プレスリリース
野菜接ぎ木作業の省力化に貢献

- 野菜接ぎ木装置用自動給苗装置を開発 -

情報公開日:2010年4月13日 (火曜日)

ポイント

  • 自動給苗装置によりワンマンで高能率な接ぎ木作業を実現

概要

(独)農研機構【理事長 堀江 武】生研センターでは、井関農機株式会社との共同研究で、自動給苗装置を備えたウリ科野菜用の接ぎ木装置を開発し、これによって全自動化を達成しました。この装置は、苗の取り出しから切断・接合までの一連の接ぎ木作業を自動で行います。個々の苗を人力供給する従来の半自動接ぎ木装置では3名必要であった運転要員を、セルトレイの補給者1名のみに減らすことで、接ぎ木作業の大幅な省力化を実現しました。

予算

運営費交付金

協力機関

井関農機株式会社

特許

特開2005-229885、特開2006-238805、特開2006-238806、特開2006-215712、特開2007-304911


詳細情報

開発の背景と経緯

  • 接ぎ木苗は、果菜類生産において不可欠なものとなっており、その利用割合は約60%、ウリ科のスイカとキュウリに限れば約80%に達しています。 接ぎ木は高品質化、多収量を目的とする一方、近年では農薬使用量を低減できる環境に負荷を与えない栽培技術として、世界的に接ぎ木栽培への関心が高まっています。
  • 1994年に農業機械等緊急開発事業を経てウリ科野菜用接ぎ木ロボット(以下、「緊プロ機」)が実用化されて以降、ウリ科野菜類の栽培では接ぎ木苗を購入する農家が増加しており、現在では、接ぎ木栽培面積の35%で購入苗が利用されています。
  • 現在、緊プロ機は、国内の接ぎ木ロボットの約80%のシェアを占めていますが、苗を手で供給する半自動型であるため、装置の運転には、少なくと も苗運搬等の補助者1名と装置への苗供給者2名の計3名が必要になります。苗需要が増加する中、接ぎ木装置の省力効果向上等の改良が要望されています。
  • そこで、2004年度から次世代農業機械等緊急開発事業の課題として、ワンマン作業が可能な接ぎ木装置の全自動化を図るため、井関農機株式会社と共同で、セルトレイから自動で苗を1本ずつ取り出す自動給苗装置の開発に着手しました。
  • 基礎試験の後、2006年から3年間にわたりJAの種苗センターや苗生産業者のもとで現地試験と改良を重ね、自動給苗装置を備えた全自動接ぎ木装置の実用化の見通しを得ました。

全自動接ぎ木装置の構造と機能

  • 本装置は、接ぎ木作業部と、穂木用・台木用の各給苗部で構成されます(図1)。
  • セルトレイを給苗部のベルトコンベアにセット(図2)して、スタートスイッチを押すだけで、一連の接ぎ木動作が自動で行われます。
  • 給苗工程では、苗高さや子葉の展開方向が揃っていなくても、接合工程で所定の部位を正確に切断できるよう、苗の高さ揃えと子葉方向揃えが行われます。
  • 苗の高さ揃えは、給苗部に備えられた保持ハンドが、子葉の付け根を吊り下げることで行います(図3)。
  • 苗の子葉方向揃えは、苗を吊り下げている保持ハンドを前後に揺動させ、苗の子葉をガイド板に接触させることで行います(図4)。
  • 接ぎ木作業部の苗受け部には欠株センサが設けられています。センサが苗を検出できない場合には、再度給苗動作を行うようになっているため、作業前にセルトレイ内の欠株を補填しておく必要はありません。
  • 接ぎ木作業部は、緊プロ機の機構をベースにしつつ、苗の切断方式の見直しなどの改良を加え、切断精度や接合精度の向上および調節の容易化を図っています。

図1 全自動接ぎ木装置の外観、表1 全自動接ぎ木装置の主要諸元

図2 セルトレイの補給風景

図3 苗の高さ揃え、図4 苗の子葉方向揃え

全自動接ぎ木装置の性能

  • キュウリおよびスイカ接ぎ木の接ぎ木成功率はいずれも95%以上、また、接がれた苗の活着率はいずれも90%以上で、人手で給苗する従来の緊プロ機利用体系(以下、「従来体系」)と同程度の作業精度をもっています。(表2)。
  • 装置の運転はセルトレイ補給要員1名のみで、接がれた苗を植え付ける作業者1名とを合わせて2名で接ぎ木作業が行え、従来体系と比べ半減できます。
  • 現地試験の結果では、接合作業能率は毎時約800本で、従来体系と比較すると、1人当たり接合作業能率は4.1倍、接がれた苗の植え付けまでを 含めた1人当たり接ぎ木作業能率は2.2倍となりました。また、手作業(片葉切断接ぎ)と比較すると、1人当たり接合作業能率は5.4倍、1人当たり接ぎ 木作業能率は3.4倍となりました。

表2 全自動接ぎ木装置の作業精度

全自動接ぎ木装置の利用効果

  • 接合作業が自動化されるため、熟練労力の確保が難しい場合でも、接ぎ木苗生産が可能になります。
  • 自動給苗装置による省力化でさらに人件費の低減が期待できます。
  • 手作業における細かい接合操作、あるいは従来体系における苗供給のための長時間の単調作業から解放され、軽労化が図れます。

今後の予定・期待

2010年5月に市販化の予定です。