プレスリリース
研究者と農業現場が相互に情報を発信・共有できる「雑草生物情報データベース」を公開

情報公開日:2015年4月 7日 (火曜日)

ポイント

  • 国内の様々な雑草に関する最新の情報を研究者と農業従事者が相互に発信・共有できます。
  • 雑草種ごとの分布状況・防除方法・除草剤抵抗性、新たな難防除雑草の詳細などを知ることができ、利用者からの防除事例や分布の情報がデータベースに蓄積されます。

概要

  • 農研機構は、農業雑草の発生・被害・防除法に関する国内の最新情報を研究者と農業従事者が相互に発信・共有できるシステム「雑草生物情報データベース」を構築しました。農研機構内の「生態的雑草管理プロジェクトポータルサイト(http://weedps.narc.affrc.go.jp/)」で公開しています。
  • このデータベースは一般的な雑草の防除管理情報を集めた「雑草情報検索システム」に加えて、最近大きな問題になっている雑草を対象にした「除草剤抵抗性雑草検索システム」と「外来雑草早期警戒システム」の、合わせて3つのシステムから構成されています。
  • 調べたい雑草の種名が分からない場合でも、写真画像や形態的特徴による検索が可能です。
  • 雑草管理の専門家が蓄積した情報に加えて、利用者が提供する防除事例や分布情報もデータベースに整理、蓄積され、検索、出力対象情報として広く利用されることを期待します。

詳細情報

研究の背景

我が国の水田作、畑作、飼料作等の土地利用型作物の生産現場の一部で、外来雑草1)や除草剤抵抗性雑草2)などの慣行の除草体系では防除が難しい雑草の増加が問題を引き起こしています。さらに温暖化の進行によるこれら雑草被害の増大も懸念されています。最近は、各地の中核的な担い手を中心に経営規模の拡大が急速に進み、低コストで省力的な栽培技術の活用が増える一方で、環境保全型農業の推進による減農薬、有機栽培の取り組みも増えています。多様な耕地利用と栽培体系に応じて、雑草問題は極めて複雑化しています。除草剤に過度に依存した慣行の除草体系においては、多種多様な雑草に対応することは困難であることから、雑草の生態を良く理解しながら適切な防除技術を組み合わせて、雑草の発生を経済的被害が生じないレベルに抑える総合的雑草防除技術(Integrated Weed Management; IWM)3)の開発とその普及が求められています。

研究の経緯

多様な雑草の生物特性や種々の防除情報を活用して体系化するIWMを構築するために、雑草に関する種々様々な情報を一元的に収集、整理、蓄積する必要が出てきました。特に、国内の雑草発生分布や雑草管理技術に関しては、研究者や技術開発者と農業従事者、農業改良普及員等の農業現場における利用者が双方向にリアルタイムに最新の情報を発信・共有できるシステムの構築が必要となってきました。そこで、農研機構の生態的雑草管理プロジェクトでは、これらの要件を満たすシステムとして「雑草生物情報データベース」を構築しました。また、新たな難防除雑草として各地に被害をもたらしている除草剤抵抗性雑草と外来雑草については、その発生動向と防除技術の詳細情報を検索できるシステムを本データベース内に備えることとしました。

研究・普及の内容・意義

  • 本システムは、Webブラウザから利用するWebアプリケーションによって構築されており、ポータルサイトと「雑草情報検索システム」、「除草剤抵抗性雑草検索システム」、「外来雑草早期警戒システム 」の3システムからなるデータベース検索サイトによって構成されています。データベース検索サイトへの入り口としてポータルサイトが設置されています(図1)。この構成により、利用者の目的に応じた、雑草情報の適確、スムーズな検索が可能です。
  • 「雑草情報検索システム」では、和名及び学名が不明な場合でも、形態、大きさ、対象作物等の検索条件に該当した最大20枚の草種別画像による草種検索(画像検索)及び対象作物別の管理情報の検索を行うことができます(図2)。本システムにおける総搭載種数は約1200種、和名対応種は約1000種、画像搭載種数は約600種です。また、防除事例については、同システムの管理情報画面の専用フォームを利用して農業現場からデータベース(管理者)に情報を提供することにより、利用者間で情報を共有することができます(図3)。
  • 「除草剤抵抗性雑草検索システム」では国内における除草剤抵抗性雑草の確認情報や防除に有効な除草剤の情報を検索できるほか、「外来雑草早期警戒システム」では作物別に侵入段階に応じた管理優先順位上位種を検索し、ランキング表示できることから、利用者の目的に応じて活用することが期待できます。
  • 利用者はポータルサイトを利用して、不明の雑草の名前や防除方法などを農業現場から問い合わせることができます。さらに、専用フォームの利用により、雑草の発生分布、被害状況等の情報についてもデータベース(管理者)を介して情報を発信することができます(図4)。

今後の予定・期待

今後は、より使いやすいデータベースとなるよう、公開内容についての一般利用者の意見をもとに、システムの改良を行っていく予定です。また、このシステムを活用して、研究者や技術開発者と農業現場が双方向に情報を発信・共有することにより、総合的雑草防除技術(Integrated Weed Management; IWM)の構築がより一層進むことが期待されます。

用語解説

  • 1)外来雑草
    • 海外から意図的あるいは非意図的に人の手によって持ち込まれる雑草をさします。輸入飼料に種子が混入して多種多様な外来雑草が農耕地に侵入していることがわかっています。
  • 2)除草剤抵抗性雑草
    • ある特定の除草剤成分に対する感受性が特に低いため、通常であれば防除できる使用量を用いても生き残るものを除草剤抵抗性雑草といいます。同一の雑草種の中で特定の除草剤成分について感受性の低い変異が発達する場合に用い、もともとその除草剤成分について防除効果がなかった草種については除草剤抵抗性雑草とはいいません。
  • 3)総合的雑草防除技術(Integrated Weed Management; IWM)
    • 雑草を防除する方法には生物的防除法、化学的防除法、物理的防除法、耕種的防除法などがあり、それらをうまく組み合わせて雑草の発生を経済的被害が生じないレベルに抑え、管理する技術を総合的雑草管理(IWM)といいます。IWMを構築するためには、対象とする雑草の生態を良く理解し、各種防除方法を組み合わせて、管理体系を組み立てる必要があります。

図1図1 生態的雑草管理プロジェクトポータルサイト

図2図2 「雑草情報検索システム」における草種検索結果出力画面

図3図3 「雑草情報検索システム」における草種・対象作物別管理情報出力画面

図4図4 「ポータルサイト」における利用者からの情報登録画面