プレスリリース
家畜の消化を助ける飼料用米破砕装置を開発

情報公開日:2009年9月 9日 (水曜日)

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
中央農業総合研究センター
畜産草地研究所

ポイント

  • そのまま給与すると家畜が消化しにくい飼料用米の籾や玄米を、能率良く破砕して消化しやすくできる装置を開発しました。
  • 従来の装置に比べ安価で、企業から販売開始されます。

概要

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)中央農業総合研究センター 【所長 丸山清明】、畜産草地研究所【所長 松本光人】は、飼料用米を籾や玄米の形で家畜に給与する際、消化しやすいよう、飼料用米を特殊形状のロールで効率的に籾・玄米を破砕する装置を開発しました。

飼料用の米を籾や玄米のままで牛や豚に給与すると、消化が悪いので、飼養の効率が下がります。そのため、籾や玄米を事前に破砕する必要があります。しかし、従来の装置による破砕では、作業効率が十分でないという問題がありました。今回開発した破砕装置は、以下のような特徴があり、畜産農家が飼料米を給与する際に自前で破砕処理が行えます:

  • 特殊形状のロール(特許申請中)を用いたダブルロールミル方式(逆方向に回転する2つのロールの間で材料を破砕する)により、効率的に籾・玄米を破砕できます。
  • 破砕したい材料を上部投入口に投入しただけで作業が行えます。
  • 軽トラックの荷台で運搬が可能で、使用場所も選びません。
  • 破砕程度は、大半が粒径2mm以下となる強破砕から2.36mm程度の弱破砕まで可変。
  • 処理速度は、強破砕の場合でも玄米・籾米ともに時間当たり約1.4tの能力。

この破砕装置により、玄米の給与が向いている豚、籾の給与が向いている乳牛、肉牛それぞれに対して消化のよい飼料用米を簡単に給与できます。

なお、申請中の特許を含むこの技術は、農林水産大臣認定TLOを通じて(株)デリカに供与しており、本装置は、(株)デリカ(本社長野県松本市)から販売されます。

この成果の一部は、農林水産省委託プロジェクト「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発」の予算によるものです。


詳細情報

背景

配合飼料の原料である飼料穀物の国際相場が高騰する一方で、主食用の米の消費量は減少傾向です。そこで、稲作の一部を主食用米から飼料用米の生産に置き換えると、稲作農家では、同じ栽培体系であるため新たな投資も不要で取り組みやすく、畜産農家は、輸入濃厚飼料の代替として利用できる上、籾の状態で長期保存も可能であり、双方に利点があるので、飼料用米の生産・利用が注目されています。

経緯

籾は消化しにくい籾殻で覆われ、玄米の表面も消化が容易ではありません。そのため、そのまま家畜に与えると効率が良くありません。特に、豚は飼料が消化管(口から胃・腸)を通過する速度が早いので、籾の給与は不適で、玄米の場合でも十分破砕しておく必要があります。一方、牛では、籾殻に反芻動物に必要な繊維性飼料としての効果(胃の機能を正常に保ち、乳脂肪率を低下させない)が期待できるので、籾の給与が適していますが、籾殻の剥離や中の玄米部分の破砕は必要です。

トウモロコシ等の濃厚飼料も消化を良くするため従来から破砕が行われており、押し麦製造用にも使用される高温蒸気圧ぺん装置が利用されていました。これで飼料用米を処理すると、高温でデンプンがα化するので消化は良くなりますが、デンプンが糊化して粘着しやすいのが問題です。また、この装置は非常に高額であるため、輸入飼料など大量の材料を処理する大型施設向きであり、国内での飼料用米生産の現状には即していません。また、消費エネルギーが大きいのも問題です(表2)。そのため、飼料用米に適し、畜産農家でも低コストで使用できる破砕装置の開発が望まれていました。

内容・意義

本装置で飼料用米の籾や玄米を破砕すると(図2、3)、籾殻は破壊・剥離し、内部の玄米も割れてデンプン層が消化液と直接接するので、消化が良くなります。

本装置は、材料投入ホッパ(漏斗状の投入口)、円筒型圧延機(ダブルロールミル)で籾を破砕するロール、その籾を排出するバネコンベア(バネが回転して籾を排出する)からなります(図1、表1)。装置は、4kW の小型エンジンで動き、軽トラックで運べるので、作業場所を選びません。互いに逆方向に回転するロール表面にある角度60度のV字型溝(特許申請中)により籾を破砕する仕組みで、ロールの間には約10%の速度差があるので、せん断作用によって籾殻が剥離しやすくなっています。材料に混入したわらが破砕ロールの上に溜まり、籾や玄米がローラの間へスムーズに送られなくなるのを防ぐため、手動の攪拌・混合機構(アジテータ)も設けています。破砕程度は、ローラ間のすき間を0.1mmおきに調節して設定できます。図4は破砕した玄米の粒径割合を示しています。粒径割合が粒径2.36mm以上93%の破砕前の玄米も、すき間を0.5mmと小さくして破砕すると、粒径2.36mm以上の割合が24%となり、破砕前には存在しなかった粒径2mm以下の割合は62%と微粒化しました。処理能率は、籾米で時間当たり1380kg、玄米で1420kg程度です。燃料消費率はt当たりガソリン0.38リットル(時間当たり0.66リットル)です(定格時の約40%)。

今後の予定・期待

飼料用米の消化を向上させるため、どの程度まで破砕すべきかを明らかにすることが重要です。現在独法や県の研究機関等で試験が実施されており、それらの結果が待たれています。当面は、中規模以上の畜産農家や集団での利用が期待されます。

参考データ

図1、表1

図2、図3

図4、表2