新品種育成の背景・経緯
ウメ果実の用途は主として、梅干し加工を目的として加工業者に販売される漬け梅用、家庭での梅酒・梅ジュース加工を目的として市場流通する青梅用、そして酒造会社や飲料会社で使用する梅酒等飲料用の3つがあります。国内のウメ出荷量のうち、全体の約40%が梅酒等飲料の加工原料として利用されて
おり、ウメの主要な消費形態となっています。近年、梅酒需要の高まりとともに、青梅を用いた梅酒だけでなく完熟果を利用した梅酒の製造など、味を意識したこだわりのある製品が増加しています。そこで、梅酒や梅ジュースなど飲料製造に適した品種の育成を行いました。
新品種「翠香」の特徴
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樹勢はやや強く、樹姿は開張と直立の中間です。花芽が多く着生し、結実良好です。育成地(茨城県つくば市)における開花期は3月上旬で、「南高」とほぼ同じで、「白加賀」より約5日早くなります。収穫期は6月下旬で、「南高」より3日程度早く、「白加賀」とほぼ同じです(表1)。
- 果実重は35g前後で、「白加賀」よりも3g程度、「南高」よりも10g程度小さいですが、核(種子)が小さく果肉が多いのが特徴です。果形は楕円形で、果皮色は淡緑色です(図1、2)。果肉色は、成熟に伴って淡緑色から黄色に変化し、完熟果は黄橙色となります。酸含量は収穫盛期で5.9%程度です(表1)。
- 「翠香」を用いた梅酒・梅ジュース製品には独特の芳香があります。特に完熟果を使用すると、酸味が多く香りが強い上質の梅酒・梅ジュースになります。
- ヤニ果の発生が比較的多いため(表1)、梅酒や梅ジュースなどの飲料用原料に向いています。梅干し製品の品質は「南高」に劣ります。
- かいよう病、黒星病には罹病性を示しますが、通常の薬剤散布により防除できます。
- 東北から九州までのウメ栽培地域で栽培できます。また、花粉はできますが、自家不和合性を示すため、交雑和合性の品種を混植する必要があります。「南高」とは交雑和合性を示します。

図1 「翠香」の結実状況

図2 「翠香」の果実
表1 「翠香」の樹性および果実特性

品種の名前の由来
果実が翠色(みどりいろ)で美しく、梅酒にすると独特の香りがあることから「翠香」と命名しました。
種苗の配布と取り扱い
平成21年7月15日に品種登録出願(品種登録出願番号:第23909号)を行い、平成21年9月24日に品種登録出願公表されました。
お問い合わせ先
果樹研究所 企画管理部 運営チーム
Tel 029-838-6443
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構 情報広報部 知的財産センター 種苗係
Tel 029-838-7390
Fax 029-838-8905
用語の解説
南高(なんこう)
国内生産量第1位のウメの品種です。主産地は和歌山県で、漬け梅が主な用途となっています。
白加賀(しろかが)
国内生産量第2位の品種です。主産地は群馬県、埼玉県、茨城県、宮城県で、青梅・漬け梅兼用品種です。
自家和合性と自家不和合性
同じ品種の花粉を受粉した場合、正常に受精(種子形成)して結実する性質を自家和合性、受精しない性質を自家不和合性といいます。
交雑和合性と交雑不和合性
違う品種の花粉を受粉した場合、正常に受精(種子形成)して結実する性質を交雑和合性、受精しない性質を交雑不和合性といいます。
ヤニ果(外ヤニ、内ヤニ)
ウメの生理障害の一つで樹脂障害果ともいいます。果肉内の一部に水飴状の樹脂(ヤニ)がたまるものを内ヤニ、内ヤニが果皮表面に漏出したものを外ヤニと呼びます。ヤニ果を漬け梅にした場合、ヤニの部分がしこりとなるため食感が悪くなり品質が低下します。