プレスリリース
極早生で食味良好な黄肉モモ新品種「ひめこなつ」を育成

情報公開日:2007年10月 3日 (水曜日)

要約

果樹研究所では、モモの出荷時期の拡大と品質の安定を目指し、梅雨前に収穫ができる黄肉のモモ新品種「ひめこなつ」を育成しました。

本品種は、開花から収穫までの日数が60日前後と、従来の早生品種に較べて10日以上短いことから、開花が3月中となる西南暖地などの早生モモ地域では5月下旬から6月始めに収穫することが可能となり、梅雨による品質低下を回避でき、品質の安定した果実を得ることができます。

本品種は、露地モモの出荷時期の大幅な前進化と、早生モモの品質安定化に役立つと期待されます。


詳細情報

背景とねらい

日本の早生品種は成熟に満開から70日以上を要するため、梅雨の影響を受けやすく、品質が低下しやすいという問題点があります。より早い時期に出荷するために施設による加温栽培が行われていますが、施設費や燃料代の高騰など経営的に不安定な要因も少なくありません。

そこで、従来の早生品種よりさらに短期間で成熟し、梅雨の影響を回避するとともに出荷時期の拡大が可能な極早生モモの新品種の育成をめざしました。

成果の内容・特徴

  • 樹勢はやや強く、樹姿はやや直立します。花はピンクの一重咲き、正常花粉があり、自家結実性で果実の着生は良好です(図1)。開花期はやや早く、「ちよひめ」、「あかつき」等と同時期になります。
  • 果実の収穫期は育成地で6月上中旬となり、「ちよひめ」、「ちよまる」より10日以上早く収穫される極早生品種です(表1)。
  • 果皮の地色は黄色で、果面全体に縞状に紅色の着色が覆い、外観は良好です。果形は扁円形で、果面の裂果はなく無袋栽培ができます。果実重は平均 で120g前後と小ぶりです。
  • 果肉は溶質で肉質は中、果汁は多く、核は小さく粘核で、核割れが多く発生します。糖度は12%を超え、「ちよひめ」及び「ちよまる」より多く、酸 味は少なく、渋味の発生も少ないため、食味は極早生としては良好です(表1、図2、図3)。
  • 果実が小さく、花芽の着生が良好なので、摘らい、摘果等を早めに行うとともに、強めの結果枝を用い、果実肥大を促進する必要があります。
  • せん孔細菌病、灰星病には罹病性ですが、通常の薬剤散布により被害を回避することが出来ます。
  • 既存のモモ産地で栽培が可能ですが、収穫期が従来の品種に較べて極めて早いので、西南暖地の早出しモモ栽培地域の露地栽培に特に有効です。

品種の名前の由来

果実が小さく可愛らしいこと、収穫期が夏の初めとなることなどから、姫と小夏を組み合わせ「ひめこなつ」としました。

図1 「ひめこなつ」の花
図1 「ひめこなつ」の花

表1

図2 「ひめこなつ」の結実状況
図2 「ひめこなつ」の結実状況

図3 「ひめこなつ」の果実
図3 「ひめこなつ」の果実

用語解説

極早生
モモは花の満開期から収穫までの日数(成熟日数)が、70日から150日の範囲にありますが、便宜的に早生(100日まで)、中生(101日~130日)、晩生(130日以上)の熟期に分けています。極早生は、70日以前に収穫されるモモで、成熟日数が短いことから核が硬くなりきれず、種子も未熟でそのままでは発芽能力がありません。

胚培養
種子が未熟で発芽能力のない早生モモの種子を、無機栄養分を含む寒天培地で5ヶ月間培養し、実生を獲得する方法。


モモ、ウメ、スモモ、オウトウなどの核果類の果肉の内側にある硬い核。内果皮が硬化したもので、大きさ、形、紋様などに樹種による特徴があります。

無袋栽培
果実に袋をかけずに栽培する方法。裂果しやすい品種や着色の不良な品種を栽培する場合、雨が果実に直接あたらないよう果実毎に紙製の袋をかける有袋栽培が行われているが、袋掛けの作業に10a当たり80時間程度を要するため、省力化の障害となっています。