プレスリリース
新たな病害虫防除技術の開発を加速するための中央農研・理研BRCの新規共同事業

情報公開日:2011年7月20日 (水曜日)

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター
独立行政法人 理化学研究所

ポイント

  • (独)農研機構中央農業総合研究センター(中央農研)と(独)理化学研究所(理研)が、オープンラボにおいて、実験植物シロイヌナズナを利用した新たな病害虫防除技術の研究・開発に取り組むことができる共同事業を開始。
  • 都道府県や民間企業の研究者・技術者が本共同事業に参加することにより、環境保全型病害虫防除技術開発の一層の発展が期待。

概要

(独)農研機構 中央農業総合研究センター(中央農研)と(独)理化学研究所・バイオリソースセンター(理研BRC)は、地方自治体の試験場(以下、公設試)や民間企業などの外部の研究者・技術者が、中央農研と理研BRCとの三者間連携の元、中央農研内に設置されている開放型実験施設(オープンラボ)において、理研BRCで維持・保存している実験植物シロイヌナズナを利用して、環境保全型病害虫防除技術の研究・開発に取り組むことができる共同事業を開始しました。

本共同事業に参加することにより、中央農研が有する生物防除技術の開発力と、理研BRCが培ってきたシロイヌナズナの膨大な遺伝情報とを活用することができ、都道府県や民間企業等で手がける環境保全型病害虫防除技術の開発が一層発展することが期待されます。


詳細情報

背景

農作物の病害虫に対する生物防除資材の開発には、その機能が十分に発揮されるための様々な環境要因(例:最適温度条件など)を科学的に解明する必要があります。そこで中央農研では、これまでに所内外で蓄積してきた生物防除研究の成果と、野外への病害虫の拡散がないように厳密に管理された実験施設を、都道府県等の農業研究機関や民間企業の方々に利用していただきながら、幅広い共同研究体制の構築を目指すことにしました。
一方、理研BRCにおいても、植物の基礎的研究はもとより、効率的な農作物生産に貢献可能な応用研究を一層充実させることが求められています。そこで理研BRCが維持・保存している様々なシロイヌナズナの系統や、それらの遺伝情報・生物特性などの知見を有効活用し、優良防除資材の探索・選抜や利用技術開発を効率的に行うための共同事業を展開することとしました。
今回、中央農研と理研BRCによる共同事業を通して、さらに農業分野の発展に寄与できればと考えています。

経緯

中央農研と理研BRCは、2006年から共同で農業上重要な害虫の発生を抑制する生物防除技術の開発に取り組んできました。近年では、その害虫が媒介する植物病害の生物防除の基盤技術の開発にも着手しました。一方、中央農研では、2009年から関東東海北陸の17地方自治体を対象に「中央農研オープンラボ活用促進セミナー」を開催し、公設試が抱える様々な問題の相談を受けてきました。また、農業資材メーカー等との共同研究により、民間企業の技術開発における問題点も意見交換してきました。今回の共同事業は、中央農研と理研BRCとのこれまでの共同研究の経緯を元に、公設試や民間企業が抱える問題の解決に貢献しようとするものです。

内容・意義

今回の共同事業では、公設試や民間企業等、外部の研究者・技術者が、中央農研と理研BRCとの連携のもと、中央農研内に設置されている環境保全型オープンラボにおいて、理研BRCが維持・保存している多数のシロイヌナズナ系統を利用して病害虫防除技術の研究・開発に取り組むことができます。例えば、生物特性などが判明しているシロイヌナズナ系統を利用して、拮抗微生物や土壌改良資材等が効果的に機能する植物の遺伝特性や生理条件、また、それら資材を植物に用いる際の最適環境要因や利用法を検討することができます。さらに、植物が持つ病害虫に対する抵抗性の解析、害虫と天敵に植物を加えた三者間の相互作用の解析とその反応を利用した新たな防除技術の開発等に容易に取り組めます。詳しくは、【想定される研究内容】をご覧下さい。

今後の予定・期待

全国の公設試、生物農薬や農業資材メーカーの方々に新規事業を広くお知らせするとともに、本年度も開催予定の「中央農研オープンラボ活用促進セミナー」を通じて外部の方々に共同研究を呼びかけていく予定です。なお、理研BRCが維持・保存する遺伝子組換えシロイヌナズナについてご利用をお考えの場合には、別途、窓口までご相談下さい。

用語の解説

シロイヌナズナ(学名:Arabidopsis thaliana)
アブラナ科シロイヌナズナ属の一年草で、日本では北海道から九州の海岸や低地の草地に分布する帰化植物です。シロイヌナズナは、2000年12月に世界で初めて全ゲノムの解読が終了した植物として知られています。この植物は、ゲノムサイズが小さい、一世代が約2ヶ月と短い、室内で容易に栽培できる、多数の種子がとれる、自家不和合性を持たない、形質転換が容易である等、モデル生物として多くの利点を備えており、研究材料として極めて利用しやすい植物です。

【新規事業のイメージ】

【想定される研究内容】