プレスリリース
中生、良食味の施設栽培向きカンキツ新品種「あすみ」

- 極めて糖度が高く、商品性の高い品種 -

情報公開日:2012年3月22日 (木曜日)

ポイント

  • 糖度が極めて高く、食味が優れる中生カンキツ新品種「あすみ」を育成しました。
  • 施設栽培に向いています。

概要

  • 農研機構果樹研究所は、2月上旬に成熟期を迎える中生品種で、糖度が概ね15%以上と極めて高く、芳香があり、食味がたいへん優れるカンキツ新品種「あすみ」を育成しました。
  • 「あすみ」は、かいよう病に弱いので、施設栽培向きの品種です。施設栽培することにより、かいよう病の発生が抑えられ、赤みの強い果皮色となり、商品性が高まります。
  • 「あすみ」は、少し種子ができますが、じょうのう膜がやや軟らかく、食べやすい品種です。浮皮の発生は見られません。機能性成分のβ-クリプトキサンチンはウンシュウミカンと同程度に多く含まれています。

関連情報

予算:運営費交付金
品種登録出願番号:26542


詳細情報

品種開発の背景・経緯

1~2月に成熟する中生カンキツは、果樹研究所が育成した「はるみ」、「せとか」、「天草」や公立試験研究機関で育成された「甘平」、「せとみ」などの普及が進んでいます。しかし、これらは年によっては、糖度上昇が十分でない場合や酸が高い場合もあります。そこで、糖度をさらに高く、食味が優れるととともに、剥皮可能で食べやすい中生品種を目指し、選抜、育成したのが「あすみ」です。

「あすみ」は、「カンキツ興津46号」(1月に成熟し、剥皮性はやや劣るものの、オレンジ様の香りがあり、種子が少なく食味に優れた系統)に、「はるみ」(1月下旬に成熟し、剥皮性に優れ、種子が少ない上に、じょうのう膜が薄くて食べやすく、食味の優れた品種)を交雑して育成しました。

新品種「あすみ」の特徴

  • 樹勢は中程度、樹姿は直立性と開張性の中間です。現在のところ、枝梢のとげは発生が多く、長い特性があります(表1)。
  • 露地栽培も可能ですが、かいよう病には弱いため、施設栽培向きの品種です。そうか病に対しては抵抗性が強いです。隔年結果性は中程度で、「せとか」並です(表1)。
  • 果実は150g程度、果皮は橙色で、滑らかで薄く、剥皮のしやすさは中程度です(表2、写真1)。また、露地栽培では完全着色しにくく、緑斑が残ることがあります。
  • 成熟期は2月上旬で、果汁の糖度は15.7%と極めて高く、クエン酸含量は1.0%程度となり、オレンジ様の芳香があるため、食味がたいへん良好です。果肉は濃橙色で、肉質はやや硬く食感に特徴があります。じょうのう膜は軟らかく食べやすい品種です。種なし果の割合は高くありませんが、種子数は1.5個と少ない品種です(表2)。
  • 浮皮の発生は見られません(表2)が、果実肥大期に裂果が発生することがあります。
  • 機能性成分のβ-クリプトキサンチン含量は果肉100gあたり1.66mgと多く、ウンシュウミカンの「興津早生」と同程度含みます(表3)。
  • 施設栽培において、16%程度の高糖度果実の生産が可能です(表4)。かいよう病の発生はほとんど見られず(表4)、果皮色の赤みが増し(表5)、外観が良好で商品性の高い果実の生産が可能です。

表1「あすみ」の樹体の特性(農研機構果樹研究所カンキツ研究興津拠点 2009~2010年露地栽培)

表2「あすみ」の果実特性(農研機構果樹研究所カンキツ研究興津拠点 2009~2010年露地栽培)

表3「あすみ」の機能性成分含量(農研機構果樹研究所カンキツ研究口之津拠点露地栽培)

表4「あすみ」の施設栽培における果実特性(2008~2010年)

