プレスリリース
暖地で安定生産可能な良食味ニホンナシ新品種「凜夏(りんか)」

- 地球温暖化に対応し、暖地でも安定生産できる早生品種を育成 -

情報公開日:2013年12月 2日 (月曜日)

ポイント

  • 地球温暖化の進行により、暖地では「幸水1)」等の花芽が枯死する障害が発生していることに対応し、暖地でも安定生産できるニホンナシ新品種「凜夏」を育成しました。
  • 「幸水」とほぼ同時期に収穫できる、大果で良食味の早生品種として、暖地での普及が期待されます。

概要

  • 地球温暖化の進行により、暖地では「幸水」等で花芽が枯死する等の障害が発生し、生産が不安定となっています。そこで、農研機構は、暖地でも花芽が安定的に着生することで安定生産を可能とするニホンナシ新品種「凜夏」を育成しました。
  • 「幸水」とほぼ同時期に成熟する早生の品種です。「幸水」と比べ、大果で、果肉が軟らかく、糖度はほぼ同程度で、pHは低く少し酸味を感じます。
  • 「凜夏」は、果実品質良好で、暖地でも安定して花芽が着生し、結実することから、特に暖地における普及が期待されます。

予算:運営費交付金
品種登録出願番号:第28387号


詳細情報

新品種育成の背景・経緯

地球温暖化の進行に伴い、近年鹿児島県をはじめとした西南暖地では、主要品種の「幸水」等で花芽の枯死等の生育異常が頻発し、安定生産が困難になっています。また、「幸水」は結実に結びつく短果枝2) が出来にくい品種であるため、短果枝が着生しやすく、より栽培しやすい品種が期待されています。そこで、花芽が安定して容易に着生するとともに、「幸水」と同程度に食味が優れる品種を育成しました。

新品種「凜夏」の特徴

  • 樹勢は「幸水」と同程度です。短果枝の着生は「幸水」より多く、えき花芽3) の着生は同程度であり、安定して花芽が着生します。収穫期は「幸水」に近い時期で、育成地では8月下旬です。若木(6-7年生時)における収量は「幸水」と同程度です(表1)。
  • 果実は重さが500g程度で「幸水」よりも大果です。果肉硬度は「幸水」より軟らかく、肉質良好です。糖度は「幸水」と同程度で、pHは低く少し酸味を感じます。みつ症4)と心腐れ5)がわずかに発生しますが、程度は軽微です(表2)。日持ち性は「幸水」以上です。
  • 鹿児島県(薩摩川内市)において、「幸水」では短果枝の花芽が40%以上、えき花芽が30%以上枯死したのに対し、「凜夏」ではいずれも10%以下でした(表3)。
  • 黒斑病6)には抵抗性です。「幸水」と同様、黒星病7)に対しては罹病性ですが、慣行防除で栽培できます。

凜夏の樹体特性
表2 凛花の果実特性

凜夏および幸水の花芽枯死率

「凜夏」の結実状況
図1 「凜夏」の結実状況

図2 「凜夏」の果実
図2 「凜夏」の果実

今後の予定・期待

「凜夏」は、全国のナシ産地で栽培が可能ですが、特に鹿児島県を始めとした暖地での早期普及が期待されます。

品種の名前の由来

「凜夏」の名は、現在既存品種で温暖化による開花異常が生じている南九州のような暖地でも、異常なく凜として力強く生育・開花し、夏に収穫されることに由来します。

苗木の販売予定時期

平成25年11月22日に品種登録出願公表されました。苗木は平成26年秋季より販売される見込みです。
お問い合わせ先:農研機構果樹研究所 企画管理部 運営チームTE029-838-6443

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構 連携普及部 知財・連携調整課 種苗係
  TEL029-838-7390          FAX 029-838-8905

用語の解説

1)幸水
現在、ニホンナシで最も広く栽培されている早生品種。ニホンナシの全栽培面積の約40%を占める。

2)短果枝
数cm以下の短い枝の芽が花芽となったもの。花芽が開花し、結実するので短果枝と呼ぶ。

3)えき花芽
数十cm以上伸長した枝に着生した先端以外の芽(えき芽)の中で花芽となったもの。えき花芽が着生した枝は通常長い場合が多く、長果枝と呼ばれる。

4)みつ症
果肉の一部が半透明となる生理障害。発生した果実は、ナシでは商品価値が低下する。

5)心腐れ
果心部が褐変、腐敗する症状。

6)黒斑病
ニホンナシの主要病害の一つ。主要品種の中では「二十世紀」が罹病性。「幸水」、「豊水」、「新高」は抵抗性を示す。

7)黒星病
現在ニホンナシの最重要病害。主要品種を含め、ほとんどのニホンナシが罹病性である。