プレスリリース
「農機安全eラーニング」からみた理解度の傾向

- 機体の安定性等についての理解度向上が重要 -

情報公開日:2012年4月17日 (火曜日)

ポイント

  • 農作業安全について効果的に学習できるシステム「農機安全eラーニング」の利用状況から、学習者の理解度の傾向を分析
  • 事故防止の啓発においては、機体が転倒しやすい理由や操作上の注意点、どのような事故が多発しているかなどについて、理解度向上が重要

概要

農研機構 生研センターでは、IT(情報技術)を利用し農業機械の安全使用について効果的に学習できる手段として「農機安全eラーニング」を開発し、平成22年6月よりホームページ「農作業安全情報センター」で公開してきました。春の全国農作業安全確認運動が実施される中、より効果的な啓発活動につなげるため、本システムへのアクセス数の解析により、学習者の安全使用に関する理解度の傾向を把握しました。

その結果、乗用トラクターと自脱コンバインでは機体の安定性について、歩行用トラクターでは事故の多さや後進時の挟まれについて、刈払機では最も多い事故の形態やキックバックの原因について、それぞれ関連する設問での不正解の割合が多く、これらの理解度の向上が事故防止の啓発にあたり重要であることが認められました。

関連情報

予算:運営費交付金(基礎基盤研究)

共同機関:東京大学(研究協定)


詳細情報

背景と経緯

  • 交通死亡事故や建設業等における死亡事故が減少する中、農作業による死亡事故はなかなか減らない状況にあります。死亡事故の原因別では、農業機械作業に伴うものが7割を占めており、機械の安全な使用方法について正しい知識を身につけることが非常に重要になっています。
  • このため、生研センターでは、インターネットやパソコンならではの利便性を活用して、乗用トラクター、自脱コンバイン、歩行用トラクター、刈払機の4つの機種について効果的な安全学習を可能にするeラーニングシステム「農機安全eラーニング」を開発し、平成22年6月からウェブサイト「農作業安全情報センター」で公開してきました。
  • 本システムは、利用者の方々が「いつでも」「だれでも」「どこでも」「くりかえし」学習できるシステムですが、他にも、アクセス状況を解析することで、学習者の理解度の傾向を把握し、結果をさらなる安全啓発等の対策に活用することが可能になっています。
  • 春の農作業安全確認運動が実施される中、生研センターも関係機関の一つとして、「農機安全eラーニング」の利用状況(平成22年7月~平成23年6月)の解析により学習者の理解度の傾向を把握し、効果的な啓発活動に役立てていただくこととしました。

結果の概要

  • 「農機安全eラーニング」の各コンテンツにおいて、学習ストーリを収録したメインファイルと、ストーリ内の各設問で不正解時に表示される各ファイルへのアクセス数を解析し、学習者全体の理解度の傾向を設問毎に把握しました。
  • 乗用トラクターと自脱コンバインでは、転倒しやすい理由、横方向の安定性、ほ場出入り時といった機体安定性に関する設問で不正解が多く見られました。一方、乗用トラクターの安全キャブ・フレームやシートベルトに関する設問での不正解は少数でした。
  • 歩行用トラクターでは、他の機種と比較して事故が多いことや、後進時の挟まれ事故に関する設問で、刈払機では、最も多い事故の形態とキックバックの原因に関する設問について、それぞれ不正解が多い傾向が認められました。
  • 別に実施した農業機械の安全性に関する農業者意識の調査結果では、「危険を感じるがやらざるを得ない作業」の上位に、乗用トラクターでは「ほ場出入り」や「バランスを崩しやすい作業」、自脱コンバインでは「ほ場出入り」、刈払機では「キックバックが生じやすい状況での作業」が挙げられ、不正解の多い設問と一致したことから、これらの危険作業に関する理解度を高めることが重要であることが示唆されました。
  • 特に乗用トラクターでは、安全キャブ・フレームへの理解度が高い反面、機体安定性等の理解度が不十分と推察されたことから、最も死亡事故が多い転落転倒を防ぐための啓発では、「機体の安定性が低いこと」や「操作上の注意点」が重要と考えられました。
  • 歩行用トラクターでは、後進時の挟まれ事故が転落転倒と並んで多いにもかかわらず、これを防ぐ安全な操作の認識が十分でないこと、刈払機では、刃の接触による事故が最も多いことへの理解度が低いことが推察され、これらの事故の低減に向けては、どのような事故が多発しているかについて、改めて十分な周知が必要と考えられました。

今後の予定・期待

今後も、本システムへのアクセス状況の解析を行い、その結果を踏まえてウェブサイト「農作業安全情報センター」による情報提供や啓発を行っていきます。また、安全講習会等で、インターネットが使えない場所での利用希望がある場合には、申出に応じて本システムや啓発資材等をCD-ROMで提供することとしております(無償、要申請書、問い合わせ先: anzen-info@ml.affrc.go.jp)。

なお3月より、「農機安全eラーニング」、およびウェブサイト「農作業安全情報センター」のURLがそれぞれ変更されました。新しいURLは以下のとおりです。

「農機安全eラーニング」http://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/el/

「農作業安全情報センター」http://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/anzenweb/

図1 「農機安全eラーニング」のメインメニューページ

図2 不正解が多かった設問例と解説(乗用トラクターで転倒しやすい理由)

図3 不正解が多かった設問例と解説(乗用トラクターのほ場出入り時の注意点)図4 不正解が多かった設問例と解説(歩行用トラクターの後進時挟まれ防止の注意点)表 アクセス数から見た学習者の理解度の傾向(調査期間:2010.7~2011.6)