新品種育成の背景・経緯
現在栽培されている大粒ブドウは黒色の「巨峰」と「ピオーネ」に大きく偏っています。ブドウの需要の拡大のためには果皮色など外観が異なり、さらに食味の優れる大粒ブドウ新品種の育成が望まれています。また、近年は種なしブドウに対する要望が強くなっています。そこで、「巨峰」や「ピオーネ」とは異なる外観を持ち、食味が優れ、なおかつ、種なし栽培が可能な大粒品種の育成を行いました。
新品種「クイーンニーナ」の特徴
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樹勢は強く、育成地(広島県沿岸部)における発芽期および開花期は「巨峰」、「ピオーネ」よりやや遅いです。収穫期は8月下旬から9月上旬で、「巨峰」より約1週間遅く収穫できます(表1)。
- 果皮は鮮やかな赤色で外観が優れます。2回のジベレリン処理により、果粒重が平均17gの大粒種なしブドウになります(図1、2)。
- 糖度は21%程度、酸含量は0.4g/100ml程度となり、「巨峰」、「ピオーネ」より高糖・低酸です。また、肉質はヨーロッパブドウに近い崩壊性で(かみ切りやすくて)硬く、良いフォクシー香があり、食味は極めて優れています(表1)。
- 年と場所によりわずかに裂果することがあります(表1)。また、種なし栽培における花穂整形および摘粒にかかる労力は、「巨峰」や「ピオーネ」と同程度です。
- 東北地方南部から九州地方までの「巨峰」の栽培地域で栽培できます。
図1 「クイーンニーナ」の結実状況
図2 「クイーンニーナ」の果実
表1 「クイーンニーナ」の樹性および果実特性
品種の名前の由来
果樹研究所育成の赤色ブドウ「安芸クイーン」の子であり、旧系統名である「安芸津27号」の「27」と、スペイン語で女の子を意味するNINA(ニーニャ)にちなんで「クイーンニーナ」と命名しました。
種苗の配布と取り扱い
平成21年7月15日に品種登録出願(品種登録出願番号:第23912号)を行い、平成21年9月24日に品種登録出願公表されました。
お問い合わせ先
果樹研究所 企画管理部 運営チーム Tel 029-838-6438
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構 情報広報部 知的財産センター 種苗係 Tel 029-838-7390 Fax 029-838-8905
用語の解説
ヨーロッパブドウ
ヨーロッパブドウはヨーロッパから西アジア原産のブドウで、品質が優れる一方、降雨による裂果が生じたり、耐病性が弱いため、雨が多い我が国では露地栽培が困難です。我が国では、「マスカットオブアレキサンドリア」等、一部の品種がガラス室やハウス栽培といった降雨を遮った栽培方法で生産されています。これに対して、アメリカブドウは、アメリカ東部原産のブドウをもとに交配・育成されたブドウです。耐寒性、耐病性が強く、我が国でも栽培ができる反面、ヨーロッパブドウに比べ品質が劣ります。「キャンベルアーリー」、「ナイヤガラ」等がこれにあたります。「巨峰」、「ピオーネ」、「クイーンニーナ」は、ヨーロッパブドウとアメリカブドウを掛け合わせたものです。
肉質
生食用のヨーロッパブドウは噛み切れやすく(崩壊性で)、硬い肉質を持ち、このような肉質が生食用として好ましいとされています。一方、アメリカブドウは噛み切りにくい(塊状の)肉質を持っており、ヨーロッパブドウに比べると肉質は劣ります。我が国で作られている品種の多くはこれらを掛け合わせたものなので、両者の中間の肉質を持つ品種が多いですが、「クイーンニーナ」はヨーロッパブドウに近い肉質を持っています。
フォクシー香
アメリカブドウに由来する香りの一種です。「キャンベルアーリー」、「巨峰」、「ピオーネ」、ジュース原料等に使われる「コンコード」の香りもフォクシー香です。
種なしブドウ
ブドウにはもともと種子がない品種もありますが、小粒のため、日本での商業生産には向いていません。「巨峰」、「ピオーネ」等
はもともと種子がある品種ですが、ジベレリンを定められた用法で用いることによって大粒・種なし果実として生産されています。「クイーンニーナ」も、ジベレリンを用いることによって種なしにできます。
花穂整形、摘粒
店頭に並ぶブドウは形の良い房の形をしていますが、放任状態での栽培ではこのようなきれいな房になりません。開花期にある程
度房の形を整える花穂整形と、開花後に所定の果粒数にするとともに、最終的な房の形を整える摘粒を行うことにより、初めてきれいな房形になります。一方、花穂整形、摘粒は、ブドウ生産者にとっては労力と手間のかかる作業です。「巨峰」、「ピオーネ」はこの作業が他の品種に比べて少ない方であり、「クイーンニーナ」もこれらの品種とほぼ同程度の労力で済みます。