プレスリリース
早生、良食味で結実性の良いカンキツ新品種「津之望」

- 年内に成熟し、連年安定生産できる品種を育成 -

情報公開日:2010年10月27日 (水曜日)

ポイント

  • 年内に収穫でき、食味の良いカンキツ新品種「津之望(つののぞみ)」を育成しました。
  • 隔年結果性が低く、連年安定生産が容易な品種です。

概要

  • 農研機構果樹研究所【所長 長谷川美典】は、早生で食味の良いカンキツ新品種「津之望」を育成しました。
  • 「津之望」は露地栽培でき、12月中下旬に成熟期を迎える早生品種で、隔年結果性が低く、連年安定生産が容易です。果実は190g程度とウンシュウミカンより大きく、皮が剥けやすく、芳香があって食味の良いのが特徴です。浮皮も発生しにくく、商品果率の高い品種として、今後の普及が期待されます。

詳細情報

新品種育成の背景・経緯

年内に収穫されるカンキツの多くを占めるウンシュウミカンは、近年価格低迷が続いており、生産農家の経営は厳しい状況にあります。そのため、ウンシュウミカンと同時期に出荷が可能な商品性の高い早生品種の育成が求められています。

そこで、露地栽培が可能で、年内に成熟し、隔年結果性が低く、皮が剥けやすく食味に優れた品種を育成しました。

新品種「津之望」の特徴

  • 樹勢は中程度、樹姿は直立性と開張性の中間で、枝梢は太く、長く密生します。12月中下旬に成熟する早生のカンキツ品種です。露地栽培で果汁の糖度は12%程度と比較的高く、減酸は早い品種です。「アンコール」に類似した芳香があり食味に優れています(表1)。
  • 果実は平均190g程度、果形は扁球形です。果皮は橙色で、厚さは約2.4mmで薄くて軟らかく、剥皮は比較的容易です。また浮皮はほとんど発生しません。果肉は濃橙色で、肉質は軟らかくて果汁量は多く、じょうのう膜は薄くて軟らかく、食べやすいのが特徴です(図1、図2、表1)。
  • 種子数は少なく、食べやすい品種です(表1、図1)。なお、小さな不完全種子は多く入ります。花粉の多い品種を混植すると、種子数が増加します。
  • 結実性は良好で、隔年結果性が低く、連年安定生産が容易です(表1)。
  • そうか病には強く、かいよう病に対しては中程度の抵抗性があります。また、ステムピッティングの発生はみられません。
  • 年内に成熟しますので、わが国のほとんどのカンキツ栽培地帯に適します(表1)。

表1「津之望」の樹勢及び果実特性

表1「津之望」の樹勢及び果実特性の続き

 

図1 「津之望」の果実
図1 「津之望」の果実

図2 「津之望」の結実状況
図2 「津之望」の結実状況

品種の名前の由来

育成地の様子を表す「津」にちなむとともに、カンキツ産業に希望をもたらす品種になるようにとの期待を込めて命名しました。

種苗の配布と取り扱い

平成22年7月12日に品種登録出願(品種登録出願番号:第25,000号)を行い、平成22年9月15日に品種登録出願公表されました。

お問い合わせ先

果樹研究所
企画管理部 運営チーム
Tel 029-838-6443

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構 情報広報部
知的財産センター 種苗係
Tel 029-838-7390
Fax 029-838-8905

用語の解説

隔年結果
たくさん果実のなる表年(おもてどし)と結実の少ない裏年(うらどし)を交互に繰り返す現象です。カンキツではほぼ全種でみられ、その程度や強弱が問題となります。
浮皮(うきかわ)
果実成熟期にみられる現象で、アルベド(果皮の内側の白い綿状組織)の崩壊が進み、果皮が膨張生長することで、果皮と果肉が分離した状態。貯蔵性が低下します。成熟期の降雨や高温が発生を助長します。
減酸
カンキツ果実に含まれる主要な有機酸はクエン酸で、果汁の蓄積とともにクエン酸が集積します。果実が成熟するに従い、徐々にクエン酸含量が低下することをいいます。
アンコール
アメリカで育成された晩生のマンダリン品種。強い香気と甘味の強さが特徴です。温度要求量が高く、わが国で露地栽培した場合には、果実の肥大が劣ります。このため主に施設栽培されています。
じょうのう膜
カンキツの果肉は、10個程度の放射状に並んだ小袋(じょうのう)に包まれており、このじょうのうの皮のことをいいます。この膜の厚さや硬さが、食感や食べやすさに大きく影響します。
不完全種子
遺伝的原因、雌性器官の異常などにより、受精胚、胚乳が発育途中で退化・萎縮した種子のことで、「しいな」ともいいます。
そうか病
葉や果実の表面に、イボ状に隆起する「イボ型」やかさぶた状の「そうか型」の病斑をつくる病気です。発芽期から4月中旬ごろまでに降雨が多く、日照不足となると発生が多くなります。
かいよう病
葉や果実に水浸状の病斑ができ、病斑中央部の表皮が破れコルク化する病気です。落葉したり、果実の外観を大きく損ねるため商品価値が著しく低下します。
ステムピッティング
幹(ステム)の木質部に発生するくぼみ(ピッティング)のことで、カンキツトリステザウイルスの感染による病徴です。果実が小さくなるなどの影響がみられます。