研究の経緯
東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響により、拡散した放射性セシウムにより広範囲の農地が汚染されました。圃場で働く農家だけでなく被災地の住民の被曝を低減するためにも、また、安全な作物を生産するためにも、農地の除染は確実に実施していかなければならない対策です。
農地の除染技術として、表土の削り取りや水による土壌撹拌・除去とともに、プラウによる反転耕が排土の出ない有効な方法として示されてきました。しかし、反転耕については、プラウで単に土壌を反転すればよいというものではなく、表土を確実に土壌深くに埋却する必要があります。通常の一段耕プラウでは、表土の一部が浅い層に残り、十分な埋却ができない場合があるため、中央農業総合研究センターが中核となり、同機構 生物系特定産業技術研究支援センター、福島県農業総合センター、スガノ農機株式会社、井関農機株式会社と連携し、プラウによる反転耕のすき込み精度の向上を目指して、技術開発を実施してきました。その成果をとりまとめたものがこの「除染用反転耕プラウの開発とその利用」です。
研究の内容・意義
表土をすき込む深さを改善し、表土を土壌深くに埋却できる二段耕プラウやジョインタ付プラウが開発されています。また、反転耕を正しく実施できるように、「除染用反転耕プラウの開発とその利用」では反転耕を実施できる条件、反転耕の実施方法、さらに反転耕後の作物栽培法がわかるように、作業の実施順に取りまとめています。
反転耕を実施できる条件として、圃場の耕うんの状況、土壌の放射性物質濃度、地下水位、下層の礫等の状況などの項目がありますが、これらは調査法も併せて記述されているので、現場で判断することができます。
反転耕の実施方法には、プラウの選択、プラウをけん引するために必要なトラクタの馬力などが示されています。
反転耕後の作物栽培法では、反転耕後の砕土、均平法、イネの無代かき移植栽培法について記述し、プラウ耕により耕盤を破壊しても水稲栽培ができることを示しています。また、反転耕の効果として空間線量率の低減効果の事例を紹介し、二段耕プラウ3)(写真1)やジョインタ4)付きプラウ(写真2)で高い低減率が得られたことを示しています。
今後の予定・期待
今回作成した冊子により正しくプラウ耕を実施することができれば、農地の表層にあった放射性セシウムは下層土に埋却され、空間線量率が低減して、その農地で作業をする農家だけでなく、周辺住民の被ばくを軽減できるようになります。
「除染用反転耕プラウの開発とその利用」の入手方法
「除染用反転耕プラウの開発とその利用」は、中央農業総合研究センターホームページの「東日本大震災への対応」のページからダウンロード可能です。
※URL http://www.naro.affrc.go.jp/narc/contents/disaster/index.html
用語の解説
1)プラウ
畜力あるいは機械力によって牽引して耕耘(土を耕起)する道具。プラウは土の反転を行うボトムプラウと円盤が土を切り込みながら切断、破砕するディスクプラウの2種類があるほか、土壌を破砕膨軟にするチゼルプラウなどがある。反転耕に利用できるのはボトムプラウである。一段耕プラウとは、ボトム(土壌を持ち上げ、反転させる板状のもの)が一つ付いた、一般に用いられるプラウのことである。
2)空間線量率
対象とするある空間の単位時間当たりの放射線量。空気吸収線量率ともいう。シンチレーション式サーベイメータなどにより測定することができる。
3)二段耕プラウ
深耕が可能なプラウ。ボトムが前後に2つ組み合わさっている。前のボトムが二段目の土、後のボトムが一段目の土を反転する。前のボトムが土を耕起した溝の底に後のボトムが表層土を落とす。次の工程で、その表層土の上に二段目の土を反転して乗せるために、確実に表層土が反転した下層土の下に埋却される。
4)ジョインタ
ボトムに先行して地表面の一部を削る装置。これにより地表面の一部をプラウで耕起した溝の底に落として埋没させる。表層の牧草や雑草、土壌などを下層に埋却することが可能になる。
写真1 畑用二段耕プラウ 除染対応用
前のボトムが下層土用。後ろのボトムが表層土用。前のボトムが空けた溝に、後ろのボトムが表層土を落としていく。
写真2 ジョインタ付きプラウ 2連20インチボトムプラウ コールターの後ろに見える小さな鋤がジョインタ これで表層の一部を削り、ボトムでできた溝に表層を掻き落としていく。