プレスリリース
プラムポックスウイルスの発生に対応した緊急研究の成果

- 根絶をめざした緊急防除に反映 -

情報公開日:2010年4月22日 (木曜日)

ポイント

  • プラムポックスウイルス(PPV)を誰でも簡単に診断できるキットを開発しました。
  • 国内発生PPVが実験室内でアブラムシにより伝染することを確認しました。
  • 国内でPPVによる植物の病気が発生してから10年以上経過していると推定しました。

概要

農研機構 果樹研究所【所長 長谷川美典】は、東京大学、法政大学、東京都農林総合研究センター及び農研機構 中央農業総合研究センターと共同で、2009年に国内で初めて発生が確認されたプラムポックスウイルス(PPV)について緊急対応研究を行いました。研究成果は以下のとおりです。1)PPVを誰でも簡単かつ迅速に診断できるキットを開発しました。2)国内で発生したPPVが実験室内でアブラムシにより伝染することを確認し、また、接ぎ木によりウメ以外に少なくともセイヨウスモモにも感染することを明らかにしました。3)ウイルスの遺伝子解析結果から、国内でPPVによる植物の病気が発生してから10年以上経過していると推定しました。

これらの成果は、国内からこのウイルスを根絶するために農林水産省が実施している植物防疫法に基づいた緊急防除などに活用されています。

予算

農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」


詳細情報

研究の社会的背景

2009年3月、東京大学植物病院がこれまで国内では発生の報告がなかったプラムポックスウイルス(PPV)を青梅市のウメから検出しました(図1)。これを受け、農林水産省が青梅市のウメ等について緊急調査を行った結果、同年4月にPPVによる植物の病気が 発生していることを確認しました。その後の調査によって、青梅市の他、あきる野市、八王子市、奥多摩町及び日の出町の一部地域にも本病の発生が確認されました。このウイルスは、海外ではモモやスモモなどのサクラ属植物の果実に大きな被害を与えるとの報告があることから、国内への侵入を警戒する植物ウイルスのひとつです。

研究の経緯

本病のまん延を防止するとともに、国内の果樹生産への被害を未然に防止するため、農研機構果樹研究所は、農林水産省からの委託(新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業-緊急対応型調査研究-)を受けて、PPVを国内で初めて発見した東京大学及び東京都農林総合研究センターのほか、法政大学 及び農研機構中央農業総合研究センターと共同で緊急調査研究を行いました。

研究の内容・意義

1年間の研究の結果、PPVのウメへの感染を誰でも簡単かつ迅速に診断できるキットを開発しました。この成果は民間企業で活用され、診断キット「プラムポックスウイルスイムノクロマト」として製品化されました(図2)。また、国内で発生したPPVが実験室 内の試験で少なくともモモアカアブラムシにより伝染すること、接ぎ木によりウメ以外に少なくともセイヨウスモモに感染することを確認しました。これらPPVの伝染性が確認されたことにより、これ以上発生を拡大させないための対策を緊急に講じる必要があることが明らかとなりました。さらにウイルスの遺伝子解析の結果から、国内でPPVによる病気が発生してから10年以上経過しており、青梅市の周辺地域に広がったものと推定されました。これらの研究成果の一部は、4月18日から21日に京都で開催された平成22年度日本植物病理学会大会及び第10回植物ウイルス病研究会で発表しました。

今後の予定・期待

本研究の成果を踏まえ、農林水産省はPPV発生地域でのアブラムシ防除を徹底させるとともに、国内におけるPPV根絶のため、本年2月から植物防疫法(昭和25年法律第151号)に基づく緊急防除を開始しました。PPV感染樹及び感染のおそれがあるウメやモモなどのサクラ属植物等を廃棄するととも に、これら植物の発生地域からの移動を規制しています。また、本年、植物防疫所が行う本ウイルスの発生調査には、本研究で開発した診断キットが使用される予定です。

引き続きPPVの早期根絶を目指し、農研機構果樹研究所を中心に研究グループを組織し、ウイルスの性質の解明、超高感度検出法の開発、PPVを媒介するアブラムシの防除法の開発、感染源となる植物と拡散経路の解明などの研究を進め、効果的かつ早期の根絶と国内で再発生させないための対策に役立てたいと考えています。

PPVに感染したウメの症状
(図1 PPVに感染したウメの症状 a)葉の斑紋症状 (b)果実の奇形と輪紋症状

新規血清学的診断技術によるPPV診断キット
図2 新規血清学的診断技術によるPPV診断キット
a)イムノクロマトグラフィー法によるPPV診断キット
b)診断キットによる検出結果[陽性の場合は下側にバンド(矢印)が出現する。
上側のバンドは検出が正常に行われたことを示すコントロール]

用語の解説

プラムポックスウイルス(Plum pox virus 略称PPV)
1915年東欧のブルガリアで発見された植物ウイルスです。モモやスモモなどサクラ属の植物に感染し、葉や果実に輪紋・斑紋を生じるほか、奇形果、成熟前の落果、果肉の変質などの被害が知られています。アブラムシ及び接ぎ木で容易に感染し発生地域が拡大します。

1980年代にヨーロッパ全域に発生が拡大し、その後アフリカ、南アメリカ、アジアにも発生、1999年には北アメリカでも発生しました。広範囲に発生した場合には、果実生産に被害が大きくなることから各国で根絶を目指した防除が行われています。

また、このウイルスの和名については、日本植物病理学会において「ウメ輪紋ウイルス(仮称)」と報告されています。

なお、このウイルスは、植物に感染するものであり、人に感染しませんので、果実を食べても健康には影響ありません。