開発の背景と経緯
リンゴの摘果は、着果後の5月から肥大が進む前の6月までに行う必要があり、作業適期が限られています。しかも、大規模果樹園では摘果作業に雇用労力を必要とするため、低コスト生産の実現の上でも、生産者から労力削減が強く望まれています。逆に小規模果樹園では、摘果作業が規模拡大の障害の一因となっています。
また、摘果作業は葉を避けながら果梗を1本1本切断する細かい手作業であり、ハサミによる開閉動作は腱鞘炎等の健康障害の一因とされることから、労働負担の軽減も望まれています。そこで、生研センターでは平成21年度から平成23年度まで3年間、リンゴやナシの摘果作業の省力化を目的に、摘果ロボット、摘果アシスト装置の基礎的研究に取り組みました。この結果に基づき、平成24年度からは、岩手県農業研究センター、(株)サボテンとともに、リンゴを対象とした手の負担を減らし摘果作業の効率化が可能な摘果ハサミの開発に着手し、岩手県のリンゴ園で実証試験を実施しました。
開発ハサミの概要
- 開発した摘果ハサミは各刃間最大開き角度35°の切断刃3枚、慣行ハサミと同じプラスチック製握りで、左右刃間の角度が変わっても常に中央に刃を配置させるリンク部品から構成されます(図1、2、表)。全長160mm、全重70gで、3枚組合わせた刃の形状・大きさがリンゴの果そうを同時に切断する全摘果に適しています。
- 使い方は、ハサミを開いて中央刃を果そうの中心果に向けて挿入し、通常のハサミと同じようにハサミを閉じます。慣行のハサミでは果そうの周囲の葉を切断しないで果梗を付け根から切り落とすために、果梗を1本一本切断していました。
- 中央刃によりハサミを果そうに挿入しやすくなったことで、周囲の葉を切り落とさずに同時に複数果梗の切断が可能となり、1度の開閉動作で全果梗が切断できる果そうの割合が慣行ハサミより多くなります。切断時の操作力は約5Nと小さく、ストロークも慣行ハサミと同等です。
開発ハサミの効果
- 「ふじ」、「つがる」ともに開発した摘果ハサミを利用することによって、1果そう当たりの開閉回数が慣行のハサミによる摘果より最大65%、平均29%低減し、1果そう当たりの摘果速度が最高27%、平均13%向上しました(図3)。
- 開発ハサミによる果梗切断長は10mm以下で慣行ハサミと同等でしたので、果実に傷をつけることはありませんでした。「ふじ」、「つがる」、「さんさ」などの主要品種を対象に、開発ハサミにより、5名作業で延べ10時間程度の摘果を行った結果、全員から「取扱性については慣行と同等であり、慣行より効率的である。」との評価を得ています。
活用面と留意点
既に開発された高機動型果樹用高所作業台車と組み合わせて、一層効果的に摘果作業の省力軽労化を行うことができます。また、通常のハサミとしても利用可能で、1果そうのうち1果残して摘果する1輪摘果にも利用可能で、リンゴだけでなく他の園芸作にも適用可能です
今後の予定
開発ハサミは、生産者によるモニター利用試験後、平成25年度に市販化予定です。
用語の説明
- 摘果 着果数を適正な数に制限して、果実の大きさ、品質を調節し、商品性の高い果実を作ることなどを目的に余分な果実を間引く作業
- 果そう 1か所から発生した果実の集まりのことであり、摘果時期のリンゴの場合、中心果1個、側果4、5個程度から構成されている
- 一輪摘果 果そう中の果実1個を残して他の果実を摘果すること。リンゴの一輪摘果の場合、通常、中心果を残す。
- 全摘果 果そう中の全ての果実を摘果すること
- 果梗 果実を支える軸