から周縁部に向かって順にプログラム細胞死が進行する。また、各細胞におけるプログラム細胞死のプロセスは、デンプン蓄積完了前に開始される。

  • キーワード:水稲、胚乳、組織形成、プログラム細胞死
  • 担当:作物開発・利用・水稲多収生理
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・水田作研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネ科植物の胚乳は、細胞分裂やデンプン蓄積を経て、細胞死による活動停止により完成に至る。この細胞死は、遺伝的に制御されたプログラム細胞死(Programmed Cell Death: PCD)の一種であることが示されているが、水稲胚乳におけるPCDの進行過程など詳細は明らかになっていない。胚乳細胞の生存期間はデンプン蓄積期間の長さを規定している可能性があることから、胚乳細胞の生死を決めるPCDの機構解明は、水稲の収量・品質改善にも貢献するものと考えられる。
本研究では、水稲胚乳組織におけるPCDの全体像を明らかにするため、PCDの時間的・空間的進行過程を検討する。

成果の内容・特徴

  • 水稲胚乳の成熟においては、組織全体が同時にPCDを行うのではなく、デンプン蓄積と同様に中心部から周縁部に向かってPCDが進行する(図1)。
  • PCD関連シグナルは、開花後7日目までは認められない(図1B、 C)。開花後10日目には、すべての胚乳細胞が生存しているものの(図1F)、胚乳組織中心部でPCDプロセスの実行が確認され(図1E)、その後、PCD実行部位は周縁部へと拡大する(図1H、K、N)。開花後16日目には、胚乳組織の中心部で細胞生存シグナルが消失し(図1L)、細胞死に至ったものと判断された。その後、細胞死の範囲は周縁部に向かって拡大する(図10)。
  • PCDプロセスが実行されている部位においても、胚乳組織は乳白色をしており、デンプンの密な蓄積を示す半透明化は確認されない(図1DとE、JとKなど)。このことから、PCDプロセスはデンプン蓄積が完了する前に開始されるものと判断される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果情報は、水稲胚乳の成熟過程を細胞生物学的視点から明らかにした基礎的知見であり、水稲の収量・品質形成メカニズムの解明などへ応用できる。
  • 本研究結果は、品種「にこまる」を用い、穂内の上位2本の1次枝梗上の先端から4・5・6番目の1次枝梗着生籾を対象に調査したものである。なお、調査期間(開花後20日間)の平均気温は26.5°Cであった。
  • 本研究では、PCDプロセスの実行をカスパーゼ様酵素の活性で、細胞の生存を二酢酸フルオレセインの蛍光で判定している。手法などの詳細については、発表論文を参照されたい。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:水稲収量・品質の変動要因の生理・遺伝学的解明と安定多収素材の開発
  • 中課題整理番号:112b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:小林英和、池田達哉、長田健二
  • 発表論文等:Kobayashi H. et al. (2013) Planta 237(5):1393-1400