飼養条件が異なる肉用肥育牛の筋肉内遺伝子発現のモニタリング

要約

飼養条件が異なる肉用肥育牛の筋肉内において、産肉形質を反映する遺伝子の発現を測定し、その違い明らかにし、飼養条件の違いが肉用牛の成長に及ぼす影響を推測する。

  • キーワード:筋肉、遺伝子、発現、産肉形質、肉用牛肥育、飼養条件
  • 担当:自給飼料生産・利用・高品質牛肉生産
  • 代表連絡先:電話 0854-82-0144
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・畜産草地・鳥獣害研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、筋肉の成長あるいは脂肪の合成などの生産形質を反映する多くの遺伝子が明らかになっている。肉用牛の肥育は概ね1.5年間を費やし、さらに肥育技術の確立までは肥育試験を反復するため長期間を必要とする。このため、肉用牛の生体でその産肉形質を反映する遺伝子の発現を把握することは、より正確な肉用牛肥育試験の実施へとつながり、肥育技術確立までの期間の短縮が期待できる。
そこで本研究では、飼養条件が異なる肥育過程の肉用牛の筋肉で発現している、産肉形質を反映する遺伝子の発現変動を測定し、これから肉用牛の産肉性に及ぼす影響を推測することを試みる。

成果の内容・特徴

  • 肥育過程の肉用牛において、給与飼料の変更前後などで骨格筋組織を採取し、これらから遺伝子発現測定のためRNAを抽出し、相補鎖DNA (cDNA)を合成する。産肉形質を反映する遺伝子として、筋肉の主要蛋白質ミオシン重鎖(MyHC)、骨格筋成長の抑制的調節因子ミオスタチン(MSTN)、ならびに脂肪合成に係るCCAAT/enhancer binding protein α (C/EBPα、peroxisome proliferator-activated receptor γ 2 (PPARγ 2)をターゲットに選び、リアルタイムPCRでcDNAを鋳型に遺伝子発現を測定する。それぞれの遺伝子発現量は内部標準遺伝子glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)で補正を行う。
  • 試験区は、黒毛和種去勢牛を16ヵ月齢まで乾草1.5kg/日、濃厚飼料を飽食で飼養し、その後、飼料の切り換えを行う。引き続き同一条件で飼養する対照区(n=5)と濃厚飼料3kg/日、イタリアンライグラス乾草を飽食とする粗飼料区(n=5)に分け、28ヵ月齢まで供試する。この間、13、19および28ヵ月齢で腰最長筋をバイオプシーにより採取し、遺伝子発現を測定する。
  • 飼料の切換え後の19ヵ月齢では、対照区と比較して粗飼料区でMyHCの発現減少(図1)が認められ、これは筋肉成長の抑制を示唆している。また、対照区と比較して28ヵ月齢時の粗飼料区でのMyHCの発現上昇ならびにMSTNの発現減少(図2)は、粗飼料多給により、この時期に筋肉の成長が亢進状態にあることを示唆している。
  • 28ヵ月齢時のC/EBPα(図3)およびPPARγ 2(図4)の発現は、対照区と比較して粗飼料区で減少または減少傾向が認められ、これらは粗飼料多給により脂肪合成が抑制状態にあることを示唆している。
  • 2試験区での遺伝子発現量の変動から、粗飼料多給のこの飼養条件での肥育期間の延長は筋肉の成長すなわち増体は見込めるが、脂肪の蓄積は見込めないことが推測される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は試験研究機関において、肉用牛肥育の飼養条件の検討に活用できる。
  • 筋肉内遺伝子の発現量を測定するため肥育過程の肉用牛の筋肉を採取する必要がある。
  • より正確に産肉性を推測するため、目的に応じた産肉形質を反映する遺伝子を選択し、ターゲットとする遺伝子は複数分析することが望ましい。
  • この方法は肥育過程の任意の時期における複数の筋肉内遺伝子の発現量の測定から、その時点あるいはその後の産肉性を推測するものであり、実際の生体での状況を詳細に把握するためには、肥育過程の任意の時期において供試牛を屠畜し、屠体分析を行う必要がある。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:飼料稲や牧草等の多様な自給飼料資源を活用した高品質牛肉生産技術の開発
  • 中課題整理番号:120d4
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2012年度
  • 研究担当者:柴田昌宏、松本和典、曳野泰子、山本直幸
  • 発表論文等:
    Shibata M. et al. (2011) Meat Sci. 89:451-456
    柴田(2012) 畜産技術、11:15-18