新品種育成の背景・経緯
黒斑病と黒星病はニホンナシの最も主要な病害です。主要な経済栽培品種は、「二十世紀」を除き黒斑病には抵抗性ですが、黒星病にはすべて罹病性であり、抵抗性品種の育成が強く求められています。そこで、黒斑病と黒星病の双方に抵抗性を示す良食味品種を育成しました。
新品種「ほしあかり」の特徴
1.樹勢は「幸水」、「豊水」より弱く、枝の発生量はやや少ないです。短果枝5)の着生は「幸水」より多く、えき花芽6) の着生は同程度です。収穫期は「幸水」と「豊水」の間で、育成地(茨城県つくば市)では8月下旬~9月上旬です(表1)。
2.果実は重さが約400gで「幸水」と同程度です。果肉硬度は「幸水」や「豊水」より軟らかく、肉質良好です。糖度は「幸水」、「豊水」と同程度で甘く、酸味は「幸水」と同程度で少ないです。みつ症7)の発生はみられず、心腐れ8)がわずかに発生しますが、程度は軽微です(表2)。果実に明瞭な条溝9)(図1,2)が発生し、果実の形にばらつきがあります。
3.黒斑病と黒星病に対して抵抗性があります。研究所の殺菌剤無散布圃場での観察においても、両病害の被害は認められません。今後、生産現場レベルでの実証が必要ですが、殺菌剤散布回数を削減した減農薬栽培が期待出来ます。ただし、赤星病10)には罹病性であり、防除が必要です。
表1 「ほしあかり」の樹体特性
表2 「ほしあかり」の果実特性
図1 「ほしあかり」の結実状況
図2 「ほしあかり」の果実
今後の予定・期待
「ほしあかり」は、全国のナシ産地で栽培が可能ですが、特に黒星病の多発地域での普及が期待されます。
品種の名前の由来
「ほしあかり」の名は、黒星病抵抗性であり、「あきあかり」の子供であることに由来します。
苗木の販売予定時期
平成26年12月4日に品種登録出願公表されました。苗木は平成27年秋季より販売される見込みです。 ※販売につきましては、果樹研究所によくあるご質問をご覧ください。
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構 連携普及部 知財・連携調整課 種苗係
Tel029-838-7390 Fax 029-838-8905
用語の解説
1)黒斑(こくはん)病
植物病原糸状菌の一種によって引き起こされる、ニホンナシの主要病害の一つ。主要品種の中では「二十世紀」が罹病性。「幸水」、「豊水」、「新高」は抵抗性を示す。
2)黒星(くろほし)病
植物病原糸状菌の一種によって引き起こされる、現在ニホンナシの最重要病害。主要品種を含め、ほとんどのニホンナシが罹病性である。通常本病の防除に年間10回以上の薬剤が散布されている。
3)幸水
現在、ニホンナシで最も広く栽培されている早生品種。ニホンナシの全栽培面積の約40%を占める。
4)豊水
現在、ニホンナシで2番目に広く栽培されている早生品種。ニホンナシの全栽培面積の約25%を占める。
5)短果枝(たんかし)
数cm以下の短い枝の芽が花芽となったもの。花芽が開花し、結実するので短果枝と呼ぶ。
6)えき花芽(かが)
数十cm以上伸長した枝に着生した先端以外の芽(えき芽)で花芽となったもの。えき花芽が着生した枝は通常長い場合が多く、長果枝と呼ばれる。
7)みつ症
果肉の一部が半透明となる生理障害。発生した果実は、ナシでは商品価値が低下する。
8)心腐(しんぐさ)れ
果心部が褐変、腐敗する症状。
9)条溝
果実の果梗部から果底部にかけて発生する凹み。
10)赤星病
ニホンナシの病害の一つ。ニホンナシ主要品種のほとんどは罹病性であるが、感染期間が短く、薬剤防除は比較的容易である。