プレスリリース
(研究成果) 「関東地域における大豆有機栽培技術体系」標準作業手順書を公開

- 品種選定、播種時期、早期中耕培土がポイント -

情報公開日:2024年4月16日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、関東地域における大豆有機栽培技術体系を開発し、このたび標準作業手順書を公開しました。本手順書では、品種選択や病害虫・雑草防除のポイント等をわかりやすく示しています。有機大豆の関東での生産拡大に役立つとともに、今後本手順書が国内各地域に適した栽培体系に応用されることにより他地域での生産拡大にも貢献しうると考えられます。また「みどりの食料システム戦略」に掲げられている、有機農業の取組面積目標の達成に貢献します。

概要

農林水産省では、2021年に「みどりの食料システム戦略」を策定し、その中で「2050年までに、有機農業の取組面積の割合25%(100万ha)」という目標を掲げています。この達成には水稲や大豆などの土地利用型作物の面積拡大が重要となりますが、これまで大豆有機栽培については栽培体系が確立されていませんでした。

そこで農研機構中日本農業研究センター(茨城県つくば市)では、大豆の有機栽培で問題となる雑草や病害虫等へ対応する技術を開発・体系化し、このたび「関東地域における大豆有機栽培技術体系」標準作業手順書として取りまとめ本日公開しました。

本標準作業手順書では、主なポイントとして品種や播種時期の変更による収量確保や虫害回避、早期の中耕培土1)による雑草防除等の効果を具体的データを示しながら解説しています。

現在、大豆の有機栽培を実施中または検討中の生産者の方々に本標準作業手順書を活用いただくことで関東での生産拡大に役立つとともに、今後本手順書が国内各地域に適した栽培体系に応用されることにより他地域での生産拡大にも貢献しうると考えられます。また、今後水田転換畑での水稲・大豆等を含む有機栽培体系構築にも活用していただけます。大豆のような土地利用型作物における面積拡大は「みどりの食料システム戦略」に掲げられている有機農業の取組面積目標の達成に貢献します。

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 中日本農業研究センター 所長橘田 和美
研究担当者 :
同 温暖地野菜研究領域研究領域 有機・環境保全型栽培グループ長補佐田澤 純子
広報担当者 :
同 研究推進室 広報チーム長谷脇 浩子

詳細情報

開発の社会的背景

農林水産省では、2021年に我が国の食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を策定しました。その中で、目標として「2050年までに、オーガニック市場を拡大しつつ、耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大することを目指す」と掲げられています。

一方、2021年度に日本国内で消費されたと考えられる有機農産物の国内・海外産の割合は、米(有機米)については90.3%が国内産であるのに対し、大豆(有機大豆)については国内産は10.9%であり、大半が海外産となっています(農林水産省、令和3年度認証事業者に係る格付実績)。このことは有機大豆の需要に対して国内での生産量が不足していることを示しており、有機大豆の国内生産の拡大が強く求められています。

研究の経緯

我が国では、大豆を含めほぼ全ての農作物の慣行栽培において、生産量を確保するためには、化学合成農薬等を使用した雑草や病害虫防除等における適期作業が求められますが、有機栽培では化学合成農薬を使用せずに雑草や病害虫等に対応することが必要となります。しかし、大豆の有機栽培に重要な個々の技術や、それらの技術を他の栽培技術と組み合わせた栽培体系は確立されておらず、有機栽培の取り組みが進みにくい状況でした。このため、国内生産の拡大を目的とし、大豆の有機栽培における雑草・病害虫防除等の技術を確立するとともに、それらを体系化し、わかりやすい標準作業手順書として取りまとめました。

