プレスリリース
枝垂れ性・八重咲きで、生食可能な観賞用モモ新品種「ひなのたき」を育成

情報公開日:2008年10月31日 (金曜日)

要約

農研機構果樹研究所では、枝垂れ性で花が美しく、果実も食べられる観賞用モモ新品種「ひなのたき」を育成しました。枝が下垂する枝垂れ性で、花はピンク色、八重咲きで、花の期間が長く、3週間以上楽しめます。果実は、普通のモモに較べるとやや小さいですが、苦みや渋味がなく、酸味が少ないため生食できることが大きな特徴です。観賞用品種としての普及が期待されます。

モモは果実だけでなく、花も美しく、観賞樹としても長く愛好されてきましたが、従来の観賞用の花モモは果実が小さく、見栄えが悪いだけでなく、苦みや酸味が強く、食用には適していませんでした。近年、各地で花モモの公園が開設されていますが、果実も利用したいという声が高くなっています。「ひなのたき」は普通のモモに近い果実が収穫できますので、生食や加工への利用も可能で、家庭だけでなく公園などでの利用も期待されます。


詳細情報

背景とねらい

モモには生食、加工のほか、樹姿や花を楽しむ観賞用品種があり、花モモとして江戸時代から利用されてきました。しかし、観賞用品種の果実はいずれも100gに満たないだけでなく、苦味や酸味が多いため、生食に適さず廃棄されてきました。果実が生食可能であれば、花モモはより身近な、有用な樹木としての普及が期待されると考えられます。農研機構果樹研究所では、モモの低樹高品種開発のために枝垂れ性の花モモと栽培品種との交雑を実施してきましたが、その中に枝垂れ性で、花が八重咲きで美しく、果実が生食可能な個体が見いだされましたので、観賞用として品種登録の出願を行いました。

成果の内容・特徴

  • 樹勢は強く、樹姿は枝垂れます。開花期はやや遅く、「あかつき」より数日遅く、「残雪枝垂れ」および「源平枝垂れももNo.1」とほぼ同時期です。開花の始めから終わりまで3週間以上になり、開花期間が極めて長いことも特徴のひとつです。花は大きく、花弁は桃色で25枚前後です。花粉を有し、自家結実性です。(表1、図1)。
  • 果実の収穫期は育成地で7月下旬で、「残雪枝垂れ」および「源平枝垂れももNo.1」より1ヶ月半以上早く、「あかつき」とほぼ同時期です。果皮の地色は黄色で、着色はぼかし状に中程度入ります。果形は卵円形で、縫合線の裂開が発生することがあります。果実重は平均で150g前後と小さめですが、果肉は黄色、半不溶質で、肉質は中、果汁は多めです。糖度は9%あまりとやや少ないのですが、酸味は少なく、生食に供することができます(表1、図2、図3)。
  • 雌しべを2本有する花が混じるので、摘果の際には正常果を残すようにします。
  • せん孔細菌病、灰星病には罹病性なので、薬剤散布による防除が必要です。
  • 九州から東北地方までのモモ栽培地域で栽培が可能ですが、果実品質が栽培品種に較べて劣るので果実販売用には適しません。樹が枝垂れ性で花が重弁・桃色で美しく、果実も利用できるので公園や家庭の庭園木としての利用が期待されます。

品種の名前の由来

枝が枝垂れ、花が咲いたときに滝のように見えること、モモの節句である雛祭りに因んで「雛の滝」の意味で命名しました。

図1 「ひなのたき」の開花樹
図1 「ひなのたき」の開花樹

図2 「ひなのたき」の花
図2 「ひなのたき」の花

図3 「ひなのたき」の結実状況
図3 「ひなのたき」の結実状況

図4 「ひなのたき」の果実
図4 「ひなのたき」の果実

表

用語解説

黄肉モモ
果皮と果肉が黄色になるモモのグループ。1対の遺伝子によって決められている形質で、白肉が優性であり、黄肉は劣性ホモで発現します。缶詰用モモの多くが黄肉だったため、日本では黄肉モモを缶詰用モモと感じる消費者が多く、近年まで生食用品種には稀な性質でした。

黄金桃
黄肉モモ品種の一つで、熟期が遅い。果実が大きく、酸味が少しあり、特有の香りがあることから、しだいに栽培が増え、黄肉モモの主要品種となりました。

あかつき
モモ主要品種の一つ。育成地では7月下旬に収穫される白肉の中生品種で、日本では「白鳳」に次いで第2位の栽培面積を占めています。果肉が緻密で、糖度が高く、食味良好です