プレスリリース
ミカンに多い β ( ベータ ) -クリプトキサンチンと骨密度に新たな関連を発見!

- 浜松市(三ヶ日町)における栄養疫学調査から -

情報公開日:2007年9月28日 (金曜日)

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所
国立長寿医療センター研究所疫学研究部
浜松市

要約

果樹研究所は、平成15年度から国立長寿医療センター研究所、浜松市(旧三ヶ日町)と合同で栄養疫学調査(「三ヶ日町研究」)を実施してきましたが、今回、ミカンに多く含まれる β ( ベータ ) -クリプトキサンチンと骨密度とに新たな関連があることを発見しました。

本調査結果から、 β ( ベータ ) -クリプトキサンチンを豊富に含むミカンの摂取が閉経女性における骨密度の低下に対して予防的に働く可能性が示唆されました。今後は、追跡調査を行うことでこれらの因果関係を明らかにしていく予定です。

なお、本研究成果は骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の国際専門誌「Osteoporosis International」のオンラインジャーナル版(2007年9月11日付)として公開されました。 本調査は、農林水産省委託プロジェクト「食品で信頼性、機能性が高い食品・農産物供給のための評価・管理技術の開発」、及び果樹試験研究推進協議会からの委託研究の一部として行われました。


詳細情報

背景とねらい

「三ヶ日町研究」は浜松市北区三ヶ日地域の住民を対象にした栄養疫学調査であり、ミカンなどの果物や野菜、またこれらの食品に豊富に含まれるカロテノイド(リコペン、α-カロテン、 β ( ベータ ) -カロテン、 β ( ベータ ) -クリプトキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチンの6種類)が健康に及ぼす影響を疫学的に明らかにすることを目的としています。本調査研究への協力に同意の得られた1,073名の住民を対象に毎年継続して追跡調査を実施しています。

最近の欧米を中心とする栄養疫学研究から、果物・野菜の摂取が健康な骨の形成・維持に重要であることが明らかにされつつあります。これは骨に重要なビタミンやミネラル類が果物・野菜には豊富に含まれるためと考えられています。また最近では、骨密度の低下に酸化ストレスの関与が示唆されるようになり、抗酸化物質が豊富なこれらの食品が骨密度の低下に有効なのではないかとも考えられるようになってきました。しかしながら、血清中のカロテノイド濃度と骨密度との関連を疫学的に評価した報告はこれまでにありませんでした。

そこで「三ヶ日町研究」において、平成17年度から新たに骨密度調査を実施し、699名からの協力が得られました。血清カロテノイド濃度や果物・野菜の摂取量と骨密度との関連について解析したところ、以下のことが明らかになりました。

成果の内容

  • ミカンに多く含まれている血清中の β ( ベータ ) -クリプトキサンチン濃度について、最も低いグループから最も高いグループまで集団を4分割にし、各4分位での橈骨(とうこつ)1/3遠位部(図1)(非利き腕)における平均骨密度を計算すると、閉経女性の骨密度は血清 β ( ベータ ) -クリプトキサンチンレベルが高いグループほど有意に高い傾向にある。この関連は、年齢や身長、体重、閉経後の経過年数、生活習慣、またビタミンやミネラル類の摂取量などの影響を統計学的に取り除いても有意である(図2)。
  • 血清中の β ( ベータ ) -クリプトキサンチンが高濃度のグループ(平均値2.41 µM)における骨密度低値出現は、低濃度のグループ(平均値0.67 µM)を1.0にした場合、0.45(オッズ比)となり有意に低い(図3左)。
  • 果物の高摂取グループ(一日あたりの平均摂取量271グラム)における骨密度低値出現は、低摂取グループ(一日あたりの平均摂取量66グラム)を1.0にした場合、0.44(オッズ比)となり有意に低い(図3右)。
  • 「三ヶ日町研究」における栄養摂取状況調査から、対象集団が最も高頻度に摂取している果物はミカンである。また果物高摂取グループでの血清中 β ( ベータ ) -クリプトキサンチン濃度は、図3左における血清中 β ( ベータ ) -クリプトキサンチン高濃度グループとほぼ等しいことから、本対象集団における果物摂取量はミカン摂取量を反映している。
  • 一方、 β ( ベータ ) -クリプトキサンチン以外のカロテノイドや野菜摂取量ではこのような有意な関連は認められない。また男性や閉経前の女性においてはこのような関連はみられない。

用語解説

橈骨(とうこつ)1/3遠位
左右前腕に一本ずつ存在し、尺骨とともに前腕構造を支持している(図1)。親指側を橈骨(とうこつ)、小指側(茎状突起のある方)を尺骨という。手首から肘までの前腕長の手首側1/3位をいい、橈骨の遠位1/3での骨密度測定は、骨密度の変化を正確に評価できることから、広く臨床の場において用いられている。本調査研究では、橈骨1/3遠位における骨密度を低エネルギー2重X線法により測定した。

図1 前腕部の骨構造

骨密度低値
閉経女性全体のうち骨密度が下位25%の者を骨密度低値とした(0.501 g/cm2)。

オッズ比
オッズとはある出来事が発生しない確率に対する発生する確率の比を示し、オッズ比は二つのオッズの比を現す。図3左では、血清中 β ( ベータ ) -クリプトキサンチンレベルの低いグループを基準(オッズ比1)としたとき、高いグループのオッズ比が0.45であり、これは血清中β(ベータ)-クリプトキサンチンレベルの低いグループに比べて高いグループでは骨密度低値のリスクが55%低いことを意味する。

図2 血清中のβ-クリプトキサンチンレベル、別にみた骨密度

図3血清中のβ-クリプトキサンチンレベル、果物摂取量別に見た骨密度低値出現の調整オッズ