散水設備を持つ棚田跡地圃場への拍動灌水システムの導入方法

要約

平坦農地での利用が前提である拍動灌水システムは、水位調整タンクの利用により、棚田跡地のような段差のある圃場にもおいても灌水作業を自動化できる。各段の既存配管を活かして、散水設備を低コストで本システムに置き換えることができる。

  • キーワード:棚田跡地、拍動灌水装置、点滴灌水、水位調整タンク
  • 担当:総合的土壌管理・広域環境動態モデル
  • 代表連絡先:電話084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・営農・環境研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

広島県内のアスパラガス栽培圃場などでは散水設備が普及しているが、段差のある圃場では、灌水作業は区画ごとにゲートバルブを開閉して順次行う必要があり、労力軽減が求められている。一方、太陽電池で駆動するポンプを利用した拍動灌水装置は、灌水量が日射に依存する自動点滴灌水装置であり、主に平坦農地への導入が進んでいる。そこで、拍動灌水システムの、段差のある圃場への既存設備を活かした導入手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 段差のある圃場に導入する拍動灌水システムは、最上段に灌水するための標準的な拍動灌水装置、二段目以降に灌水するための水位調整タンクにより構成される(図1)。
  • 棚田跡地の圃場(図2)で使用されている既存灌水設備の散水管を、圧力補正機能や水だれ防止機能のない点滴チューブに置き換える(図3)。
  • 上段の既存配管内の水が下段へ移動しないように、既存灌水設備のゲートバルブのうち、段差を区切るものはすべて閉じた状態にしておく。
  • 最上段では、塩ビ管の継ぎ手を使用して拍動タンクから既存の灌水用の配管に水を導入できるようにする(図3)。
  • 二段目以降は、拍動タンクの代わりに、当該段の一段上に設置した水位調整タンクから既存の灌水用の配管に水を導入できるようにする。水位調整タンクは灌水する圃場面から1.5m程度の高さに揃えるように設置する(図1)。
  • 水源から水位調整タンクへの水の導入にはボールタップを使用し、水位調整タンク内の水位を一定に保つ。これにより、すべての段で水圧を1.5m水柱程度とすることができる(図1)。
  • 拍動タンクからの灌水および各段の水位調整タンクからの灌水制御は、電磁弁の開閉により行う。各電磁弁は1つの拍動灌水装置の制御装置に、ケーブルを延長して並列に接続することで同時に開閉可能であり、すべての段で、同時かつ自動で灌水することができる(図1)。
  • 段差に対応した拍動灌水システムのアスパラガス栽培圃場(4段18アール;図2)への導入費用は約60万円であり(表1)、償却期間を7年とすると年あたり9万円弱となる。散水灌水に必要な労働時間(図2の圃場では年間約50時間)が軽減されるとともに、点滴灌水では畝間がぬかるまないために収穫などの作業が容易になる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:圃場面が水平な棚田跡地など段差のある圃場で散水設備を持つ野菜農家
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:広島県、大阪府、岡山県、香川県
  • その他:既存の散水設備がない場所では追加の配管資材が必要となる。原理的には段差の大きさや段数に制限はないが、電磁弁のケーブル長(単独使用の場合のカタログ値で5,000m)と水源の容量が灌水可能面積の制限要因となる。段差のある圃場への拍動灌水システム導入方法に関してマニュアルを作成予定。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:環境負荷物質の広域動態モデル策定と生産技術の環境負荷評価法の開発
  • 中課題整理番号:151b0
  • 予算区分:交付金・競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:笠原賢明、松森堅治、渡邊修一
  • 発表論文等:
    1)笠原ら(2016)近中四農研報、15:27-33
    2)笠原ら「段差のある圃場への拍動灌水システム導入方法」(2016年春公開予定)