プレスリリース
飼料用イネなどが一部の除草剤に弱いことが判明

情報公開日:2010年3月26日 (金曜日)

ポイント

  • 飼料用イネなど、新規需要米向けの水稲品種の中に、特定の除草剤成分に極めて弱いもののあることが分かりました。
  • 水稲品種「ハバタキ」「タカナリ」「モミロマン」「ミズホチカラ」「ルリアオバ」「おどろきもち」「兵庫牛若丸」を栽培するときには、ベンゾビシクロン、メソトリオン、テフリルトリオンのいずれかの成分を含む除草剤を使用しないよう十分注意してください。

概要

農研機構 中央農業総合研究センター【所長 丸山清明】は、飼料用イネなど新規需要米向けに開発された水稲品種の中には、ある特定の成分を含む除草剤を使うと、場合によっては枯れてしまうほどの影響が生じる7つの品種があることを明らかにしました。

★除草剤成分の影響を強く受ける7つの水稲品種:
「ハバタキ」「タカナリ」「モミロマン」「ルリアオバ」「ミズホチカラ」「おどろきもち」「兵庫牛若丸」

★注意すべき3つの除草剤成分:
ベンゾビシクロン、メソトリオン、テフリルトリオン

  • これら7品種はいずれも最近育成された多収性の品種で、飼料用イネや米粉など新規需要米向けとして優れた特徴をもち、各地の水田で栽培されています。
  • 注意すべき3つの除草剤成分は、いずれも類似した作用特性を持ち、多くの植物を白化させて枯らします。
  • ベンゾビシクロンは、これまで広く使われてきた除草剤が効かない雑草(特にイヌホタルイ)の防除に極めて有効な成分で、多くの水稲用除草剤に含まれている成分です。メソトリオンとテフリルトリオンも、耐性雑草に有効な新規の成分として平成22年春から販売が予定されています。
  • これらの除草剤成分の影響を強く受ける性質は、水稲細胞の核にある遺伝子によって遺伝する形質であることが分りました。

予算

農林水産省委託プロジェクト「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発」


詳細情報

背景

我が国の水田では、食用米の生産調整のために大豆等の転換畑作の振興とともに、稲発酵粗飼料や飼料米等の飼料用や米粉等の業務加工用を目的とした水稲栽培が推進され、それら新規需要米向けの多収性水稲品種の育成と普及が進んでいます。なかでも農研機構が育成した「タカナリ」や「モミロマン」の栽培面 積は年々増加しています。

一方、これまで水稲作雑草防除に広く使われてきたスルホニルウレアという除草剤の成分に対して抵抗性の水田雑草(SU抵抗性イヌホタルイ、SU抵抗性コナギなど)が近年全国で問題となっており、その抵抗性雑草対策のため各種の有効成分の開発と普及が進んでいます。

経緯

2007年度に多収イネを栽培する一部の現地水田において、除草剤に因るとみられる甚大な影響を受けた事例が報告されました。生産現場で問題となった除草剤は、スルホニルウレア系除草剤に抵抗性を有するイヌホタルイに極めて有効であるベンゾビシクロンという成分が含まれた除草剤です。この成分は、植物体内で植物色素カロチノイドの合成に間接的に関わる酵素4-HPPDを阻害する成分で、植物を白化させ枯らします。商品名、イッテツ、テラガード、スマート、ダブルスターSB、シリウスターボなど60以上の除草剤製品に含まれ、水稲作では広く使われています。水稲除草剤の開発段階において新規需要米向け水稲品種の除草剤感受性は十分に検討されていなかったことから、農研機構の中央農業総合研究センター、作物研究所、東北農業研究センターおよび九州沖縄農業研究センターの連絡試験によって農研機構が育成した25品種と公立試験研究機関が育成した3品種の水稲除草剤に対する感受性(除草剤の使用により薬害が生じること)を明らかにしました。

