プレスリリース
小型汎用コンバインのソバ・ナタネ専用選別・精選装置を開発

- 小型汎用コンバインの利用拡大による低コスト化に貢献 -

情報公開日:2014年2月12日 (水曜日)

ポイント

  • 小型汎用コンバインのソバ・ナタネ専用選別・精選装置を開発しました。
  • この装置の装着により、ソバ及びナタネの穀粒損失を抑えられます。
  • 小型汎用コンバインを利用して1台で多数の作物を収穫することで、生産コストの低減が期待できます。

概要

農研機構と三菱農機(株)は、小型汎用コンバイン用のソバ・ナタネキット(交換部品)を開発しました。

小型汎用コンバインは、緊プロ事業で農研機構と三菱農機(株)の共同研究で開発され、中山間地や小規模区画の地域でも利用可能な汎用コンバインです。 このコンバインは、水稲、麦、大豆だけでなく、他の作物にも利用することで、収穫に要する機械費の低減が期待されます。そこで、水稲、麦、大豆のみならず、ソバやナタネでも高い性能を発揮するための専用の選別・精選装置(以下、専用キット)をオプションとして開発しました。

専用キットは、穀粒とそれ以外(茎稈やクズなど)を分離するための受網と搖動篩(ようどうふるい)の仕様が水稲・麦・大豆などの標準仕様と異なるものです。また、刈り取る作物と未刈作物との分離を容易にするための前処理装置として専用デバイダーを装着可能です。これらを用いることにより、ソバやナタネ等の収穫時の穀粒損失が低減できるとともに、多くの作物に汎用利用できることによって生産コストの低減が期待できます。

関連情報

予算:運営費交付金


詳細情報

開発の背景と経緯

汎用コンバインは、多様な作物を1台で収穫できるので機械費の低減が期待されます。しかしながら、従来サイズの汎用コンバインでは、機体が大きいことから、ほ場が中小規模でかつ点在した地域では自走での移動はできず、また、搬送には大型のトラックを必要とすることからも、導入は困難です。そのような地域で稲、麦の他に、大豆、ソバ、ナタネ等を収穫するには、自脱コンバイン(4条刈り程度)と大豆用コンバインの両方を用いる作業体系が一般的です。このため、コンバインを複数台所有することになり、機械費がかさみ、生産コストが高くなることが危惧されます。

そこで、農研機構生研センターでは、緊プロ事業において、中山間地や小規模区画の地域でも利用可能な小型汎用コンバインを開発しました。小型汎用コンバインは、水稲、麦、大豆だけでなく、他の作物にも利用することで年間作業時間や収穫面積が拡大し、収穫物に対する機械費が低減されることが期待されます。

小型汎用コンバインによる水稲、麦、大豆に加えて、ソバ及びナタネでも高い収穫性能を発揮する専用キット(交換部品)を開発しました。

開発機の概要

コンバインには、こぎ胴、受け網※1等で構成される脱穀部と揺動篩、とうみ等で構成される選別部とがあります(図1)。刈取られた作物は、こぎ胴の打撃と受け網との摩擦によって脱穀されます。受け網から漏下した穀粒と作物の断片(いわゆるクズ)は揺動篩上で移動しながらフィンの隙間から落下し、細かなクズはとうみの風で飛ばされ穀粒のみが集められます。ソバ及びナタネ収穫においてそれぞれの作物性状を考慮してより高い収穫性能を発揮するために開発された専用キットの構成とその効果は以下のとおりです。

1)ソバ専用キットとその効果
受網を格子状にすることにより、受網からの穀粒の漏下を高めます(図2)。あわせて、搖動篩のフィンの範囲を広くし、φ9mmの打抜鉄板を併用したキットに変更することにより、穀粒とクズを選別する能力を高めます。本キットを用いたソバの収穫作業において、作業速度1.4m/sの場合、脱穀選別損失6.3%、夾雑物割合0.8%および損傷粒割合0.2%で作業することができました(表1)。

2)ナタネ専用キットとその効果
受網は前部がクリンプ網※2、後部が格子状で構成することで、脱穀された穀粒とクズが揺動篩上の一部分に集まるのを防止します。搖動篩はソバと同様の構成です。本キットを用いたナタネの収穫作業では、作業速度1.4m/sの場合、脱穀選別損失1.9%、夾雑物割合0.1%で作業することができました(表2)。また、ナタネの枝が刈り取る条と隣接する条が絡んでいる場合には専用デバイダーを装着することにより、刈り取る作物と未刈作物を分離する効果を高めることができます。専用デバイダーはソバにも適用可能です。

3)フッ化樹脂コートの効果
標準仕様の小型汎用コンバインと同様に、専用キットの揺動篩にもフッ化樹脂コート※3が施されています。フッ化樹脂コートは、クズや汚れの付着を防ぐ効果があります。この効果によって、水分の高いソバでも搖動篩の表面への茎葉の付着を抑えることができ(図3)、フッ化樹脂コートを施していない場合と比較して脱穀選別損失を抑えることができました(表1)。

今後の予定・期待

日本国内の北海道以外の地域では、水稲の収穫に汎用コンバインはあまり利用されていません。これは、従来の汎用コンバインが大きすぎて小区画ほ場には適さないこと、日本で栽培される水稲の多くの品種は脱穀が困難な性質が強いため、日本型水稲への性能が追求された自脱コンバインよりも、多様な作物への対応が求められる汎用コンバインの作業能率が低くなりがちなこと等が主な要因です。

現在、農林水産省では生産コストの大幅な削減を目指しており、そのためには機械費の削減は必至です。小型汎用コンバインは、小型で機動性が高いことなどから北海道以外の地域においても導入が可能です。また、本機は水稲の収穫性能が従来のコンバインに比べて向上しており、3~4条刈り自脱コンバイン程度の能率で作業することができます。小型汎用コンバインを水稲、大豆、ソバ、ナタネ、雑穀など多様な作物に利用することで、新たな収穫作業システムを構築することができ、収穫コストの削減が期待されます。

用語の解説

※1 受網: こぎ胴の下側にある(図2参照)。穀粒を脱穀し、選別部へ漏下する。

※2 クリンプ網: 網状の格子鉄線に、予め波型(クリンプ網)加工を施して編み込んだ金網(図1脱穀部参照)。

※3 フッ化樹脂コート: フッ素樹脂によるコーティング。水や油を弾きやすい、摩擦が小さく滑りやすい等の特徴があり、フライパン等にも利用されている。フッ素樹脂コートともいう。

 

小型汎用コンバインの脱穀部・選別部(標準仕様)

 

ソバ収穫時の脱穀部・選別部(格子状の受網)

揺動篩の構造とソバ収穫後の茎葉の付着状況

ソバ収穫における作業精度ナタネ収穫における作業精度