プレスリリース
麦作の強害雑草カラスムギの蔓延とその防止対策

- 播種期移動と除草剤で効果的に抑制 -

情報公開日:2003年11月 6日 (木曜日)

要約

独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構(三輪睿太郎理事長)・中央農業総合研究センターではカラスムギの蔓延防止対策について研究し、トリフルラリンを有効成分に含む除草剤と遅播きの効果が高いことを確認しました。本成果は転換畑を含む畑圃場でカラスムギの侵入初期での防除対策として、現場での活用が期待されます。

カラスムギの蔓延

カラスムギは温暖地の麦作において最も害を及ぼす雑草の一つで、特に埼玉県東部から茨城県西部にかけて多発しています(図1)。特に最近増えつつある長期間畑地として利用する転換畑では大問題で、カラスムギが畑に蔓延すると(図2)、その年の麦の収穫を放棄するばかりでなく、次の麦作も断念してしまうことも珍しくありません。カラスムギが発生した畑では出穂時期に抜取作業をするほかなく、効果的な防除対策が望まれていました。

図1 関東東海地域各農業改革普及センター管区におけるカラスムギの最大発生程度

図2 カラスムギが蔓延した麦畑

当面の対策・除草剤と遅播きの効果

当面のカラスムギ対策として、麦作ですでに登録のある除草剤の適用について検討しました。そのなかで、トリフルラリンを有効成分に含む除草剤の効果が最も高く(表1)、麦と同時に出芽したカラスムギの約半数を死滅させることを確認しました。しかし、関東地域で標準的な播種時期である11月上旬に麦類を播種した条件では、カラスムギの種子数が前年の量を大幅に越えるため、トリフルラリン剤を使ったとしても、それだけではカラスムギの蔓延は食い止められないことが判明しました。

表1 カラスムギに対する各種麦用除草剤の効果

一方、麦の播種時期を遅らせることがカラスムギの防除に高い効果のあることがわかりました(図3)。麦の播種前に出芽したカラスムギは耕起作業で枯殺できます。耕起・播種時期が遅くなるほどカラスムギの防除効果が高く、除草剤なしでも高い防除効果が得られる場合があり、種子数も前年より減ることが明らかになりました。このように、カラスムギが入り込んだ畑では麦播きを遅らせて、効果のある除草剤を処理することが蔓延を防ぐために当面勧められる対策です。ただし、暖冬でない限り遅播きでは減収するので、遅れた播種時期に応じて播種量を増やすといった対策もあわせて必要です。

図3 小麦播種時期と麦収穫時のカラスムギ種子数との関係

より効果のある対策に向けて

これまでの結果では、通常の麦作体系ではカラスムギの防除が難しく、むしろ蔓延させてしまうことも示しています。また、カラスムギの発生時期が場所によって異なるため、その防除対策が厄介なものであることもわかりました。そこで中央農業総合研究センターでは、麦収穫後の夏作時の不栽培管理などを組みあわせた、カラスムギの総合的な防除技術を開発し、麦の標準撒きによる安定栽培と両立させるようにさらに研究をすすめています。この研究によって、今後増加が見込まれる永年畑地条件においてもカラスムギが問題にならない栽培体系が確立されると期待されます。

なお、本研究は農林水産省委託プロジェクト「食料自給率向上のための21世紀の土地利用型農業確立に関する総合的研究 1系 麦類の高能力品種の育成及び能力発揮型栽培技術体系の確立」によって行われました。