新品種育成の背景と経緯
米粉用米などの新規需要米の作付けが推進されており、米粉パンや米麺などの普及が広がりつつあります。米麺の原料には「コシヒカリ」などの中アミロース米ではなく高アミロース米が適するとされており、高アミロース品種「越のかおり」から製造されたアジア風の米麺が複数のレストランチェーンで好調な売れ行きを見せています。しかし、「越のかおり」の収量は「コシヒカリ」などの主食用品種並の水準であり、低コスト化を図るため、収量性の改善が要望されていました。また、「越のかおり」は「コシヒカリ」と収穫時期が同じとなるため、作期分散が可能となる品種が必要とされていました。
そこで農研機構は、麺に加工した際の品質はそのままで、収量性が向上した高アミロース品種「亜細亜のかおり」を育成しました。
「亜細亜のかおり」の特徴
- 収量性に優れた「関東239号(後の「やまだわら」)」を母とし、高アミロース含量の「北陸207号(後の「越のかおり」)」を父とした交配から育成した品種です。
- 育成地(新潟県上越市)での出穂期および成熟期は多収穫の品種として普及が進められている「あきだわら」とほぼ同じです(表1)。「コシヒカリ」よりも収穫期が2週間以上遅くなります。
- 稈長、穂長は「あきだわら」よりもやや短く、穂数は「あきだわら」よりも多くなり、草型は「中間型」です(表1、写真1)。育成地での玄米収量は、「あきだわら」に比べて標肥栽培で4%、多肥栽培で2%程度、「越のかおり」に比べて標肥栽培で20%、多肥栽培で27%程度多収となります(表2)。
- 玄米には腹白が非常に多く、外観品質は主食用品種よりもかなり低下します(表2、写真2)。玄米は大粒で、千粒重は「あきだわら」よりも4g以上、「越のかおり」よりも3g程度大きくなります。
- アミロース含有率は32%程度で「コシヒカリ」より明らかに高く、「越のかおり」と同程度のアミロース含有率を示します(表3)。「あきだわら」のアミロース含有率は「コシヒカリ」と同程度で、米麺には適しません。「亜細亜のかおり」米麺の食味は「越のかおり」と同等で、いずれの評価項目でも有意差はありません(図1)。
- 耐倒伏性は中で、穂発芽性はやや難、葉いもち圃場抵抗性はやや強、穂いもち圃場抵抗性は弱、縞葉枯病には罹病性、白葉枯病抵抗性は中です(表4)。
- 栽培適地は、北陸から東海、関東以西です。
栽培上の留意点
- 穂いもちに弱く、縞葉枯病に罹病性のため、常発地での栽培は防除を徹底してください(表4)。
- 耐倒伏性は中で倒伏には強くないため、過剰な施肥は倒伏を招きます。地力にあわせた適切な肥培管理を行ってください。
品種の名前の由来
東南アジアで広く食べられている米麺が日本にも広まることを願って命名しました。
今後の予定・期待
平成30年度より新潟県上越市で作付けが始まっており、初年度は数ha、数年後にはさらなる普及が見込まれています。
用語の解説
- アミロース
アミロペクチンと共にデンプンを構成する成分です。デンプンは、グルコース(ブドウ糖)が直鎖状につながったアミロースと、分枝状につながったアミロペクチンから構成されます。アミロース含有率が低いほど、炊飯米の粘りは強くなります。日本の一般的な良食味米品種のアミロース含有率は、16~18%程度で、「ミルキークイーン」などの粘りが強い低アミロース品種は10~15%程度、もち米は0%です。「亜細亜のかおり」のアミロース含有率は、30%程度なので、炊飯米の粘りは少なく、冷めるとポロポロとした食感になりますが、米粉麺の製造には適した特性です。
- 作期分散
直播や移植時期をずらす、などの栽培方法や収穫時期が異なる複数の品種を組み合わせて移植・収穫などの農繁期を分散すること。
参考図






