小麦ふすま「自己消化物」の非アルコール性脂肪性肝炎モデル動物に対する効果

要約

血圧上昇抑制ペプチドを含む小麦ふすま自己消化物を摂取した非アルコール性脂肪性肝炎モデルマウスでは、肝組織の病変が改善され、血清トリグリセリド濃度が低下し、炎症系の転写因子の活性化が抑制される。

  • キーワード:小麦ふすま、非アルコール性脂肪性肝炎、肝臓、生活習慣病
  • 担当:食品機能性・代謝調節利用技術
  • 代表連絡先:電話 0877-62-0800
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・作物機能開発研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

食生活の欧米化に伴い生活習慣病の急激な増加が社会問題となっている。非アルコール性脂肪性肝疾患は、生活習慣病の肝臓における表現型であり、国内成人の罹患率は10~30%と推定され、うち10~20%は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と推定されている。これらの治療には、脂質改善薬、糖尿病改善薬、抗酸化剤などが使用されている。小麦ふすまの自己消化物はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害ペプチドを含むが、ACE の代謝物であるアンジオテンシンⅡは肝星細胞を活性化して肝臓の線維化を促進することが報告されており、アンジオテンシン受容体ブロッカーやACE阻害剤がNASHの進行を抑制する可能性が示唆されている。そこで、粗精製した小麦ふすま自己消化物のNASHモデルマウスに対する改善効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • NASHモデルマウスの肝組織像の比較では、対照検体はNASHに特徴的な脂肪滴、風船化細胞が多数観察され、かつ肝細胞周囲の線維化も進行するのに対し、小麦ふすま自己消化物0.1%および0.2%投与検体はこれらの組織の変性程度が低い(図1)。それゆえ、小麦ふすま自己消化物はNASHモデルマウスの肝組織の変性を抑制する効果をもつ。
  • 血液生化学検査では、血清トリグリセリド濃度は対照群と比べて0.1%および0.05%投与群で有意に低下する(図2)。したがって、小麦ふすま自己消化物はNASHモデルマウスの脂質異常症を改善する効果をもつことが推察される。
  • 炎症の発症や進行に関与する転写因子であるNF-κBは、リン酸化(Ph-NF-κB)により活性化するが、活性体量は小麦ふすま自己消化物の0.2%投与群で有意に低下する(図3)。したがって、小麦ふすま自己消化物はNASHモデルマウスの肝臓の炎症を抑制する効果をもつことが推察される。

成果の活用面・留意点

  • 小麦ふすま自己消化物は、小麦ふすまを水に浸漬し、pH3.2、40°C で12時間自己消化し、イオン交換クロマトグラフィーでACE阻害活性を高めた画分であり、その50% 阻害濃度は90μg/mLである。
  • マウスの一日当たりの摂取量は、0.2%投与群が220 mg/kgであり、10週間の投与期間中の体重、および投与終了後の肝/体重比は対照群と投与群との間に有意差は認められない。
  • 小麦ふすま自己消化物を食品素材として利用する際の知見となる。
  • 実用化のためには有効成分の特定やヒトでの効果の検証が必要になる。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:代謝調節作用に関する健康機能性解明と有効利用技術の開発
  • 中課題整理番号:310b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:野方洋一、阿部大吾、斉藤武、上野隆登(久留米大)
  • 発表論文等:
    1)野方ら「小麦ふすま、大麦糠、または米糠に由来するペプチドを含む脂肪性肝疾患を処置するための組成物」特開2014-84280 (2014年5月12日)
    2)Ueno T. et al. (2013) J. Hepatology 58(Suppl.): S526-S527