施設園芸用の循環扇性能と数値流体力学による循環扇気流の予測方法

要約

循環扇が発生させる気流の到達範囲はその循環扇の消費電力と有意な正の相関関係にある。作物群落が循環扇気流の到達範囲に及ぼす影響は、解析空間をメッシュサイズ0.1m以下で分割する数値流体力学シミュレーションによって予測できる。

  • キーワード:園芸施設、気流到達範囲、CFD、シミュレーション
  • 担当:日本型施設園芸・温暖地施設園芸
  • 代表連絡先:電話 0877-62-0800
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・傾斜地園芸研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

施設園芸用として導入が進んでいる循環扇には、性能評価の標準的な指標がないため、機種間の特徴を把握し、温室の規模などに応じて適切な能力・台数の循環扇を選択することは難しい。また、循環扇気流は温室の規模、形状、作物群落に左右されるため、実際の温室を対象とした実験的な手法によって、循環扇の設置場所を決めるには多大な労力を要する。そこで、循環扇の気流到達範囲を左右する要因、循環扇気流の特徴、少ない労力で設置場所を検討可能な数値流体力学(Computational Fluid Dynamics、CFD)シミュレーションの適正なメッシュサイズを提示する。

成果の内容・特徴

  • 循環扇が発生させる気流の到達範囲の実測値は機種によって異なり、消費電力の測定値とは有意に正の相関関係がある(図1)。一方、仕様書などにある風量と循環扇気流の到達範囲の間には相関が認められない。
  • 高さ2.0mに設置した循環扇が、前方に障害物のない幅6m、奥行25m、高さ3mの空間に発生させる気流の実測値は、循環扇から離れるにしたがって蛇行を始め、プロペラの軸方向に対して直進しない(図2)。
  • 高さ2.1mの循環扇の前方に、高さ1.8m、幅0.4mのトマト群落を載せた栽培ベッドを設置すると、幅6m、奥行25m、高さ3mの空間に循環扇が発生させる気流の到達範囲の実測値は17~27パーセントポイント減少する(図3)。
  • CFDシミュレーションによって温室内の循環扇気流を再現する場合、解析空間を0.1m以下のメッシュサイズで分割すると実測値の傾向をよく再現でき(図4)、作物群落が循環扇気流の到達範囲に及ぼす影響などを比較することができる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、循環扇を導入する際の機種選択、およびCFDシミュレーションを使用して循環扇の設置場所・台数を検討する際に活用できる。
  • 循環扇に供給される電力は、送風のほかに摩擦などの機械的な損失に消費されるため、消費電力から非効率な製品を判別することはできない。
  • 温室内の循環扇気流のCFDシミュレーションには、循環扇の能力を再現するために静圧流量特性曲線、作物群落が循環扇気流を阻害する特徴を再現するために葉面積密度と群落形状、その他に温室の形状データを必要とする。
  • 循環扇の機種比較は日本国内で市販されている6機種を供試した結果である。循環扇気流の測定は、障害物のない建物内(間口8.5m、奥行33.6m、高さ6.1m)の床に1m格子状に6m×25mの測定区画を設け、無指向性の熱線風速計を高さ別に4~5台設置したポールを観測者が移動させながら実施した。循環扇を稼働させない条件下の測定結果から移動観測が引き起こす風速を決定し、循環扇気流の到達を判断する閾値とした。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:日光温室等の活用による温暖地における高収益・安定生産施設園芸技術の開発
  • 中課題整理番号:141c0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2008~2013年度
  • 研究担当者:畔柳武司
  • 発表論文等:
    1)Kuroyanagi T. (2013) EAEF. 6:197-202
    2)Kuroyanagi T. (2013) Acta Horti. 1008:213-220