品種育成の背景・経緯
わが国で栽培されるリンゴ品種の果肉は、一般に、アントシアニン1)を含んでおらず、白色ないし黄白色であり、果肉が赤色のリンゴ果実は市場に流通していませんでしたが、近年、付加価値の高い加工品の製造に適した赤肉品種2)の果実が少し市場に流通するようになってきました。しかし、現在流通している赤肉品種は酸味が強く、肉質が粗いことから、実需者からは果実品質の改善が望まれていました。そこで、調理用や生食用など種々の用途に利用できる赤肉のリンゴ品種の育成を目指して選抜、育成したのが「ローズパール」です
新品種「ローズパール」の特徴
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樹勢は中位で、花芽の着生程度は中程度です。育成地(岩手県盛岡市)における開花盛期は5月中旬で、「紅玉」より3日程度早い時期です。収穫盛期は10月中下旬で、中生品種の「紅玉」とほぼ同時期に収穫できます(表1)。
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通常のリンゴ品種に準じた防除により、斑点落葉病3)の発生を防ぐことが可能です(表1)。
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果皮は黄色で陽光面がわずかに淡赤色に着色し、果面にさび4)はほとんど発生しません。果実は390g程度と大果です(表2、図1)。
- 果肉が桃色に着色し、着色は既存の赤肉品種「ピンクパール」と同等もしくはやや濃い程度です。「ピンクパール」より果汁が多く、果汁の糖度は14~15%、酸度は0.6%程度です。加工用に用いられる酸味の多い「紅玉」や赤肉品種「ピンクパール」ほど酸味が強くはなく、すっきりした程良い酸味と食感の良さに特徴があります(表2、図2)。心かび5)はほとんど発生しません(表2)。
- 果肉色、果汁の色が桃~淡赤色で、その色調を活かして特徴あるジュースやジャムなどの加工品製造に利用できます。「ルビースイート」は酸味が少なく、生食用としての適性が高いのに対して、「ローズパール」は酸度が0.6%と適度な酸味があり、サラダなど調理用や生食用にも適します(表2)。
表1「ローズパール」の樹体の特性(農研機構果樹研究所リンゴ研究拠点2010~2012年)
表2「ローズパール」の果実特性(農研機構果樹研究所リンゴ研究拠点 2010~2012年)
図1 「ローズパール」の結実の状況
図2 「ローズパール」の果実
栽培上の留意点
果肉の着色程度は年によりばらつきが認められ、夏から秋にかけて気温が高い年に果肉の着色程度の劣る果実が発生しやすくなります。
品種の名前の由来
「パール」は親品種の名称に由来しており、「ローズ」は果肉の淡い赤色からバラにちなみ、「ローズパール」と命名しました。
苗木の販売予定時期
平成26年1月8日に品種登録出願公表されました。苗木は平成26年秋季より販売される見込みです。
お問い合わせ先:農研機構果樹研究所 企画管理部 運営チーム TEL 029-838-6443
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構 連携普及部 知財・連携調整課 種苗係
TEL 029-838-7390 FAX 029-838-8905
用語の解説
1)アントシアニン
赤色から青色を呈するフラボノイド(植物系色素)の一種。果物では赤色リンゴの果皮やブドウ、ブルーベリーなどに含まれており、この成分を摂取すると健康維持増進に役立ちます。
2)赤肉品種
果肉にアントシアニンが蓄積することによって赤色ないし桃色に着色するリンゴ品種です。通常のリンゴ栽培品種は果肉にアントシアニンを含まず、果肉色は白色ないし黄白色です。
3)斑点落葉病
糸状菌(かび)を病原とするリンゴの重要病害です。主に葉に発生し、多発すると早期落葉を引き起こし、収量や果実品質を低下させます。
4)さび
リンゴ果実の果皮はワックス物質から成るクチクラ層で保護されていますが、この層に微細な亀裂が生じると、その修復のために褐色のコルク状物質が生成されます。このコルクが外観上目立つ場合にさびと呼びます。
5)心かび
果実のていあ部(下部)が開きやすい品種、果実で、開口部から菌(かび)が侵入して、心の部分で繁殖すると、種子周辺が灰黒色になります。かびによって果心部が黒っぽく変色したものを心かびと呼びます。