背景
近年、主食用米だけではなく、米粉や米菓等の加工用途向けの新たな原料米の生産供給の重要性が高まっています。米菓には、うるち米を原料とするせんべい等と、もち米を原料とするかきもち、あられ等がありますが、米菓業界においても新たな需要を創出するため、既存製品と差別化できるソフトタイプせんべい等の新商品の開発が求められています。せんべいを作る際には、薄く延ばした生地から丸いせんべいの形に型抜きする工程において、もち米では形が崩れて成型がうまくいかないため、うるち米を使います。しかし、通常のうるち米だけでは、もち米の柔らかさを持つソフトタイプの米菓はできません。そこで、もち米とうるち米の中間に当たる低アミロース米の性質を利用し、作業性と柔らかな食感を両立しうるソフトタイプ米菓原料米用品種の開発を目指しました。
経緯
「亀の蔵」は、多収の低アミロース米品種の育成を目標として、低アミロース品種の「東北172号(後の「たきたて」)」と多収系統「収6374」を交配して選抜した品種です。その開発の過程は以下の通りです。
- 平成13年度:農研機構 中央農業総合研究センター北陸研究センターにおいて育成を開始
- 平成21年度:「北陸231号」の系統名で関係各県に配付し、奨励品種決定調査に供試
- 平成22年度:亀田製菓株式会社と米菓加工適性に関する共同研究を開始し、ソフトタイプ米菓の製造に適していることが明らかとなった
- 平成24年度:「亀の蔵」として品種登録出願
内容・意義
- 「亀の蔵」の育成地(新潟県上越市)での出穂期・成熟期は、「あきたこまち」と同等かやや早い、早生品種です(表1、写真1、写真2)。
- 精白米のアミロース含有率は、年次間で1.4~4.5%の幅で変動が見られますが、平均では3%程度で、「あきたこまち」より16%ほど低くなります(表2)。食味官能試験3)では、「あきたこまち」より非常に強く粘ります(図1)。
- 「あきたこまち」に比べて、稈長はほぼ同じで、穂長は長く、穂数は多くなります。収量(精玄米重4))は「あきたこまち」より多く、多肥栽培でも「あきたこまち」より多収です。玄米千粒重5)は「あきたこまち」よりやや重く、アミロース含有率が低いために玄米は白く濁ります(表1、写真3)。
- ソフトタイプ米菓製造時における延し行程6)の作業性は、国産のうるち米原料と変わりません。製品のふくらみは良好で、口溶けが良く、米の風味、甘味が強いソフトタイプ米菓の製造が可能なことが明らかとなりました(表3)。
今後の予定・期待
亀田製菓株式会社が「亀の蔵」を使った米菓の製品化を予定しており、新潟県内で数十haの作付が計画されています。新素材である「亀の蔵」の登場が、米菓全体の消費拡大に繋がり、国産米の需要が高まることが期待されます。
用語の解説
1)ソフトタイプ米菓
うるち米を主原料とする柔らかく口当たりの良い米菓。

写真 ソフトタイプ米菓
2)低アミロース
米のデンプンは、直鎖構造のアミロースと房状構造のアミロペクチンからなります。日本の一般のうるち米のアミロース含有率は15~20%程度、もち米は0%です。アミロース含有率が低いほど炊飯米の粘りが強くなります。アミロース含有率がうるち米ともち米の中間となる、数%~15%程度の米を低アミロース米と呼び、炊飯米は粘りが強い特徴があります。
3)食味官能試験
炊飯米の食味(おいしさ)を評価するため、炊飯米を試験者(パネル)が実際に食べて評価を行う試験。
4)精玄米重
粒厚1.8mm以上の玄米(1.8mmの篩でふるった残り)の重量。収量性を表す。
5)玄米千粒重
玄米1,000粒の重さ。
6)延し工程
生地を薄く、板状に延ばし、型抜きで整型する工程。
表1.「亀の蔵」の生育特性


図1.食味官能試験における「亀の蔵」の炊飯米の粘り
注)コシヒカリを基準とし、-3(粘らない) ~0(基準と同) ~+3(粘る)の7段階で評価。2006~2008年の3カ年の平均。パネル数は24名。
表2.「亀の蔵」の精白米中のアミロース含有率(%)

表3.「亀の蔵」の米菓の加工適性(2010年 亀田製菓株式会社)


写真1.「亀の蔵」の草姿
(左:亀の蔵、右:あきたこまち)

写真2.新潟県上越市における「亀の蔵」
(左:あきたこまち、右:亀の蔵)

写真3.「亀の蔵」の籾および玄米
(左:亀の蔵、右:あきたこまち)