プレスリリース
新素材コートの自脱コンバインで朝・夕の収穫が可能に

- 収穫物選別部をフッ化樹脂コートした自脱コンバインを開発 -

情報公開日:2010年7月 6日 (火曜日)

ポイント

  • コンバインの収穫物選別部をフッ化樹脂コートすることにより、朝露等で湿った作物の収穫ロスを低減。これにより、これまで収穫物の水分割合が高く収穫作業を避けていた朝夕の作業が可能に。
  • 脱穀時のつまり等の防止と選別性能の向上で、コンバインの燃料費を約10%低減。

概要

  • (独)農研機構【理事長 堀江 武】生研センターでは、朝露等で湿った作物の収穫の際に問題となっていた、選別装置への付着等による収穫ロス等を大幅に改善した自脱コンバインを三菱農機株式会社と共同で開発し、実用化に向けた実証試験を重ね、この度完成しました。
  • 収穫量が増加した場合や水分が高い場合に、脱穀時のわらくず等のつまりを逃がすことができる送塵弁開度制御機構を搭載したコンバインが昨年度、市販化されましたが、新たにフッ化樹脂コートを選別部に施し、装置への籾の付着を大幅に軽減したコンバインを開発しました。
  • 本技術の適用により、コンバイン内部で籾殻を選別する揺動選別部の処理能力が向上し、朝露等で湿った作物を収穫する時の選別損失を抑えることができ、これまで作物の水分割合が高いため避けていた朝夕の収穫作業ができるようになります。また、脱穀時のつまり等の防止と選別性能の向上により、省エネルギー化も図ることができ、今後のコスト削減が期待できます。本技術は、今後市販される自脱コンバインに逐次採用される予定です。

予算

運営費交付金
共同機関:三菱農機株式会社農林水産省委託費
(担い手の育成に資するIT 等を活用した新しい生産システムの開発
「超低コスト土地利用型作物生産技術の開発」)


詳細情報

開発の背景

穀物収穫は作業適期が限られていることから、1日あたりの収穫時間を増やすことができれば、機械1台あたりの収穫面積を増やすことができます。これにより、同じ台数の収穫機で作業適期に収穫可能な面積が大きくなり、単位面積あたりの機械償却費を抑えることができます。さらに燃料費を抑えることで、生産費の低減を図ることができます。一般に、朝露等で湿った穀物で収穫ロスが多くなることを避けるため、例えば、コンバインによる水稲の収穫時刻は午前10時から午後4時までの間に行うことが推奨されており、1日の稼働時間は6時間程度に制限されてしまいます。これを前後1時間ずつ増やせば、稼働時間は8時間となります。また、湿った穀物を収穫すると、揺動選別部に穀粒が付着するなどして、脱穀選別損失や収穫作業に必要な所要動力が急増するなどの問題があり、これらを解決する技術が求められてきました。

開発の経緯と技術の概要

  • 自脱コンバインの選別部は、比重選別やふるい分けを行う揺動選別部と仕上げを行う空気選別部とに分かれ、選別の中心となる揺動選別部は、グレンパン、チャフシーブ等から構成されています(図1)。脱穀部の受け網から漏下した穀粒や小さなわらくずの多くはグレンパン上に落下し、グレンパンの揺動運動によって比重が重い穀粒と比重が軽いわらくずの層に分離されながらチャフシーブへ移動します。チャフシーブではファンによる風の働きとチャフシーブフィンの作用によって穀粒とわらくずにふるい分けられ、穀粒はグレンシーブから1番オーガへと漏下していきます。
  • 穀粒やわらくずの水分割合が高い場合、従来の機械では、グレンパンへの付着やチャフシーブフィンでのつまりが発生し、選別損失が急増してしまいます。そこで、籾の付着防止を期待し、揺動選別部にフッ化樹脂コートを施しました(図2)。穀粒等の水分割合が高い午前9時および午後5時の脱穀選別損失は、従来機では2%となり、国が定める検査基準(2%未満)を超える危険性があります(図3)が、開発機では、選別損失が2%未満となり、作業時間の拡大が可能となりました。
  • さらに、通常の作業時間帯においても、フッ化樹脂コートを施すことにより、従来機に比較して選別能力が向上し、省エネ効果をもたらすことが認められました(図3)。

開発技術の実用化の概要

  • 実用化に向けた実証試験を行った結果、フッ化樹脂コートを施した揺動選別部を搭載した2条~4条刈り自脱コンバインが完成しました。
  • 揺動選別部のグレンパンおよびチャフシーブフィンのみに部分的にフッ化樹脂コートを施した場合でも、選別部全面に施した場合と同様の効果があり、全面に施した場合と比べ加工コストを低減することができました。
  • 脱穀時のわらくず等のつまりを逃がすことができる送塵弁開度制御機構の効果等と併せることによって、コンバイン全体の燃料費を約10%低減することができました。

今後の予定・期待

開発した機構は、三菱農機株式会社より、平成22年度から発売するコンバインに逐次採用予定です。本成果の普及により、収穫時のコンバインの稼働時間の拡大と収穫ロスの低減、省エネルギー化による収穫時のコストの削減が期待されます。

図1 自脱コンバインの選別部の構造

図2 フッ化樹脂コートを施した揺動選別機構の概要

図3 脱穀所要動力および脱穀選別損失の日変化測定結果(三菱農機株式会社製2条刈り自脱コンバイン)