プレスリリース
良食味で結実性が良好な早生のカキ新品種「麗玉(れいぎょく)」と「太雅(たいが)」

情報公開日:2015年11月 4日 (水曜日)

ポイント

へたすき果、果頂裂果、汚損果が少なく外観良好な「麗玉」と、比較的大果でへたすき果をほとんど生じない「太雅」を育成しました。

いずれも良食味の完全甘ガキ品種で、受粉しなくても結実する単為結果力が強いため、種なし果の安定生産が可能です。

概要

1. 農研機構は、良食味で、種なし果の生産が可能な早生の完全甘ガキ1)新品種「麗玉」と「太雅」を育成しました。いずれも完全甘ガキに特異的に生じやすいへたすき果2)がほとんど発生せず、中生の代表的な完全甘ガキ品種である「松本早生富有」より10日程度早い10月中下旬頃に収穫できます。ともに果汁が多く、果肉が軟らかいため食味が良好です。

2. 受粉樹3)を周囲に混植しなくても早期落果4)が少ないため、種なし果の安定生産が可能です。

3. 「麗玉」、「太雅」ともに夏秋期の気温が高い地域に適応し、「松本早生富有」または「富有」の栽培地域で栽培が可能です。苗木は平成28年秋季より販売される見込みです。

予算:運営費交付金
品種登録出願公表番号:「麗玉」第30228号、「太雅」第30227号


詳細情報

品種開発の背景・経緯

   現在、甘ガキの生産は完全甘ガキの「富有」を中心とした中晩生品種に偏っており、早生品種は生産が多くありません。そのため早生品種の育成は、生産者の収穫労力の分散だけでなく、販売・消費期間の拡大によりカキの消費の拡大につながる重要な育種目標です。早生品種のうち、不完全甘ガキ1)の「西村早生」は、種子が少ないと果実の中に渋い部分が混入することや、肉質が粗剛なため生産が大きく減少しています。また、「伊豆」や「早秋」といった完全甘ガキの早生品種は、早期落果が多く生産が不安定になりやすい特徴があります。特に「伊豆」はカキに特有の裂果であるへたすき果の発生が多く、へたすき部位から軟化しやすいため、生産は減少しています。そのため、早生~中生の完全甘ガキでは、これらの早生品種より比較的欠点が少ない中生の「松本早生富有」が生産の中心となっています。そこで、良食味なうえ外観が優れ、安定生産可能な早生の完全甘ガキ品種を育成しました。

新品種「麗玉」と「太雅」の特徴

1.「麗玉」、「太雅」はともに早生で、早期落果が少なく、へたすき果や果頂裂果2)といった障害果がほとんど生じない良食味の完全甘ガキ品種です。

2.樹勢は、「麗玉」、「太雅」ともに「松本早生富有」並みで、樹姿は開張と直立の中間です(表1)。雌花の着生は、「麗玉」は「松本早生富有」と同程度、「太雅」は「松本早生富有」と同程度かやや多く、いずれもまれに雄花を着生します。雌花の開花期は、いずれも「松本早生富有」とほぼ同時期です。「麗玉」は後期落果4)を生じませんが、「太雅」は栽培地域や年により後期落果を生じることがあります。

3.果実の収穫期は、「麗玉」、「太雅」ともに育成地(広島県東広島市安芸津町)においては10月中下旬で、「松本早生富有」より10日以上早く収穫できます(表1)。

4.果実の形は両品種で異なっています。「麗玉」の果実はやや腰高の丸みを帯びた扁円形、果皮は橙色で玉揃いは良好です(図1、2)。また、「太雅」の果実はやや角張った扁円形で果皮は橙色です(図3、4)。果実重は、「麗玉」では、育成地では平均278gで「松本早生富有」並みの大きさの果実となりましたが、全国の試験研究機関における試作試験では、平均すると「松本早生富有」よりやや小ぶりの果実となりました。「太雅」は、育成地では平均324gで「松本早生富有」より大きい果実が得られましたが、全国の試験研究機関における試作試験では、平均すると「松本早生富有」並みの果実重になりました(表2)。

5.糖度は、「麗玉」では18%程度で「松本早生富有」より高く、「太雅」は16~17%で「松本早生富有」と同程度です。果肉硬度は、いずれも「松本早生富有」より低くて軟らかく、果汁も多いため、食味は良好です(表2)。

6.果頂裂果、へたすき果は、「麗玉」、「太雅」ともにほとんど生じません。、汚損果5)の発生は、「麗玉」は少なく外観が優れています。「太雅」は「松本早生富有」より汚損果の発生が多いですが(表2)、その原因はへた部付近に生じる雲形状汚損です。この雲形状汚損は日持ちや食味には影響はありません。

7.日持ち性は、「麗玉」、「太雅」ともに早生品種としては長く、「松本早生富有」並みです。

8.単為結果力4)は、「麗玉」、「太雅」ともに高いため、受粉樹が不要で消費者ニーズの高い種なし果を安定生産することが可能です(表3)。なお、種なし果を生産するためには、周囲に受粉樹がない環境が必要です。

