プレスリリース
良食味で結実性が良好なカキ新品種「太豊(たいほう)」

情報公開日:2014年10月31日 (金曜日)

ポイント

柔軟多汁でサクサクとした食感を有する良食味の完全甘ガキ品種を育成しました。

・受粉しなくても結実する単為結果力が強いため、受粉樹の混植をしなくても、種なし果の安定生産が可能です。

概要

  • 農研機構は、良食味で、種なし果の生産が可能な晩生の完全甘ガキ1)新品種「太豊」を育成しました。「太豊」の果実は「富有」並みかそれ以上に大きく、「富有」とほぼ同時期の11月中下旬頃収穫できます。果肉は柔軟多汁で、サクサクとした食感が特徴です。
  • 雌花が多いうえ、受粉樹2)を周囲に混植しなくても早期落果3)が少なく、後期落果3)もしないため、種なし果の安定生産が可能です。
  • 「太豊」は夏秋期の気温が高い地域に適応し、「富有」の栽培地域で栽培が可能です。

予算:運営費交付金
品種登録出願番号:第29280号



詳細情報

新品種育成の背景・経緯

現在、多く栽培されている完全甘ガキ品種で、もっとも生産が多いのは「富有」です。晩生品種の優良な完全甘ガキは「富有」に限られるため、晩生の品質の優れた完全甘ガキ品種が求められています。また、「富有」は単為結果力3)が低く、種なし果は早期落果しやすく結実が不安定なため、受粉樹の混植が必要です。そこで、品質が優れ、「富有」より単為結果力が高く、種なし果の生産が可能な晩生の完全甘ガキ品種を育成しました。

新品種「太豊」の特徴

  • 樹勢は「富有」並みで、樹姿は開張と直立の中間です(表1)。雌花の着生は多く、雄花は着生しません。雌花の開花期は「富有」とほぼ同時期です。早期落果は少なく、後期落果は生じません。
  • 果実の収穫期は、育成地(広島県東広島市安芸津町)においては11月中下旬で、「富有」とほぼ同時期です(表1 )。果実はやや腰高の扁円形、果皮は橙色で玉揃いは良好です(図1)。育成地では平均336gで「富有」より大きい果実となり(図2)、全国の試験研究機関における試作試験では、平均すると「富有」と同等の果実の大きさとなりました。糖度は16%程度で「富有」並みですが、多汁な上、「富有」より果肉が軟らかく、 サクサクとした食感を有しており、食味は良好です。果頂裂果4) は発生せず、へたすき果5) の発生は「富有」と同程度です。日持ち性は長く、「富有」並みです(表2)。
  • 単為結果力が高い(表3)ため、受粉樹が不要で消費者ニーズの高い種なし果を安定生産することが可能です。なお、種なし果を生産するためには、周囲に受粉樹がない環境が必要です。
表1「太豊」の樹性、結実性および成熟期
表1「太豊」の樹性、結実性および成熟期

農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究拠点(広島県東広島市)(2011-2013)
受粉樹が周囲にある条件での栽培

表2「太豊」の果実特性
表2「太豊」の果実特性

農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究拠点(広島県東広島市)(2011-2013)
受粉樹が周囲にある条件での栽培

表3 「太豊」の種なし果実の結実率

表3 「太豊」の種なし果実の結実率

 

図1「太豊」の結実状況
図1「太豊」の結実状況 

図2「太豊」の果実(受粉樹が周囲にある場合)
図2「太豊」の果実(受粉樹が周囲にある場合)

栽培上の留意点

夏秋期の気温が高い地域に適応し、「富有」の栽培地域で栽培可能です。他の完全甘ガキ品種と同様、地域により温度が不足した場合には果実に渋みが生じることがあります。 「太豊」は雌花が多く結実性も良いため、着果過多にならないよう、「富有」に準じた着果制限をする必要があります。

今後の予定・期待

「太豊」は、試作試験において徳島県をはじめ、福井県、愛知県、和歌山県、兵庫県、島根県、宮崎県の各県で有望と評価されており、完全甘ガキの産地に普及が進むと見込まれます。

品種の名前の由来

 「太豊」は、完全甘ガキ「太秋」の子で、豊かな秋の実りを表すものとして名付けられました。

種苗の配布と取り扱い

  平成26年10月28日に品種登録出願公表されました。苗木は平成27年秋季より販売される見込みです。

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構 連携普及部 知財・連携調整課 種苗係 
  Tel029-838-7390          Fax 029-838-8905

用語の解説

1)完全甘ガキ
カキは、樹上で自然脱渋(だつじゅう)する甘ガキと、食べるためには脱渋処理をする必要がある渋ガキに分けられます。甘ガキは、種子の有無にかかわらず自然脱渋する完全甘ガキと、種子が多く入ると果肉に褐斑(かっぱん)が多量にできて自然脱渋する不完全甘ガキに分けられます。「富有」や「次郎」は完全甘ガキです。

2)受粉樹
カキには雌花のみを着生する品種と、雌花と雄花の両方を着生する品種があります。「富有」は雌花しか着生しませんが、種なし果実は早期落果を生じやすいため、「禅寺(ぜんじ)丸(まる)」など雄花を持つ品種を受粉樹として混植する必要があります。


3)早期落果と後期落果、単為結果力

カキの結実性を決める主な要因は、7月までに生じる早期落果と8月以降に生じる後期落果です。早期落果は、種なし果実が結実する能力(単為結果力)と種子の入りやすさ(種子形成力)という2要因の品種間差異で決まります。「富有」は単為結果力は低く種子形成力は高いので、受粉樹を混植して果実に種子が入れば安定生産できますが、受粉樹がない条件では早期落果を生じやすくなります。単為結果力が高い品種は受粉樹を混植する必要はありません。一方、後期落果は単為結果力や種子形成力とは無関係に発生します。後期落果が生じやすい品種では、収穫期近くになって落果が生じ、収穫減につながります。

4)果頂裂果

カキ果実の果頂部(へたの反対側)に直線状から十字状に生じる裂果で、裂果部位から軟化を生じます。品種間差異があり、「富有」では果頂裂果は一般に生じませんが、完全甘ガキは果頂裂果性を持つ品種が渋ガキに比べて多い傾向があります。

写真 果頂裂果

写真 果頂裂果

 

5)へたすき果

カキ果実のへた付近に生じる裂果の「へたすき」を生じた果実です。へたすき程度が大きいと、へたすき部位から軟化を生じ品質や日持ち性に悪影響を与えます。品種間差異が大きく、完全甘ガキの在来品種はへたすき性をもつ品種が多いという特徴があります。

写真 へたすき果

写真 へたすき果
よく見えるようにへたを切り取った果実。黒く見える部分がへたすき。