二重ネット工法を用いた畦畔法面におけるシバ(Zoysia japonica)の植栽技術

要約

農家や農業生産組織の組作業で行える二重ネット工法によって、急傾斜の畦畔法面においても、シバの植栽は容易にできる。植栽時に床土を入れることでシバ被度の拡大効果は大きい。

  • キーワード:畦畔法面、二重ネット工法、シバ(Zoysia japonica)、農業生産組織、床土
  • 担当:新世代水田輪作・中小規模水田輪作
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・水田作研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

高齢化が深刻かつ畦畔率の高い中山間地域においては、畦畔管理における草刈り作業の安全性の確保と省力化が不可欠である。解決策のひとつとして、低草高で管理し易いシバ(Zoysia japonica)を主体とする芝生畦畔への植生転換が挙げられる。通常の雑草畦畔では年4回程度の草刈りが必要だが、芝生畦畔では夏期の草刈りを1回削減できる。さらに、芝生畦畔では足元の状況が確認し易く、草刈時に転倒の危険性が低い。しかし、従来の張芝工法やポット苗工法では、斜度30°から45°の畦畔法面における農家らによるシバの植栽は難しく、植生転換は進まない。そこで、芝生畦畔への速やかな植生転換のため、急傾斜の畦畔法面においても農家らによる植栽を容易にする二重ネット工法を供試し、従来の植栽工法との比較およびシバの被度拡大に及ぼす床土の効果を提示する。

成果の内容・特徴

  • 二重ネット工法によるシバの植栽では、あらかじめ前植生を野焼きや除草剤で処理したところに、5cmの床土を入れて、6月上旬に畦畔の天端から、ほぐし芝を挟んだ木綿の二重ネットを展開し、直ちに1cmの目土を入れる(図1)。
  • 斜度30°から45°の畦畔法面において、前植生の除去が必要なものの、農家らの5人程度の小人数の組作業で、従来の植栽工法よりも高い作業能率で植栽できる(表1、表2)。
  • 床土が植栽年のシバ生育期における雑草の発生を抑制するため(データ略)、シバ被度の拡大には、床土の効果が大きい(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:農家、農業生産組織、土木事業者、行政機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:東北以南の中山間地域等の畦畔法面。業界の二重ネット(シバ苗込)の供給能は、月あたり畦畔法面100 ha相当。
  • その他:
    シバはほふく茎の伸長に優れる日本シバ品種「朝駆」等が適し、ほぐし苗を木綿の二重ネットに新鮮重で200g/m2、本数で400本/m2を挟持する。床土、目土には真砂土を用いる。新規造成圃場では前植生の処理および床土は、不要な場合もある。 畦畔法面では灌水が難しいため、シバの植栽は入梅期6月に実施、植栽年には9月に1回、次年からは5月、7月および9月の年3回の刈取りで、おおむね2年から3年で芝生畦畔が成立する。
    本技術は、競技場や公園緑地のシバ植栽で用いるZN工法に基づき、近中四農研とZN工法を有するゾイシアンジャパン株式会社(広島県神石高原町)が共同開発した。
    施工説明書を2015年11月に公開予定。

具体的データ

図1~2,表1~2

その他

  • 中課題名:中小規模水田に対応した生産性向上のための輪作システムの確立
  • 中課題整理番号:111b4
  • 予算区分:交付金、委託プロ(低コスト)、その他外部資金(地域再生)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:伏見昭秀、橘雅明、長沼和夫(ゾイシアンジャパン株式会社)
  • 発表論文等:
    1)伏見ら (2014) 芝草研究、42(2):130-136
    2)伏見ら (2015) 芝草研究、43(2):163-167