背景
京都府内の酒造メーカーでは、麹米に京都府独自の酒造好適米品種「祝」を用いた地域ブランド清酒を展開していますが、原料米の約70%を占める掛米には、地域ブランドとなり得る品種が存在せず、「日本晴」、「祭り晴」等の一般主食用品種が使用されています。新たな京都ブランド清酒の展開を志向する酒造メーカーや需要に応じた米づくりを目指す農業団体からは、「日本晴」、「祭り晴」よりも多収で、酒造適性が高く地域ブランドとなり得る京都府独自の掛米用品種の育成とその安定供給体制の早期確立が強く要望されていました。
経緯
清酒を醸造する際に大量に使われる掛米1)も、麹米2)と同様に、酒の雑味の原因となるタンパク質含有量が少なく、また、米の表面に近いほど多く存在するタンパク質を削る作業(精米)が行い易い大粒の品種が望まれます。
清酒生産量が兵庫県に次いで全国第2位である京都府は、府内の多数の酒造メーカーが属する酒造組合との連携により、多数の材料の醸造試験が可能ですが、育種素材が十分でないこと等から、掛米用品種の早期育成は困難でした。一方、農研機構 中央農業総合研究センターは、大粒で良質のイネ系統集団を保有していますが、多数の醸造試験は困難で、酒造適性に関する選抜は必ずしも十分ではありませんでした。
双方の困難性を克服するため、京都府農林水産技術センターと農研機構 中央農業総合研究センターは平成21年度に共同研究契約を締結し、掛米用品種の共同育成を行ってきました。「京の輝き」は、多収、良食味品種の育成を目的として、短稈の良食味系統である「収6602」と、玄米品質が良く、多収の「山形90号」を交配して選抜した酒造用品種です。その開発の過程は以下のとおりです。
- 平成15年度:農研機構 中央農業総合研究センター 北陸研究センターにおいて育成を開始
- 平成22年度:収量、玄米の外観品質、及び醸造試験により、有望系統1系統に絞り込み
- 平成23年度:実用レベルの大量醸造試験による製品化の検討(良好な結果) 絞り込んだ系統を「京の輝き」と名付けて品種登録申請
内容・意義
- 「京の輝き」は、新潟県上越市では“晩生”、京都府では“中生”の熟期に属する品種であり、出穂・成熟期は「日本晴」よりやや早いです(表1)。
- 稈長および穂長は「日本晴」よりやや短く、穂数は「日本晴」よりも多くなっています。耐倒伏性は「日本晴」 とほぼ同じ“やや強”で、収量性は「日本晴」と比較して1割ほど増収し、「祭り晴」より明らかに多収です(表1、写真1、3)。
- 玄米千粒重3)は「日本晴」より大きく、玄米品質は「日本晴」並みです。タンパク質含有量は「日本晴」、「祭り晴」よりやや低いです(表2、写真2)。
- 「京の輝き」の生成酒は、香り、味ともに「祭り晴」に優ります(表3)。
- 「京の輝き」の普及により、清酒生産量が全国第2位である京都府における新たな地域ブランド清酒が展開され、清酒及び米の需要拡大に繋がることが期待されます。
今後の予定・期待
京都府内の酒造メーカーでは、大量醸造試験と同時に、平成24年度中の商品化を目指した製品開発を進めています。また、京都府では「日本晴」と「祭り晴」の一部に代えて、200ha程度の普及を計画し、奨励品種採用を予定しており、今後の普及拡大が期待されます。
用語の解説
1)掛米
もろみの仕込みに大量に使われる米のこと。
2)麹米
酒は、米のデンプンを麹菌の力で分解しアルコールにして作られるが、そのための麹造りに使う原料米のこと。
3)玄米千粒重
玄米1000粒の重さ。
4)精玄米重
粒厚1.8mm以上の玄米(1.8mmの篩でふるった残り)の重量。収量性を表す。
5)純米酒
米、米こうじ、水だけで造った酒。
6)アル添酒
アルコール添加清酒の略。味、香りの調整のために醸造用アルコールを添加した酒のこと。




