殺線虫剤削減にむけた砂質土壌におけるサツマイモネコブセンチュウ被害予測

要約

徳島県内砂質土壌のサツマイモ栽培圃場において、植付準備前圃場の土壌を対象として分子生物学的手法を用いることにより、サツマイモのネコブセンチュウ被害を予測できる。その結果、殺線虫剤処理の要否が判別でき、使用量を削減できる。

  • キーワード:砂質土壌、サツマイモネコブセンチュウ、殺線虫剤、リアルタイムPCR
  • 担当:環境保全型農業システム・環境保全型野菜生産
  • 代表連絡先:電話 0773-42-0109
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・環境保全型野菜研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農業現場において、科学的に病虫害を予測する方法は広く普及しておらず、不必要な農薬使用がみられる。土壌締固め法を介したリアルタイムPCRによる植物寄生性線虫数推定方法(以下、分子生物学的手法)は、従来法に比べ、迅速かつ高精度に土壌中の植物寄生性線虫数の推定が可能なため(2010年度研究成果情報「土壌締固め・定量PCR報による迅速・高精度なキタネグサレセンチュウ密度の推定」)、植物寄生性線虫による被害予測に適しており、線虫害対策の農薬使用の要否を判断することが可能と想定される(Min et al. 2012)。徳島県北東部のサツマイモ「なると金時」栽培圃場において、定植前に、サツマイモネコブセンチュウ(以下、Mi)害対策と立枯病対策として、土壌消毒剤を主とした薬剤が2度使用される。そこで、現地実証として、Mi密度を分子生物学的手法によって推定し、Mi要防除水準(100頭/乾土20g)を用いて、サツマイモへのMi被害を予測し、Mi害対策として用いられる殺線虫剤の使用の要否が判断できるかを検証する。

成果の内容・特徴

  • 植付準備前のサツマイモ栽培圃場について、それぞれプロット(1m×1.5m)を設定し、(土壌)表層-30cm深から5点法で土壌を採取し、分子生物学的手法を用いてMi密度を推定する(図1)。圃場ごとにMi密度は異なり、要防除水準以下のMi密度だった6プロットはMi害対策の薬剤は不要であると判断される(表1)。
  • 全ての調査プロットにおいてMi害対策の薬剤を使用せずに栽培したサツマイモ塊根・側根の被害度と出荷品質は、Mi被害対策の薬剤が不要と判断された調査プロット全てで、被害度は低く、出荷品質もすべて「秀」レベルである。一方、薬剤が必要と判断されたプロットでは、被害度は高く、出荷品質も低下する。
  • 徳島県北東部砂質土壌におけるサツマイモのMi要防除水準(100頭/乾土20g)は、高い精度でMi被害の有無を予測でき、殺線虫剤使用の要否を評価できる。以上の結果から、Mi 要防除水準以下と診断された圃場において、殺線虫剤を使用せずに品質を低下させずサツマイモが栽培でき、労力やコストを削減できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:青果・加工用サツマイモ生産者。ただし、出荷基準、土質や地域が異なると要防除水準は異なるため、各産地において、本手法を用いて要防除水準を設定する必要がある。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:本手法および要防除水準を用いた線虫害予測の普及が想定されるのは徳島県北東部砂質土壌サツマイモ栽培圃場(約250ha)。
  • その他:デザイナーフーズ株式会社にて有料(¥6,000程度)で分子生物学手法による線虫密度の推定が可能である。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:土壌病虫害診断と耕種的防除技術開発による野菜の環境保全型生産システムの構築
  • 中課題整理番号:153a2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2014年
  • 研究担当者:佐藤恵利華、阿部成人(徳島県立農林水産総合技術支援センター)、松﨑正典(徳島県立農林水産総合技術支援センター)、和田健太郎(徳島県立農林水産総合技術支援センター)、服部玄(デザイナーフーズ株式会社)
  • 発表論文等:
    1)Min YY. et al. (2012) Nematology 14(3):265-276
    2)Abe N. et al. (2015) Appl. Entomol. Zool. 50(2):255-261
    3)佐藤(2014)「分子生物学的手法を用いたセンチュウ密度と被害程度の予察」平成26年度近畿地域マッチングフォーラム