プレスリリース
稲発酵粗飼料を用いた肉用牛の飼養技術を開発

情報公開日:2006年6月12日 (月曜日)

要約

中央農業総合研究センターと畜産草地研究所は、平成16年度から地域農業確立総合研究「関東地域における飼料イネの資源循環型生産・利用システムの確立」において、埼玉県、千葉県、長野県と共同で稲発酵粗飼料を利用した肉用牛の飼養管理技術の開発を目的とした研究を進めて来ました。牛肉生産までの肥育試験が一部終了しましたので、これまでの2年間の研究成果を発表いたします。

研究の背景とねらい

食用稲生産が過剰基調で、約100万ヘクタールの水田を転作している状況のなかで、稲発酵粗飼料は、(1)水田機能を維持しながらイネの生産技術を活かして飼料生産を行うことが可能であり、(2)その肉用牛への給与拡大が、25%と極めて低い飼料自給率の向上に貢献するものとして期待されています。肉用牛は、子牛を生産するための牛を繁殖雌牛、子牛から肥育に入るまでの牛を育成牛、肉と脂をつける期間の牛を肥育牛と呼びますが、各牛への稲発酵粗飼料給与法を検討しました。

成果の内容・特徴

  • 繁殖雌牛の子牛生産性に及ぼす影響の検討
    稲発酵粗飼料の黒毛和種繁殖雌牛への給与により、乾草を給与した対照牛と変わらない繁殖成績が得られ、1年1産を達成しました。また2産次までの連産性も優れていました(表1)。
  • 育成牛の発育に及ぼす影響の検討
    交雑種雌牛育成牛に対して稲発酵粗飼料を給与した結果、残食もなく採食性は良好で、発育も購入乾草を給与した対照牛と差がありませんでした(図1)。育成期(3~8ヵ月齢)の購入乾草給与量を1頭あたり200kg(約60%)減らすことができました。
  • 肥育全期間給与の効果
    稲発酵粗飼料を肥育の全期間給与した褐毛和種雌牛(試験牛)は、稲ワラを給与した対照牛に比較して、歩留基準値と枝肉重量が多かったため、枝肉販売価格が高い傾向(試験牛 598,325円、対照牛 539,055円)を示しました。また筋肉中のビタミンE(α-トコフェロール)濃度も高い傾向にあり、ビタミンEによる抗酸化作用が期待できるレベルに達していました(図2)。
  • 脂肪交雑への影響の検討
    肥育中期にビタミンAの給与量を制限することにより脂肪交雑を高める飼養方法が普及しています。β-カロテン含量の高い稲発酵粗飼料給与が血液中のビタミンA濃度を高め脂肪交雑に影響するのかを確認するため、肥育中期に稲発酵粗飼料を給与しない前・後期給与牛、全期間にわたって稲発酵粗飼料を給与する全期間給与牛、稲発酵粗飼料を給与しない対照牛を用いた肥育試験を実施中です。肥育10ヵ月後の結果では、各牛とも順調に発育しています(図3)。

詳細情報

用語の解説

【交雑種牛】
品種間の交配によって生産された牛。増体や肉質は、基本的には両親の中間を示すが、繁殖能力や強健性は、雑種強勢により両親の品種より優れた能力を示す。

【褐毛和種】
褐毛和種とは、熊本県と高知県で飼われていた朝鮮牛を基礎とした赤牛に、明治以降にシンメンタール種や朝鮮牛を交配し、改良した品種である。性質は温順で、強健の上、耐暑性に優れ、粗飼料の利用性がよいなどの長所がある。

【ビタミンE、α-トコフェロール】
ビタミンEは、ほとんどの食品に存在し、α-、β-、γ-、δ-トコフェロールの4つの異性体がある。小麦胚芽や植物油に多く含まれる。ビタミンEは抗酸化能を有し、体内の活性酸素を消去して、細胞の老化を防ぐ働きを担っている。牛肉中の濃度を高めることによって、販売展示中の酸化によるオキシミオグロビンからメトミオグロビンへの変化を遅らせ、肉色を長く維持できる。ビタミンEのなかでα-トコフェロールが、もっとも活性が高い。

【β-カロテン】
青草、サイレージや良質乾草中に多量に存在している黄色ないし赤色のカロテノイド色素である。抗酸化能を有し、活性酸素の害を除くことから、生活習慣病を予防する重要な食品成分とされる。人の体内でレチノ-ル(ビタミンA)に変換される物質をプロビタミンAというが、β-カロテンはプロビタミンA活性が高い。我が国の食肉市場では、β-カロテンの蓄積による脂肪の黄化が嫌われている。

【枝肉】
牛を失神させ放血後、と体から頭部、皮、内臓(腎臓はと体に残す)、四肢端、尾部を取り除いた残りの部分を枝肉という。

【脂肪交雑】
牛枝肉における肉質評価で最も重要な項目、ロース芯及び周囲筋における脂肪の分布状態によって判定する。マーブリングあるいは霜降りとも呼ばれている。

【歩留基準値】
枝肉から骨と余分な脂肪を取り除いた後に残る肉の元の枝肉に対する割合。枝肉の第6~第7肋骨間の切断面におけるロース芯面積、バラの厚さ、枝肉重量、皮下脂肪の厚さから計算する。

図
表1 繁殖成績
図1 育成期の体重の推移
図2 筋肉中のビタミンE(α-toc)濃度
図3 交雑種肥育牛の体重の推移
図4 牛肉断面