農産物トレーサビリティシステムの概要
携帯電話による生産履歴管理システム
近年急速に普及して身近な情報通信ツールとなった携帯電話を活用して、生産者が現場で作業の合間に簡単な操作で作業記録等の入力や閲覧を可能とする生産履歴管理システムを開発しました。この携帯電話を使った生産履歴管理システムは、2002年7月より日本農業IT化協会を事務局として実用化版を運用しており、生産者を対象にインターネット上でサービスを提供しています。生産者側では特別なソフトウェアなしで、携帯電話を使って現場で、圃場作業や使用資材(農薬・肥料等)などの生産履歴データの入力ができます。
システムの利用方法は次のようになります。
(1)最初にユーザ登録して、事務局よりユーザIDとパスワードを受け取ります。
(2)生産者は、各自の状況に合わせて作目や圃場面積等の基本データのほか、作付け、作業内容、使用資材等の栽培計画を入力します。
(3)生産者は、インターネットに接続可能な携帯電話あるいはパソコンでシステムにアクセスすると、メニュー選択形式で作業記録の入力を行うことができます。
(4)データはデーターベースに登録され、インターネットで閲覧、帳票の印刷ができます。
ICタグによる流通履歴管理システム
開発した流通履歴管理システムは、農業・生物系特定産業技術研究機構が所有する特許「識別子付与による農産物流通における農産物の個体情報入手システム」(特許第3355366号)を活用し、識別子として取り扱えるデータの量が多く、偽造などが難しい無線ICタグ技術を使うシステムとしました。
生産者によって入力された生産履歴データは、生産者とその圃場作付けごとに集計してデータベース上でICタグのID番号に関連付けられます。出荷時に農産物のロットごとに対応するICタグを箱や包装に貼付します。集荷場から小売店に至る流通の各経路でICタグを読み取り、そのIDと入出荷時刻を実際のタイミングで流通履歴のデータベースに記録します。農産物を購入する消費者は、店頭の表示端末に接続された読み取り機を使ってICタグを読み取ると、そのIDに対応した農産物の生産履歴と流通履歴のデータがデータベースからインターネットを通して送信され、即座にデータを確認することができます。
本システムの特長として、ロットの小分けあるいは混合が行われることが多くICタグの付け替えが必要になる流通の実情に合わせて、小分けや混合の前後にIDを記録することでロット間の関連付けを行うことが可能です。また、ICタグと同様な役割を果たすIDコードも設計し、ID番号、バーコード、二次元コード等の併用も可能にしました。これによりICタグ読み取り機がない場合でも、ID番号やバーコードを使って携帯電話やパソコン等からデータを呼び出すことができる仕組みとなっています。
山形県での実証試験
本研究で開発した農産物トレーサビリティシステムの実証試験は、山形県の協力により特産品である洋なしの「ラ・フランス」を対象として平成15年11月の1ヶ月間行いました。この取り組みには、県内のラ・フランス生産者のほか、協力団体として丸勘山形青果市場と生活協同組合共立社が参画しました。
まず生産者が生産履歴を入力し、収穫した果実を出荷用の箱に入れて出荷します。丸勘山形青果市場では、生産履歴を関連付けしたICタグを段ボール箱に貼付し、果実の小分けを行います。入出荷の際には箱ごとのICタグを読み取って流通履歴データベースに記録します。共立社での店舗販売では、ICタグ読み取り機と表示端末を設置してラ・フランスの生産・流通履歴データをその場で閲覧可能にしています。その後ICタグは回収して再利用します。一方、産地より直送される贈答品には、ラベル印刷したバーコード(二次元コード)を貼付し、携帯電話のバーコード認識機能を利用して履歴データを閲覧可能にしています。なお、日立製作所の技術による超小型無線ICタグ「ミューチップ」を凸版印刷グループの技術でPET素材に封入した再利用可能なICタグを使用し、約4,500箱へのICタグあるいはバーコードの貼付がなされました。以上の実証試験で、産地では生産履歴の入力が滞りなく行われ、消費者は購入する商品の生産・流通履歴の情報が確認できるようになり、システム全般として好評を得ることができました。
用語の説明
トレーサビリティ
追跡可能性ともいう。個々の商品について生産、流通、販売の過程を追跡ならびに遡及できるということ。特に農産物においては、安全性、品質、産地ブランド等を保証する手段としてトレーサビリティの確立が重要な課題とされている。
ICタグ
電子タグともいう。商品に添付することで個々の商品を識別し、かつ情報を付与するために用いられる。個々のICタグがID番号や商品に関する情報を保持し、ICタグの読み取り機が発する電波によって非接触で情報の読み取り・書き込みができる。
共同研究の体制
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構の中央農業総合研究センター(茨城県つくば市。以下、「中央農研」という。)と日本農業IT化協会(東京都千代田区。以下、「IT化協会」という。)は、2002年度より共同研究を開始し、農産物トレーサビリティシステムの研究開発を行ってきました。
また、ユビキタスIDセンター(東京都品川区)はICタグ技術の標準化を推進していることから、ユビキタスIDセンター主宰によるT-Engineフォーラムに、IT化協会は農業に関わるIT業種としては国内で民間団体として初めて参画し、また中央農研は農業分野での最初の学術会員となっています。今後は、中央農研の農業情報学における基盤的研究、IT化協会の通信関連技術、さらにユビキタスIDセンターのICタグ関連技術の先端性を生かし、トレーサビリティシステムにおける新たな技術開発を進めます。
日本農業IT化協会 概要
(代表者) 代表取締役 伊藤 幸吉
(役員) 5名 (代表者含め全て農業者)
(設立年月日)平成13年10月29日
(本社住所) 東京都千代田区神田東松下町17番地6F
(Tel/Fax) 03-3258-5458
(E-mail) 
(主たる事業目的)
1.農業における生産情報の電子処理システム、通信システムの開発とそのサービスの提供
2.農業における生産情報の評価システムの開発とそのサービスの提供
3.上記1、2におけるハードウェア及びソフトウェア運営管理
4.上記1、2におけるシステム管理者及びオペレーターの教育指導
5.上記1、2のシステムによる生産関連情報配信サービス
ユビキタスIDセンター 概要
目的
ユビキタスIDセンター(http://uidcenter.org/)の目的は、「モノ」を自動認識するための基盤技術の確立と普及、更に最終的にはユビキタスコンピューティングの実現です。
活動
ユビキタスIDセンターは、次の活動を行います。
1.「モノ」に付与するID 体系(uID: ユビキタスID)の構築
2.uID を利用するための基盤技術の確立
3.uID を格納するデータキャリアデバイス(RFID、Smartカード、Active Chip、など) データキャリアデバイスと通信する装置(Ubiquitous Communicator)
4.uID と関連する情報を検索する情報通信基盤
5.uID とそれに結びつけられた情報を流通させるセキュアな広域分散システムの基盤技術の確立
組織・体制
ユビキタスIDセンターは、T-Engineフォーラム(https://www.tron.org/)内に設置されています。 T-Engineフォーラムには、ユビキタスIDセンターの活動主体であるe会員メンバーがあり、更に二つのWGがあります。
ユビキタスID技術WG
会員構成:T-EngineフォーラムA会員より構成
想定会員:RFID、ICカードなどのデータキャリアデバイスベンダー
R/Wなどの周辺デバイスベンダー
端末、サーバ、PKIなどのインフラ構築を行うベンダー
ユビキタスID応用WG
会員構成:T-Engineフォーラムe会員より構成
想定会員:ユビキタスID応用を行う、主にユーザ会社会員の集まり