プレスリリース
アレルギー原因蛋白質の新しい発見法

情報公開日:2003年2月27日 (木曜日)

要約

花粉症に代表されるアレルギー症は、花粉などに含まれる原因タンパク質(アレルゲン)が体内に取り込まれることによって発症します。中央農業総合研究センターは、アレルゲンに共通する特徴的な構造を明らかにし、これを目印に、新規のアレルゲン候補蛋白質を迅速に発見する手法を開発しました。本手法は種々の花粉や、ダニ、食物など、アレルギーの原因物質中のアレルゲン候補蛋白質を特定する方法として、医療はもとより、低アレルギー作物の開発などの様々な場面での活用が期待されます。

新規アレルゲンの発見方法

新規アレルゲンを発見するには、まず花粉やダニなどの原因物質から蛋白質を抽出します。次に、アレルゲンの特徴であるジスルフィド結合がある蛋白質だけが蛍光を発するように化学的に標識します。そして、蛋白質を大きさや電荷の違いを利用して種類ごとに分離する二次元電気泳動という方法で平面上に展開します。蛍光を目印としてアレルゲンの可能性のある蛋白質を特定し、蛋白質の一次構造を解析して既知アレルゲンとの相同性を検索することで、効率よくアレルゲン候補蛋白質を同定したり発見することができます。その詳細は別紙のとおりです。

私達は、ピーナッツ、コメ、花粉やダニのアレルギーの原因とされる蛋白質の包括的な解析から、ジスルフィド結合が主要なアレルゲン蛋白質に共通する構造であることを明らかにすることができました。

*ジスルフィド結合:蛋白質中のアミノ酸システインに含まれるイオウ原子相互間の結合

本成果の意義

アレルギーを引き起こす原因物質は多種多様で、一つの原因物質が複数のアレルゲンを含んでいることから、特定されているアレルゲンはほんの一部に過ぎないのが現状です。アレルゲンの特定は、アレルギー症患者の根本的な治療に寄与する他、イネやコムギ、ダイズなどの品種改良の過程でアレルゲン蛋白質を含まない作物を育成することもできます。本技術は未知のアレルゲン候補蛋白質を効率よく検出する方法として、医療や食品の安全性確保などの場面での活用が期待されます。

アレルゲン検出の実例

1)コメのアレルゲン候補蛋白質の検出

コメをすりつぶし、塩水を加えた上澄み(アルブミン/グロブリン画分)にはアレルゲンが多く含まれることが知られています。こうした上澄みから本手法でアレルゲン候補蛋白質を検出すると、イネ品種の「日本晴」ではアレルゲンの特徴であるジスルフィド結合を有する10種の蛋白質が検出されます。蛋白質の一次構造解析結果と既知アレルゲンとの相同性検索の結果から、このうちの8種はコメの既知のアレルゲンで、1種は既知のアレルゲンと類似構造をもつ新しいアレルゲン候補蛋白質、残りの1種が全く未知の蛋白質であることがわかりました。

2)花粉のアレルゲン候補蛋白質の検出

アレルゲン性が指摘されるブタクサの花粉からはジスルフィド結合を有する10数種の蛋白質が発見されました。このうちの3つの蛋白質の一次構造と相同性検索から3種ともが既知のアレルゲンと類似構造をもつ新規アレルゲン候補蛋白質であることが判明しました。

3)ダニのアレルゲン候補蛋白質の検出

ハウスダストの原因とされるヤケヒョウダニからはジスルフィド結合を有する10数種の蛋白質が発見されました。このうちの3つの蛋白質のうち、1種が既知のアレルゲンで、2種が既知のアレルゲンと類似構造をもつ新規のアレルゲン候補蛋白質であることが判明しました。


詳細情報

ジスルフィド結合(S-S結合)
異なる蛋白質同士や、一つの蛋白質の分子内で形成される架橋であり、システイン残基のSH基2分子が共有結合によりS-Sを形成する。遺伝子は蛋白質に翻訳された後、リン酸化、ジスルフィド形成、糖の付加等の修飾をうけてはじめて機能することが多い。蛋白質のリン酸化/脱リン酸化、ジスルフィド結合の酸化/還元反応は動植物を問わず重要な生理機構のコントロールに寄与することが最近明らかになりつつある(下図参照)。

図 ジスルフィド結合

アレルゲンの検出法
1)遊離のSH基を非蛍光の修飾試薬(ヨードアセトアミド)で保護し、非結合型にする。
2)ジスルフィド結合を還元剤により化学的に切断し、露出したSH基を蛍光の修飾試薬(モノブロモビマン)で蛍光標識する。
3)二次元電気泳動で蛋白質を分離し、紫外線ランプ上で蛍光標識されたジスルフィド蛋白質を検出する。

図 ジスルフィド結合をもつ蛋白質を特異的に蛍光標識するための概略図