プレスリリース
環境に優しく効果的な「土着天敵を活用する害虫管理 最新技術集」と「事例集」を公開しました

情報公開日:2016年8月30日 (火曜日)

果樹や野菜の重要害虫は、農薬に対する抵抗性を持つようになり防除が難しくなっています。そこで、地域に生息する土着天敵を活用して害虫の発生を効果的に抑制する技術を開発し、これを指導者向けの「最新技術集」としてウェブ公開しました。合わせて、生産者向けに代表的な技術を分かりやすく紹介した「事例集」を公開しました。

概要

  • 農研機構は大学並びに県の研究機関と連携し、リンゴやカンキツなどの果樹で問題となっているハダニ類、ナスやネギなどの野菜で問題となっているアザミウマ類などの重要害虫への対策として、土着天敵を活用した防除技術を開発し、その詳細について、病害虫防除所や普及担当機関で技術指導に取り組む者や、天敵利用の高度化を志向する生産者向けに「最新技術集」を取りまとめました。
  • 天敵に影響の少ない農薬を選択し、その使用回数を減らすことで土着天敵が圃場で働ける環境を整えます。また、圃場内に天敵が好む植物を植栽するなどの植生管理を行うことによって土着天敵が定着・増殖しやすくします。このような方法で天敵を増やすことにより圃場内の害虫の数を低く保つことができます。
  • 加えて、「最新技術集」では、イネの主要害虫ヒメトビウンカの海外からの飛来予測技術、および近年、国内で分布拡大が懸念されている害虫ミナミアオカメムシの分布拡大予測技術とその活用法も紹介しています。
  • さらに、天敵利用の経験がない生産者の方にも「土着天敵の活用」に関心を持っていただけるよう、技術のポイントを分かりやすくまとめた「事例集」を作成し、それぞれの技術を実践した農家の声も掲載しました。
  • 電子版の最新技術集と事例集(PDF形式)は、下記URLからダウンロードできます。事例集は冊子体も作成しましたのでご希望の方は下記問い合わせ先にe-mailでお申し込みください(部数に限りがあるため配布は先着順となります)。
    http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/laboratory/narc/manual/069415.html
  • 本成果は、農林水産省農林水産技術会議の委託プロジェクト研究「土着天敵を有効活用した害虫防除システムの開発」(平成24?27年度)により実施したものです。

詳細情報

事例トピックス

  • 1.ヒメハナカメムシ類の活用  アザミウマを捕食するヒメハナカメムシ
    • ヒメハナカメムシ類はナスをはじめ多様な野菜で問題になっているアザミウマ等の害虫を捕食する天敵。圃場周辺にマリーゴールドやオクラ等を栽培すると、それらの花粉、花蜜、分泌物等が栄養源となり本天敵の生存率を高めることができる。これらの温存植物によって天敵の働きを強化することで、殺虫剤の使用を最小限にとどめつつ害虫被害を低減する。
      • 農家の声:天敵の効果を実感しています(奈良県)。農薬の散布回数が4分の1くらいに減り、身体的・精神的にストレスがなくなりました(宮崎県)。
  • 2.タバコカスミカメの活用タバコカスミカメ
    • タバコカスミカメは、ナスやシシトウ等の害虫であるアザミウマ類やコナジラミ類の天敵。ゴマや熱帯アメリカ原産の花きクレオメを温存植物として栽培することで、安定した効果が期待でき、露地ナスから施設ナス、再び露地ナスへと継続して利用することが可能。また、地域にこれらの植物を栽培した天敵温存用ハウスを用意することで集落レベルでの効率的な天敵利用ができる。
      • 農家の声:秀品率が上がりました(徳島県)。害虫防除が本当に楽になりました(高知県)。
  • 3.カブリダニ類の活用ナミハダニ
  • カブリダニ類は果樹や野菜の害虫であるハダニ類等の微小な害虫を捕食する天敵で、一部は生物農薬として市販されている。果樹では、カブリダニ類にも悪影響のある殺ダニ剤等の農薬の散布を控え、生息場所となっている下草を養成することで土着のカブリダニ類を保護して、害虫ハダニ類の発生を抑制する。
    • 農家の声:ダニ剤の散布を我慢したところ、3年目と4年目にはナミハダニの発生が問題ないほど少なくなった(秋田県)。
  • ※この他、水稲、ネギ、リンゴ、カンキツ等での天敵利用の事例を紹介。

用語解説

  • [天敵]:害虫に寄生して殺す、あるいは害虫を捕食する生物(昆虫、クモ、ダニなど)。
  • [温存植物]:天敵の生息や増殖を目的に栽培する植物。
  • [アザミウマ類]:体長1mm前後、成虫は毛ばたき状の翅を持つ。野菜等の重要害虫。
  • [コナジラミ類]:体長1-3mm、成虫は白い翅を持つ。吸汁害に加え、大量の排泄物がすす病を誘発する。アザミウマ類、コナジラミ類はウイルス病媒介も問題になる。
  • [ナミハダニ]:体長約0.5mm。増殖が早く、薬剤抵抗性が問題となることも多い。