研究の内容・意義

本標準作業手順書では、ほ場準備から収穫に至る作業体系の概要(図1)や、栽培上の主なポイントを解説しています。

図1 大豆有機栽培体系の概要
図中の「月(青字)」は茨城県南部で中生・晩生の大豆品種を有機栽培で栽培する場合の目安を示したものであり、栽培する品種や地域の気象条件等によって変動します。
  • 有機栽培には晩生で小粒・多莢の品種が適しています
    早生品種は避け、晩播適応性の高い中生品種または晩生品種を利用します。関東地域では、「納豆小粒」「フクユタカ」や各地の在来品種等が適していると考えられます(図2)。
    図2 品種の早晩性と有機栽培での収量(2008-2010)
    農研機構観音台試験ほ場(茨城県つくば市)でのデータ。収量は3年間平均値。右側ほど晩生の品種を示している。
  • やや晩播が収量確保のカギです
    試験で使用した「タチナガハ」は関東地方の慣行栽培では6月上~下旬の播種が一般的です。一方、有機栽培では、慣行栽培に比べてやや晩播(7月上~中旬)が適していると考えられます(図3A)。播種を遅くすることにより開花期が遅くなり、カメムシ等による吸汁害が軽減され、慣行の7割程度の収量を得ることが可能です。「フクユタカ」は「タチナガハ」に比べ晩生で、開花期が遅く有機栽培に適していると考えられます(図2、図3B)が、早播きすると徒長・倒伏の危険性が増し減収の可能性があるので7月上中旬の播種が適すると考えられます。
    図3 播種日と収量
    A:品種「タチナガハ」、B:品種「フクユタカ」
    農研機構観音台試験ほ場(茨城県つくば市)での2ヶ年(2013, 2014)のデータ。数字は慣行栽培に対する有機栽培の収量の割合。
  • 早期中耕培土で雑草を抑えます
    慣行栽培では、土壌処理型除草剤の効果が消失する時期(播種後3~4週間後)に1回目の中耕培土を行うのが一般的です。一方、除草剤を使用できない有機栽培では、大豆本葉1枚目が展開する頃(大豆播種10~14日後)を目安に中耕培土する(「早期中耕培土」)ことにより、開花期頃の雑草量を大幅に低減できます(図4)。
    図4 有機栽培での中耕培土の時期による残存雑草量の比較
    農研機構谷和原試験ほ場(茨城県つくばみらい市)での2013年のデータ。早期培土区では播種12日後と26日後、通常培土区では播種19日後と32日後に培土を行った。

その他の作業省力化や排水対策、また各種病害虫対策等の個別技術も紹介しています。

今後の予定・期待

本手順書により、大豆有機栽培に取り組む生産者が増え、栽培面積及び生産量の増加が期待されます。また、大豆のような土地利用型作物における面積拡大は「みどりの食料システム戦略」に掲げられている有機農業の取組面積目標の達成に貢献すると考えられます。今回の手順書は関東地域を対象としたものですが、国内の他の地域でも有機栽培のポイントは共通すると考えられます。今後普及に当たっては、各現場で本技術の適応化を図るとともに、生産性の評価と国産有機栽培大豆に対するニーズを踏まえて計画、導入することが大切です。

さらに、既刊の「高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培体系標準作業手順書」(https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/140574.html)と併せて活用することで、汎用化水田等での水稲・大豆輪作有機栽培体系が可能となり、水田での有機栽培に取り組みやすくなると考えられます。

用語の解説

中耕培土
作物が植えられている畝の間の土を耕うん(中耕)しながら、その土を畝上の作物の株元にかける作業(培土)のことです。中耕培土には雑草防除、生育促進、倒伏防止等の効果があります。[概要へ戻る]

発表論文

  • 田澤純子・三浦重典(2016)関東地域の有機栽培に適したダイズ品種の特性 および栽培体系.日作紀 85(1)23-32
  • 三浦重典・田澤純子・白石昭彦・野副卓人・内野彰・万小春(2014)大豆の有機栽培における早期培土作業による雑草抑制効果.日本作物学会第 237回講演会要旨集 302-303

研究担当者の声

中日本農業研究センター 温暖地野菜研究領域 有機・環境保全型栽培グループ グループ長補佐田澤純子

「タチナガハ」の播種時期を遅らせることで虫害を回避し収量が増加した経験から、有機栽培では自然の摂理を利用することが大事だと痛感しています。有機農業の拡大に向けて、少しでも貢献できればと考えています。