要約
中央農業総合研究センターと畜産草地研究所は、平成16年度から地域農業確立総合研究「関東地域における飼料イネの資源循環型生産・利用システムの確立」において、埼玉県、千葉県、長野県と共同で稲発酵粗飼料を利用した肉用牛の飼養管理技術の開発を目的とした研究を進めて来ました。牛肉生産までの肥育試験が一部終了しましたので、これまでの2年間の研究成果を発表いたします。
研究の背景とねらい
食用稲生産が過剰基調で、約100万ヘクタールの水田を転作している状況のなかで、稲発酵粗飼料は、(1)水田機能を維持しながらイネの生産技術を活かして飼料生産を行うことが可能であり、(2)その肉用牛への給与拡大が、25%と極めて低い飼料自給率の向上に貢献するものとして期待されています。肉用牛は、子牛を生産するための牛を繁殖雌牛、子牛から肥育に入るまでの牛を育成牛、肉と脂をつける期間の牛を肥育牛と呼びますが、各牛への稲発酵粗飼料給与法を検討しました。
成果の内容・特徴
- 繁殖雌牛の子牛生産性に及ぼす影響の検討
稲発酵粗飼料の黒毛和種繁殖雌牛への給与により、乾草を給与した対照牛と変わらない繁殖成績が得られ、1年1産を達成しました。また2産次までの連産性も優れていました(表1)。 - 育成牛の発育に及ぼす影響の検討
交雑種雌牛育成牛に対して稲発酵粗飼料を給与した結果、残食もなく採食性は良好で、発育も購入乾草を給与した対照牛と差がありませんでした(図1)。育成期(3~8ヵ月齢)の購入乾草給与量を1頭あたり200kg(約60%)減らすことができました。 - 肥育全期間給与の効果
稲発酵粗飼料を肥育の全期間給与した褐毛和種雌牛(試験牛)は、稲ワラを給与した対照牛に比較して、歩留基準値と枝肉重量が多かったため、枝肉販売価格が高い傾向(試験牛 598,325円、対照牛 539,055円)を示しました。また筋肉中のビタミンE(α-トコフェロール)濃度も高い傾向にあり、ビタミンEによる抗酸化作用が期待できるレベルに達していました(図2)。 - 脂肪交雑への影響の検討
肥育中期にビタミンAの給与量を制限することにより脂肪交雑を高める飼養方法が普及しています。β-カロテン含量の高い稲発酵粗飼料給与が血液中のビタミンA濃度を高め脂肪交雑に影響するのかを確認するため、肥育中期に稲発酵粗飼料を給与しない前・後期給与牛、全期間にわたって稲発酵粗飼料を給与する全期間給与牛、稲発酵粗飼料を給与しない対照牛を用いた肥育試験を実施中です。肥育10ヵ月後の結果では、各牛とも順調に発育しています(図3)。