表5 施設および露地栽培における「あすみ」の果皮色

写真1 「あすみ」の果実

栽培上の留意点

「あすみ」の糖度は高く、また、土壌および気象条件に対する適応範囲は広いので、シートマルチによる水分ストレス処理を与えることなく、高糖度果実生産が可能です。

かいよう病の発生防止と着色良好な果実生産のため、施設栽培向きの品種です。なお、施設栽培では裂果の発生を抑制するために、果皮が薄くなりすぎないよう加温開始時期には留意し、また急激な土壌水分量の変動がないよう土壌水分管理に注意する必要があります

今後の予定・期待

「あすみ」は大分県、福岡県、長崎県、宮崎県の試験地において有望と評価されており、これらの産地から導入が始まると期待されます。

品種の名前の由来

「あすみ」は、「はるみ」の子であることと、明日のカンキツ産業を担うような品種になるよう期待を込めて命名されました。

種苗の配布と取り扱い

平成23年12月7日に品種登録出願(品種登録出願番号:第26542号)を行い、平成24年3月16日に品種登録出願公表されました。
平成24年4月に穂木の供給を開始し、早ければ平成24年秋に苗木の販売が開始される予定です。

お問い合わせ先:果樹研究所 企画管理部 運営チームTel: 029-838-6443

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構 情報広報部 知的財産センター 種苗係 Tel: 029-838-7390 Fax: 029-838-8905

用語の解説

施設栽培
ガラス室やビニールハウスなどの施設を利用した栽培で、加温、少加温、無加温などの形態があります。熟期の促進、果実品質の向上などを目的とします。

成熟期
果実の熟度が進み、風味、食味が十分な域に達した頃のことをいいます。カンキツの場合、果皮の着色が完了し、糖度がある程度蓄積し、クエン酸含量が1%以下となると概ね可食期と判断し、さらに熟度が進むと食味、風味が増した成熟期を迎えます。カンキツ栽培では、成熟期が年明け以降となる品種の場合、寒害や果皮障害の発生をさけるために樹上での成熟を待たずに収穫する場合があります。

かいよう病
細菌により引き起こされるカンキツの最重要病害です。とげ等による傷口から感染し、葉、枝および果実表面にかさぶた状の病斑をつくり、果実の商品性を著しく損ないます。さらに発生程度が著しい場合は落葉、落果を引き起こします。現在のところ効果的な薬剤がないため発生の予防対策に努めることが重要となります。オレンジ、グレープフルーツ、ブンタン類などが弱く、一方、キンカン、ユズ、ポンカンなどは強い抵抗性を有していて防除の必要がありません。

じょうのう膜
果皮を剥いた時に現れる半月型の袋を「じょうのう」といい、これを包む膜のことを「じょうのう膜」といいます。これの「厚さ」や「硬軟」が、食べやすさや食味を大きく左右する要因になります。

浮皮
果皮と果肉が分離する現象のことをいいます。ウンシュウミカンなどの皮がむきやすい品種で多く発生します。浮皮が発生した果実は、貯蔵・輸送中に腐敗しやすく、味が淡泊になる等の問題があります。浮皮は、成熟期に雨が多く、気温が高いほど発生しやすく、最近の多発の原因の1つとして温暖化の影響が指摘されています。

β-クリプトキサンチン
ウンシュウミカンに特徴的に多く含まれる橙色のカロテノイド色素で、抗酸化物質として働きます。果樹研究所の栄養疫学研究において、骨粗しょう症や肝機能障害、動脈硬化、メタボリックシンドロームのリスクを下げる可能性を示唆する結果が得られ、最近注目されている機能性成分です。

そうか病
糸状菌(カビ)により引き起こされるカンキツの重要病害の1つです。果実表面にかさぶた状の病斑が出て、果実品質を大きく損ないます。春先からの殺菌剤による防除で発生を抑えることができます。

隔年結果性
成り年(表年)と不成り年(裏年)を交互に繰り返す特性のことをいいます。果樹では、程度の差異はありますが一般に広くみられる現象です。生産量の年次変動を大きくする要因で価格に大きな影響を与えるため、隔年結果性は低い方が望ましいものです。

完全着色
果皮の着色の進行具合を着色歩合といい、着色した果皮表面積の割合で表します。完全着色は果皮全面が着色した状態をいいます。

緑斑
果皮の着色が全面に進まず、部分的に緑色が残る状態で、収穫の遅れや商品価値低下の原因になります。