プレスリリース
乗用型トラクター転落転倒事故の防止に寄与

- 片ブレーキ誤操作防止装置を開発中 -

情報公開日:2013年4月16日 (火曜日)

ポイント

  • 普段は常に左右ブレーキが連結、必要なときだけ片ブレーキ操作が可能
  • 片ブレーキ操作のための連結解除は、右足解除方式と左足解除方式を検討
  • 乗用型トラクターの転落転倒事故を低減するための対策として期待

概要

乗用型トラクターの転落転倒死亡事故は農機事故の約3割を占め、その原因の一つとして左右ブレーキペダルが連結されていない状態での誤操作が挙げられています。非連結状態で片方だけのペダルで急ブレーキを踏むと思わぬ急旋回が生じ、転落転倒の重大死傷事故を引き起こす場合があります。そこで、農研機構 生研センターでは、国内のトラクター製造企業5社と共同で、この種の事故を未然に防止するための装置の開発に取り組んでいます。

本装置は、これまでは移動の時だけ連結させていた片ブレーキについて、発想を逆転させ、耕うん作業の旋回時などで片ブレーキ1)操作が必要なときだけ、簡単な操作でブレーキ連結を解除して片ブレーキ操作を行うものであり、通常は連結した状態となります。現在、いくつかの方式について試験を重ねておりますが、これまでにない方式であるため、研究期間中から実際にトラクターを使う農業者の方々の意見も取り入れながら絞り込んでいく予定であり、平成26年度以降には各参画企業から発表される新車に順次搭載して、大きなトラクターから小さなトラクターまで展開していきたいと考えております。

関連情報

予算:第4次農業機械等緊急開発事業(第4次緊プロ事業)

参画企業:株式会社IHIシバウラ、井関農機株式会社、株式会社クボタ、三菱農機株式会社、ヤンマー株式会社


詳細情報

開発の背景と経緯

  • 乗用型トラクターの転落転倒死亡事故は農機事故の中でも最も多く、約3割を占めています。その原因の一つとして、左右のブレーキペダルを連結していない状態での誤操作が挙げられています。連結していない状態で片方だけのペダルで急ブレーキを踏むと、ハンドル操作をしなくても思わぬ急旋回が生じ、道路から転落転倒し、重大死傷事故につながる場合があります。
  • 現状ではこのような事故を防止するため、ほ場から退出する際には、ペダル部分にある連結部をロックする必要がありますが、足元に手を伸ばしての操作が煩わしいことから、連結を外したままにされてしまうことがありました。そのため、連結されていない状態を示す警告ランプが装備されていますが、長時間作業しているうちに見慣れ、認識されなくなる課題がありました。
  • これまでも、変速レバーが高速段に入ると自動で左右ブレーキが連結される装置など、自動でブレーキが連結される方法について研究が行われてきました。しかし、片ブレーキ誤操作による転落転倒事故2)は、ほ場進入路で発生しているケースなど低速時でも起こりうることから、自動で危険な状態を判別することが困難であり、実用化には至りませんでした。
  • そこで、平成23年度から、片ブレーキ操作が必要なときに、運転者が簡単な操作でブレーキ連結を解除して片ブレーキ操作を行うことができる装置の開発に取り組みました。

開発技術の概要

  • 本装置は、耕うん作業の旋回時などで片ブレーキ操作が必要なときに、運転者が簡単な操作でブレーキ連結を解除して片ブレーキ操作するものです。
  • 本装置は現時点で、ブレーキ連結解除の操作を右足で行う方式と左足で行う方式を検討中です。右足解除方式は、ブレーキペダル自体を横方向にスライドさせて連結を解除し、踏み込んで片ブレーキ操作を行う方式(図1)、ブレーキペダルの側部に設けたレバーをスライドさせて踏み込む方式(図2)、ブレーキペダルの直上に設けた解除用ペダルを下方にスライドさせて連結を解除し、踏み込む方式(図3)を検討中です。

    左足解除方式は、連結解除ペダルを左足で踏みつつ、右足でこれまで通りに片ブレーキ操作を行うもので、1連結解除ペダルを左足つま先付近に配置した方式(図4、5、6)と、左足かかと付近に配置した方式(図7)の2通りを検討中です。

    これに加えて、連結解除機能の入切を運転者の手元で切り替えることができます。切にすると解除ペダル等が動かない、あるいは操作しても連結が解除されない状態になります。
  • 現在、実際に耕うん作業等を行う中で片ブレーキ操作のやりやすさ、急ブレーキを踏んだときの連結の確実性などについて、農家の方々等のご協力を頂きながら、試験を重ねています。

図

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今後の予定

今後は、さらに操作方式に検討を加え、実用性の高い装置の完成を目指します。そして、平成26年度以降に各参画企業から発表される新車に順次搭載して、大きなトラクターから小さなトラクターまで展開していく予定です。

用語の説明

  • 片ブレーキ:乗用型トラクターには、左右の後輪に別々にブレーキがかけられるよう、ブレーキペダルが2つ付いている。耕うん作業などで作業効率を上げるため、次の行程の作業開始位置に速やかに移動できるように小回りに旋回するとき、旋回内側の後輪にブレーキをかけることを片ブレーキという。
  • 片ブレーキ誤操作による転落転倒事故:ある県の過去5年間(平成24年以前)の重傷死亡事故調査結果によれば、乗用型トラクターの転落転倒事故は28件あった。そのうち、明確な事故原因とは断定されてはいないが、ブレーキが連結されていなかったことが確認された事例が8件あり、路上走行時に発生した例が4件、ほ場への出入り時に発生した例が1件、ほ場内で作業中に発生した例が2件、作業中か移動中か定かでない例が1件であった。