プレスリリース
水稲・麦・大豆等が収穫できる小型汎用コンバインを開発中

情報公開日:2011年9月 6日 (火曜日)

ポイント

  • これまで専用機が必要であった収穫作業が、これ1台で可能に

概要

(独)農研機構【理事長 堀江 武】生研センターでは、第4次農業機械等緊急開発事業において、三菱農機株式会社と共同で、小区画ほ場における水稲・ 麦・大豆・ソバ・ナタネ等の多様な作物の収穫ができる小型の汎用コンバインを開発中です。開発機は平成23年度中の市販化を目指しています。

開発機は4条刈り自脱コンバイン程度の大きさで4tトラックに積載可能であること、刈幅は1.5m程度であること、他の作物に比べて脱穀負荷が大きい水稲収穫においても作業速度が1.0m/s程度であることなどを目標に開発が進められています。

開発機には、農研機構で開発した狭ピッチ切断部、送塵弁開度制御機構、フッ化樹脂コートを施した揺動選別部、土抜き用スリット等の新技術を導入することで、目標性能を達成しようとしています。

予算

運営費交付金


詳細情報

開発の背景と経緯

汎用コンバインは、水稲、麦、大豆、ソバ、ナタネ等の収穫作業を1台で行うことができ、資材費低減の観点から重要な機械です。しかし、脱穀負荷の大きい水稲を含む作物を高能率に収穫するため、大型の脱穀機構を採用する必要があり、市販機は最小機種でも刈幅が2mとなり小区画ほ場には適しませんでした。

大豆用コンバインは、中山間地などほ場が小区画で分散した地域において活用されており、大豆、麦等に多く利用されています。ただし、水稲は刈取り作物の対象となっていないため、自脱コンバインと大豆用コンバインを同時に所有する必要があり、生産コストが増大する原因の1つとなっています。

そのため、経営費の抑制を図ることができる小型で作業効率の高い汎用コンバインの開発が求められています。

そこで、平成20年度からの第4次農業機械等緊急開発事業において、(株)三菱農機と共同で、小区画ほ場における稲、麦、大豆、ソバ、ナタネ等の多様な作物を収穫できる小型の汎用コンバインの開発を進めています。

小型汎用コンバインの概要

  • 小型汎用コンバイン(開発機)は、全長4.8m、全幅2.1m、全重3.5tであり、4条刈り自脱コンバイン程度の大きさです(図1)。刈幅は1.7mで、水稲(条間30cm)では、5条刈取ることができます。また、市販の汎用コンバイン(刈幅2mタイプ)では長距離の移動に大型トラックが必要でしたが、開発機では4tトラックに積載可能なため高い機動性を確保できます(図2)。
  • 開発機では脱穀部こぎ胴のサイドカバーが跳ね上げ式になっており、受け網の交換を容易に行うことができます(図3)。また、揺動選別部は自脱コンバインと同様にスライド式で引き抜くことができ、内部の清掃を効率的に行うことができます。
  • 開発機に導入を予定している新技術は、次の「狭ピッチ切断部」、「送塵弁開度制御機構」、「フッ化樹脂コートを施した揺動選別部」、「オーガの土抜き用スリット」です(図4)。
    (1)狭ピッチ切断部:通常の切断部の刈刃および受刃のピッチは3インチですが、狭ピッチ切断部は2インチと狭くなっています。狭くすることで切断時の作物の動きを抑え、大豆等の頭部損失低減に効果があります。
    (2)送塵弁開度制御機構:送塵弁は、こぎ室内の収穫物滞留時間を調整する機能があり、一般に、送塵弁を開くと脱穀動力が小さくなりますが、ロスが大きくなります。逆に、送塵弁を閉じると、ロスは減りますが、脱穀動力が大きくなります。送塵弁開度制御機構は、収穫物が過度に滞留し送塵弁にある一定以上の力が作用すると、送塵弁が開いて一時的に混合物を逃し、脱穀動力を安定化できます。この機構を使う事により作物条件が変化した場合でも安定的に作業することが可能となり、脱穀動力を低減することができます。
    (3)フッ化樹脂コートを施した揺動選別部:選別部にフッ化樹脂コートを施すことで、装置への籾とわら屑の付着を大幅に軽減しました。このことにより、コンバイン内部で籾とわら屑を選別する揺動選別部の処理能力が向上し、朝露等で湿った作物を収穫する時の選別損失を抑えることができ、これまで作物の水分割合が高いため避けていた朝夕の収穫作業ができるようになります。
    (4)オーガの土抜き用スリット:グレンタンク以降の穀粒搬送経路に収穫穀粒に混入した土を抜くためのスリットを設けました。この効果と、揺動選別機構にフッ化樹脂コートを施したことによる効果で、大豆の汚粒発生を低減させることができます。

作業性能

  • 水稲収穫試験では、適期の作物条件では作業速度約1m/sで作業でき、高水分や脱粒性難の品種のような難条件でも、作業速度0.7m/s程度で作業可能でした。脱穀選別損失は、わら流量が6t/h程度で約2%であり、市販の汎用コンバインと同程度の性能であると推察されました。また、送塵弁「閉」で損傷粒割合は増加し、枝梗付着粒割合および穂切れ粒割合は低減しました。送塵弁により穀粒口の品質を調整できることから、品種、作物条件等に適応した送塵弁の設定方法を今後明らかにする予定です。
  • 麦収穫試験では、最高作業速度は1.4m/s程度で、脱穀選別損失は大麦および小麦ともに1%未満、大麦の損傷粒発生割合は0.1%未満であり、生産者からも良好な評価を得ることができました。
  • 大豆収穫試験では、最高作業速度は1.4m/s程度で、頭部損失は3%程度、脱穀選別損失は1%未満でした。中粒の品種では、地元の検査員から外観品質について良好であるとの評価をもらいました。しかし、大粒の品種では排出オーガからの穀粒に若干割れ粒の発生が見られたため、品種に適応した部品を用意する予定です。

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今後の予定・期待

平成23年10月6日に岩手県遠野市で現地検討会を実施します。また、本開発機は、平成23年度中の市販化を目指しており、稲・麦・大豆等の穀物生産の低コスト化に貢献していきます。