イノシシの採食被害は草地更新をしていない牧草地でも発生する

要約

糞塊数からみたイノシシの牧草地利用と、保護ケージ内外の植物現存量から推定したイノシシによる採食被害は、更新年には更新草地に集中し、無更新年には分散する。

  • キーワード:イノシシ、寒地型牧草地、採食被害、草地更新
  • 担当:基盤的地域資源管理・鳥獣害管理
  • 代表連絡先:電話 0854-82-0144
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・畜産草地・鳥獣害研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、イタリアンライグラス草地でイノシシによる深刻な採食被害が発生することが報告されている。しかし、このような被害は草地更新直後の牧草地での報告があるのみで、更新をしていない寒地型牧草地でも被害が発生するのか不明である。草地更新の有無とイノシシの採食被害の関係を明らかにすることは、牧草生産を行う際に被害防止対策を実施すべきかどうか判断する上で重要である。そこで、本研究では草地更新の有無によってイノシシの牧草地の利用状況や採食被害の発生状況にどのような違いが生じるのかを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 牧草地AとBでは調査期間中一度も草地更新を行わず、草地更新を行ったのは2007年の牧草地Cのみである。牧草地Aはトールフェスク優占草地、Bはトールフェスクとイタリアンライグラスの混播草地、Cはイタリアンライグラス優占草地である。
  • 牧草地Cにおいて、草地更新を行った2007年に、草地更新を行っていない2006年と2008年よりも有意に糞塊数が多い(図1)。2007年での牧草地間の比較を行ってみると、草地更新を行った牧草地Cの糞塊数は、他の牧草地に比べて有意に多い(図1)。
  • 2007年には、草地更新を行った牧草地Cで、保護ケージ内外の植物現存量に有意な違いがみられる(図2-a)。同年に草地更新を行わなかった牧草地(A・B)では、保護ケージ内外の植物現存量に有意な違いはみられない(図2-a)。一方で、どの牧草地でも草地更新を行わなかった2008年では、すべての牧草地で保護ケージ内外の植物現存量に有意な違いがみられる(図2-b)。
  • 保護ケージ内外の植物現存量の差から求めた被害量についてみてみると、2007年の牧草地Cの被害量は、牧草地AとBに比べて有意に多い(図3)。牧草地Aでは、草地更新の翌年の被害量は、更新年の被害量よりも有意に多くなる(図3)。
  • 以上のことから、更新年には採食被害が更新草地に集中するが、無更新年にはイノシシの草地利用が無更新草地に分散し、その結果深刻な採食被害が分散して発生する。

成果の活用面・留意点

  • 更新を行わない圃場でも、周辺の牧草地の有無や草地更新の状況によっては被害が発生する可能性があるので、侵入防止対策を行う必要がある。
  • 更新草地で被害が集中したのは、牧草の利用可能量の違いの他に、播種した草種の違いも影響した可能性がある。
  • イノシシによって牧草そのものが被害を受けるだけでなく、餌の少ない冬にイノシシを養ってしまうという問題もある。このことを念頭において、被害が深刻な地域ではしっかりと侵入防止対策を行う必要がある。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:野生鳥獣モニタリングシステム及び住民による鳥獣被害防止技術の確立
  • 中課題整理番号:420d0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2006~2013年度
  • 研究担当者:上田弘則、高橋佳孝、井上雅央
  • 発表論文等:上田ら(2010)日本草地学会誌、56(1):20-25