プレスリリース
大豆加工時の石豆問題を解消する装置を開発

- 硬い大豆も柔らかい納豆に -

情報公開日:2009年5月22日 (金曜日)

ポイント

  • 食品加工に利用できない石豆(いしまめ)の表面に微細な凹みをつけ、吸水を促進させる装置を開発
  • これまで廃棄されていた石豆が加工に利用できるようになることから、加工時の石豆の選別が不要となり、生産コストの大幅な削減に貢献

概要

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という)中央農業総合研究センター【所長 丸山清明】は、種子吸水促進技術(特許出願中)を採用した石豆解消処理装置を、大学・民間企業と共同で開発しました。石豆とは、種皮が水を通しにくくなった大豆種子のことで、収穫したものの中に少量混在する場合があります。外見は普通の大豆ですが、水に浸しても吸水せずに硬いまま残り、加工食品の商品価値を低下させるため、食品加工業界では文字通り「悩みのタネ」になっています。今回開発された技術は、混在している石豆を、正常に吸水する大豆に変身させることができます。これまで捨てられてきた石豆も加工に利用できるようになるため、原料大豆を無駄にしません。また、正常な大豆も、より吸水しやすくなるため、納豆に加工した際、柔らかい納豆に仕上がります。

予算:運営費交付金


詳細情報

背景

 ・石豆問題とは?
「石豆(いしまめ)」とは、吸水が極端に遅い大豆種子を指す業界用語で、学術的には「硬実(こうじつ)種子」に分類されます。硬実種子を形成する植物として、アサガオは広く知られていますが、大豆も硬実種子を形成する場合があります。そのため大豆業界では、水に浸しても吸水しない大豆の硬実種子を、加工に適さないという意味を込めて「石豆」と呼びならわしてきました。石豆は、種皮の微細構造以外は正常な大豆と変わりませんが、煮たり、蒸したりしても十分吸水しないため、例えば納豆に加工しようとしても、商品になりません。また、外観からは正常な大豆と区別ができないため、これまでは、原料段階での選別ができず、吸水工程や蒸煮工程で石豆を見つけて除去するしかありませんでした。しかも、この除去作業は、特別な機械(吸水後の大きさの違いでふるい分ける)を必要としたり、人手でより分けたりするので、製造コスト上昇の要因となる頭の痛い問題でした。このように石豆は、大豆食品加工業全般に共通する問題であり、原料大豆の生産・輸入ロットによっては、多いときには10%近く混在している場合もあることから、早急な対策が待ち望まれていました。

・問題解決の技術的課題
正常な大豆では、ヒトの皮膚にある毛穴のような、微細な穴が表皮にありますが、品種特性や栽培環境によっては、この穴がふさがってしまい、水を吸えない大豆になることがあります(図1)。これが石豆のできるメカニズムです。石豆の表皮を傷つければ正常に吸水するようになることは以前から知られていましたが、大豆の表皮には種子の内部組織を守る役割があるので、砥石でこするような手荒なまねをすると、表皮が大きく裂けてしまい、種子が崩れやすくなったり、水につけたときに種子内の栄養成分が溶出しやすくなったりします。そのため、表皮全体に適度な深さの細かい穴を、やさしく開ける技術が求められていました。

経緯

   これまでの石豆対策では、「とにかく表皮を破って吸水させればよい」との発想で、砥石などで表皮に深い傷をつけたり、極端な場合には表皮を完全に取り除いていましたが、今回開発した処理装置では、石豆ができるメカニズムの解析に基づいて考案された種子吸水促進技術を採用しています。この技術は、「正常な大豆では、表皮に深さ10ミクロン以上の凹みが多数あることで、水が表皮から浸透しやすくなっている」との研究成果に基づいて考案されました。また、零細企業の多い食品加工業においては、実用化にあたって開発コスト・導入コスト両面での負担を考慮しなければなりません。そのために加工業者が個別に対応するのではなく、大豆の流通過程で既に使用されている機器に、この技術を導入するのが最も現実的な対応と考えました。そこで、大豆卸商社の三倉産業株式会社と、食品加工機器メーカーの原田産業株式会社の協力を得て、実用化の道筋を模索しました。原田産業が既に製造販売していた大豆研磨機をベースに検討を進めた結果、研磨の心臓部である研磨網の大豆が当たる突起形状を改造することで、表皮全体に適度な深さの細かい凹みをつけることができることがわかりました。この結果をもとに、すでに同型機の使用実績がある三倉産業の大豆選別工場において実証試験を繰り返して、実現可能であることを検証し、製造販売に目処をつけました。

内容・意義

・石豆解消処理装置の特徴
加工段階で石豆を選別・廃棄してきた従来法に比べ、大豆選別工場などの原料流通段階で一括処理できるとともに、石豆を正常に吸水する大豆に変えて加工利用を可能にする画期的な処理装置です(図2)。最大処理能力5000kg/h、機械寸法930×1898×2170(単位:mm)、研磨網の交換により石豆処理モードと通常研磨モードに変更可能で、1台380万円で販売予定です。同型の研磨機がすでに設置されている場合には、研磨網の交換・調整費用30万円のみで、石豆解消処理装置に改造することができます。使用方法は、抜き取り検査で石豆の混在が判明した原料ロットに対して、石豆処理モードにより当該ロット全部を処理します。
・導入による効果
石豆の選別コスト(人件費、選別機)をゼロにすると共に、廃棄ロスや廃液処理コストの大幅な低減に寄与します。また、石豆の多い大豆は全体的に吸水が遅く、硬い納豆に仕上がる傾向にありますが、この処理によって大豆が吸水しやすくなるため、柔らかい納豆に仕上げることができます(表1)。

今後の予定・期待

石豆問題の解消だけでなく、正常な大豆の吸水をも促進する副次的効果もあるため、加工時間の短縮や排水処理の負担軽減など、省エネルギー・低環境負荷技術としての発展も期待されます。既設の同型研磨機があれば、研磨処理部を改造するだけで導入可能な本機は、大豆選別工場をメインに全国で100台程度の普及を見込んでいます。

図1.石豆と正常な大豆に見られる、種皮表面の微細な凹凸量の違い(左図)と、石豆解消処理によって種皮表面に形成された凹み(右図)

図2.研磨機構造略図(上)と、研磨機全体(写真左)、および研磨機構造(写真右)。

表1.石豆解消処理の効果(吸水性と納豆加工特性)