プレスリリース
放射性物質除染のためのプラウによるほ場表層土の埋没試験

情報公開日:2011年9月20日 (火曜日)

ポイント

  • 表層土の埋没深さは、プラウの耕深にほぼ比例して深くなりました。
  • 耕起された土が耕起前の状態まで沈下した後の表層土の平均埋没深さ(推定値)は、耕深約22cmで13cm程度、耕深約28cmで19cm程度、耕深約42cmで27cm程度、耕深約45cmで34cm程度でした。

概要

先の福島第一原発事故後の、農地土壌等における放射性物質除去技術については、農林水産省の指導の下、農研機構ほかの機関が協力して、物理的手法(表層土除去等)、化学的手法(カリ肥料の施用等)、生物学的手法(植物による吸収等)の効果の検証を実施中です。農研機構【理事長 堀江 武】生研センターでは、このたび、農林水産省の依頼を受け、表層土除去以外の方法として、プラウ(土壌を反転耕起する機械)による表土の埋没による除染の可能性を検討するため、スガノ農機株式会社と共同で試験を行いました。

予算

運営費交付金


詳細情報

試験の背景と経緯

東京電力福島第一原子力発電所の事故により、放射性物質による農地土壌の汚染が大きな問題となっています。被害を低減させるには、大量の土を移動しなければならず、また、移動先も確保しなければならない問題があります。プラウでほ場表層の土を下層にすき込む方法ではこれらの問題が発生せず、放射性セシウムが土壌に強く保持されることから、作業者の外部被曝や作物への放射性物質の吸収を抑制できることが、チェルノブイリ原子力発電所の事故後の研究において実証されています。そこで、標準的なプラウと、より深い耕起が可能な深耕プラウを供試し、プラウ耕の耕深と表層土の埋没深さの関係を明らかにしました。

試験方法

標準プラウと深耕プラウ(図1)を供試し、目標耕深を(水稲作では作土層の厚さが15~20cmであることを目安にして)20・30・40cmの3段階に設定し、黒ボク土(湿潤密度1.2~1.3g/cm3、液性指数0.3~1.8)と灰色低地土(湿潤密度1.2~1.6g/cm3、液性指数-0.2~0.2)の普通畑において、作業速度4.2~7.0km/hでプラウ耕を行い、表層土の埋没深さを測定しました。表層土の埋没深さは、1作業前に供試ほ場と色の異なる土を地表に約3cmの厚さで、進行方向に3箇所埋設して作業し、2作業後に耕起土を掘出して断面を露出させ、3露出部分に角パイプを水平に設置し、角パイプから埋没した表層土までの垂直距離を竹尺で横方向に2cm間隔で測定して算出しました。なお、耕起直後の土は膨軟な状態ですが、その後の整地作業と時間の経過で沈下し、作物が生育する頃には耕起前の地表面位置の付近に近づくものと推定されます。そこで、耕起直後の土が均一に耕起前の地表面位置まで沈下するものと仮定し、表層土の埋没深さは沈下後の値に換算して示しました。また、深耕プラウでは、ジョインタ(ほ場表面の残さをれき溝底へ落下させるための装置)の有無による埋没効果も調査しました。

試験結果

  • 耕起前に地表から深さ約3cmまでにあった表層土は、れき溝壁から1り体当たりの耕幅の2倍程度側方付近に、3~10cm程度の厚さですき込まれていました(図2、図3)。
  • 表層土の埋没深さは、耕深にほぼ比例して深くなりました。耕起された土が耕起前の位置まで沈下した時の表層土平均埋没深さは、耕深約22cm で13cm程度、耕深約28cmで19cm程度、耕深約42cmで27cm程度、耕深約45cmで34cm程度でした(図4)。この時の表層土平均埋没深 さは、耕深に対し、黒ボク土ほ場で約0.65倍、灰色低地土ほ場で約0.71倍、両ほ場の平均で約0.68倍でした。
  • 耕起された土が耕起前の位置まで沈下した時の表層土平均埋没深さの10パーセンタイル値(データを小さい順に並べた時のデータ数が小さい方か ら10%に相当するデータの値)は、耕深約22cmで9cm程度、耕深約28cmで16cm程度、耕深約42cmで22cm程度、耕深約45cmで 28cm程度で(図4)、表層土の約90%がこれらの深さ以下にすき込まれていました。
  • 平均耕深の差が2cm程度以下でプラウの仕様が同じ(ジョインタなし区同士)区の表層土平均埋没深さは、ほ場間で差がありませんでした(図4)。
  • 地表残さの埋没を促進するためのジョインタを使用した場合には、灰色低地土ほ場では表層土埋没深さが深くなる傾向がありましたが、黒ボク土ほ場では逆の傾向が見られました(図4)。

放射性物質除染のためのプラウによるほ場表層土の埋没試験

今後の予定

調査結果は農林水産省に報告済みで、今後行われる各種試験などの参考データとして活用していただく予定です。