内容・意義

「ハバタキ」「タカナリ」「モミロマン」「ミズホチカラ」「ルリアオバ」「おどろきもち」「兵庫牛若丸」の7品種は、4-HPPD阻害型除草剤成分のなかでも化学構造からトリケトン系とされるベンゾビシクロン、メソトリオンおよびテフリルトリオンに極めて高い感受性を示し(表1)、除草剤として通常使用する条件下で稲株全体が白化症状を呈して枯死に至る場合があります(図1、図2)。4-HPPD阻害型除草剤でもその化学構造がピラゾール系であるピラゾレートという成分に対してはいずれの品種も感受性が低く、品種間の感受性に違いはありません。

「きたあおば」「アキヒカリ」「あきたこまち」「ふくひびき」「べこあおば」「べこごのみ」「夢あおば」「コシヒカリ」「北陸193号」「リーフス ター」「たちすがた」「クサノホシ」「ホシアオバ」「ニシアオバ」「タチアオバ」「まきみずほ」「モグモグあおば」「はまさり」「ミナミユタカ」など21品種・系統には、4-HPPD阻害型除草剤に対する高い感受性は認められません。

なお4-HPPD阻害剤の成分を含まない除草剤では、水稲品種間で感受性に大きな差異は認められません。

さらに、交配実験の結果、「タカナリ」と「モミロマン」のベンゾビシクロン感受性は細胞核にある遺伝子で制御される形質であり、劣性遺伝することがわかりました(図3)。

以上の結果から、「ハバタキ」「タカナリ」「モミロマン」「ミズホチカラ」「ルリアオバ」「おどろきもち」「兵庫牛若丸」の7品種の栽培では、これら成分を含む除草剤を使用しないよう、除草剤の選択において十分に注意する必要があります。

今後の予定・期待

以上の情報は、今春の日本育種学会(3月26日)と日本作物学会(3月31日)で発表するとともに、安全な新規需要米生産のために、行政機関(農林水産省)、種子販売者(日本草地畜産種子協会)、農薬会社等を通じてこの注意喚起情報を生産現場に伝えます。また、農研機構で今後育成される新たな水稲品種 については、品種育成者が除草剤成分に対する感受性を確認することにしています。

参考データ

表1 4-HPPD阻害型除草剤に対する水稲品種・系統の感受性

図1 水田補場での感受性評価試験 図2 ポットでの薬量反応試験 図3 正常イネと感受性イネを交配した後代(F2)における感受性形質の分離比

用語の解説

4-HPPD(4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ)
植物の色素カロチノイドの合成を助ける補酵素プラストキノンの生合成に関与する酵素です。この働きが阻害されると、プラストキノンの不足によりカロチノイド合成ができなくなり、植物が白化して枯死に至ります。4-HPPD阻害剤には化学構造が異なるいくつかタイプがあり、水稲除草剤ではピラゾール系のピラゾレートやベンゾフェナップ、トリケトン系のベンゾビシクロンなどがあります。

ベンゾビシクロン
4-HPPD阻害剤の一つで、多年生雑草を含む多くの雑草種に効果があります。スルホニルウレア系除草剤に抵抗性を有する水田雑草(特にイヌホタルイ)に卓効を示すSU抵抗性雑草対策成分として60を超える多くの除草剤製品に含まれ、広く普及しています。今後もベンゾビシクロンを含む新しい除草剤は開発されるので、新しい除草剤を使用する際には含まれている有効成分をよく確認することが大切です。

カロチノイド
植物が太陽の光を利用して光合成を行なうために、可視光領域の光を吸収する植物色素の一つです。植物色素には、他にクロロフィル、アントシアニン、フラボノイドなどがあります。

スルホニルウレア系除草剤(SU剤)
スルホン酸と尿素が結合した化学構造を持つ除草剤成分の総称で、水稲除草剤ではベンスルフロンメチル、ピラゾスルフロンエチル、イマゾスルフロン、アジムスルフロンなどがあります。極めて少ない有効成分量で除草活性を示すこと、幅広い殺草スペクトルを示し多年生雑草を含む多くの雑草の防除に有効であること、作物・雑草間で高い選択性があることなど、作物栽培の除草剤成分として優れた特性を持っています。近年、我が国の水田では、スルホニルウレア系除草剤成分に対して抵抗性を示す水田雑草(SU抵抗性イヌホタルイ、SU抵抗性コナギ、SU抵抗性アゼナ類、SU抵抗性オモダカなど)が問題になっています。