プレスリリース
巻き込まれ事故防止に新技術

- 磁気センサと磁性体手袋で作業者を判別 -

情報公開日:2013年3月19日 (火曜日)

ポイント

  • 機械に供給中の「作物」と「作業者の手や腕」を非接触で判別
  • 磁性体を付加した手袋を磁気センサにより検出
  • 巻き込まれ事故を防止するための要素技術として期待

概要

農研機構 生研センターでは、この度、農業機械における巻き込まれ事故を防止するため、手作業で機械に作物を供給している時でも、作業者の手や腕の進入を検出できる要素技術を開発しました。

本技術は、手袋に付加した磁性体(鉄製のチェーン、磁石粉)を、磁気センサ(磁心コイル、MIセンサ)によって検出することで、作業者の手や腕を判別するものです。

今後は、本技術を自脱コンバインの手こぎ作業部などに適用し、巻き込まれ事故を未然に防ぐ方策として、平成25年度からの新規課題(期間は3カ年を予定)で実用化を目指します。

関連情報

予算:運営費交付金


詳細情報

開発の背景と経緯

  • 農業機械では、巻き込まれ事故が多く発生しています。この対策として、一般的にはカバー等によって巻き込まれ部位を隔離しますが、自脱コンバインの手こぎ作業やフォレージハーベスタの刈取部等のように、作業性や構造的な制約から適用困難な場合があります。
  • 他分野では類似の事故を防止するため、ライトカーテンによって作業者の有無や、加工対象と作業者の形状の違いを検出する手法(プレス機等)や、木材と作業者の静電容量の違いを検出する手法(丸のこ盤)等が利用されています。しかし、農業機械の場合は巻き込まれ部位に供給される作物の形状や水分条件が様々なため、これら技術の導入が困難です。
  • そこで、平成22年度から、農業機械へ適用可能な供給物と作業者の判別技術について検討しました。

開発技術の概要

  • 本技術は、磁気センサによって、磁性体を付加した手袋等を検出することで、作業者を判別します。磁気を利用するため非接触での検出が可能で、作物による遮蔽や水分による影響を受けません。
  • 使用した磁気センサは2種類あり、それぞれ検出対象や特徴が異なります。磁心コイルの場合は、市販の耐切創手袋に貼り付けられた鉄チェーンを検出します。また、センサの寸法を大きくすれば検出距離を拡大できます。MIセンサは、微弱に帯磁させた磁石の粉を塗った試作手袋を検出します。磁心コイルに比べて小型ですが、検出対象の動く方向によって反応が異なります。
  • 農業機械の巻き込まれ部位は、挟やく桿等の金属部品が動作しています。金属部品のほとんどが鉄製であり、検出対象と同じ磁性体であるためノイズの原因になります。そこで、自脱コンバインの手こぎ作業部を模擬した試験装置を試作してノイズの大きさを調査した結果、センサの取付位置の工夫や、金属部品の素材を非磁性体のステンレスに変更することなどでノイズの低減が可能となり、2種類のセンサともに試作装置の巻き込まれ部位を通過する手袋を検出可能な見通しを得ました。

図1 磁心コイルの試験装置への取付状況(左)と 鉄チェーンが貼付された市販の耐切創手袋(右) 図2 MIセンサの試験装置への取付状況(左)と 磁石粉を塗布した試作手袋(右上)

今後の予定

磁心コイルについては、適用する機械に組み込み可能な寸法と感度の条件について、MIセンサについては、安定的に検出信号を取得する方法について検討する必要があります。

また、平成25年度からの新規課題(期間は3カ年を予定)で、本技術を自脱コンバインの手こぎ作業部に適用し、機体振動の影響や作業性等も含めて検討を進め、実用化を目指します。

用語の説明

  • 磁性体:鉄のように磁石に付く性質を持つ物質のこと(磁石そのものも含む)。
  • 磁心コイル:磁石にコイルを巻いた磁気センサで検針器等に利用される。
  • MIセンサ:磁気センサのひとつで磁気-インピーダンスセンサのこと。アモルファス金属繊維(ガラスのように結晶構造を持たない金属の繊維)にコイルを巻いた形状で、従来の磁気センサに比べて高感度。
  • 磁気シールド:磁性体で磁気センサや磁石を覆うことで、周辺の磁気の影響を受けにくくしたり、磁気を外に漏れにくくすること。