 

表1   「麗玉」および「太雅」の樹性、結実性および成熟期

 表1 「麗玉」および「太雅」の樹性、結実性および成熟期

農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究拠点(広島県東広島市)(2010-2014)
受粉樹が周囲にある条件での栽培
「麗玉」の中間台木:「富有」、「太雅」の中間台木:「興津20号」

 

表2   「麗玉」および「太雅」の果実特性

 表2 「麗玉」および「太雅」の果実特性

農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究拠点(広島県東広島市)(2010-2014)
受粉樹が周囲にある条件での栽培
「麗玉」の中間台木:「富有」、「太雅」の中間台木:「興津20号」


表3   「麗玉」および「太雅」の種なし果実の結実率

表3 「麗玉」および「太雅」の種なし果実の結実率
 


図1 「麗玉」の結実状況
図1   「麗玉」の結実状況


図2 「麗玉」の果実(受粉樹が周囲にある場合)
図2   「麗玉」の果実(受粉樹が周囲にある場合)


図3 「太雅」の結実状況
図3   「太雅」の結実状況


図4 「太雅」の果実(受粉樹が周囲にある場合)
図4   「太雅」の果実(受粉樹が周囲にある場合)

栽培上の留意点

   「麗玉」、「太雅」ともに、夏秋期の気温が高い地域に適応し、「富有」の栽培地域で栽培可能です。ただし、他の完全甘ガキ品種と同様、温度が不足した場合には果実に渋みが生じることがあります。
   「麗玉」は、「甘百目(あまひゃくめ)」、「大養(だいよう)」等の品種に接ぎ木すると不親和症状が認められ、他の一部の品種に高接ぎした場合にも生育不良が生じ、果実の小玉化や樹勢の低下が認められます。高接ぎする場合は、このような症状が認められなかった「富有」、「松本早生富有」、「太秋」への高接ぎが望ましいと考えられます。
   「太雅」における雲形状汚損は、収穫時期が遅いほど多く生じるので、汚損果発生を防ぐためには果底部の緑色が抜けたやや早めの時点で収穫を行うようにします。早めの収穫を行っても、糖度などの果実品質には大きな影響はありません。また、秋季の雨よけによっても汚損果を軽減させることができます。

今後の予定・期待

   「麗玉」、「太雅」はともに、「松本早生富有」または「富有」の栽培地で栽培可能であり、これらの完全甘ガキの産地に普及が進むことが期待されます。

品種の名前の由来

   「麗玉」は、外観が麗しく、ふくよかな果実のイメージにちなんで、「太雅」は、みやびな秋と大きな果実のイメージにちなんで名付けられました。

苗木の配布と取り扱い

   「麗玉」「太雅」ともに平成27年9月29日に品種登録出願公表されました。苗木は平成28年秋季より販売される見込みです。※販売につきましては果樹研究所によくあるご質問をご確認ください。

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構 連携普及部 知財・連携調整課 種苗係 
  TEL 029-838-7390          FAX 029-838-8905

用語の解説

1)完全甘ガキと不完全甘ガキ
   カキは、樹上で自然脱渋(しぜんだつじゅう)する甘ガキと、食べるためには脱渋処理をする必要がある渋ガキに分けられます。甘ガキは、種子の有無にかかわらず自然脱渋する完全甘ガキと、種子が多く入ると果肉に褐斑(かっぱん)が多量にできて自然脱渋する不完全甘ガキに分けられます。不完全甘ガキは、種子数が少ないと自然脱渋が不完全になり、種子から離れた果肉部分には褐斑が生じず、甘渋が入り交じった果実になりやすい傾向があります。「富有」や「次郎」は完全甘ガキ、「西村早生」は不完全甘ガキです。

2)へたすき果と果頂裂果
   へたすき果は、カキ果実のへた付近の果肉が裂開する「へたすき」を生じた果実です。へたすきの程度が大きいと、へたすき部位から軟化を生じ品質や日持ちに悪影響を与えます。発生しやすさは品種間で大きく異なり、完全甘ガキの在来品種の多くは、へたすき果を生じやすいという特徴があります。


写真_へたすき果
写真      へたすき果
よく見えるようにへたを切り取った果実。黒く見える部分がへたすき。

 

   果頂裂果は、カキ果実の果頂部(へたの反対側)に直線状や十字状に生じる裂果で、裂果部位から軟化を生じます。品種間差異があり、「富有」では果頂裂果は一般に生じませんが、完全甘ガキは果頂裂果性を持つ品種が渋ガキに比べて多い傾向があります。

写真 果頂裂果
写真      果頂裂果

 

3)受粉樹
   カキには雌花のみを着生する品種と、雌花と雄花の両方を着生する品種があります。「富有」や「松本早生富有」は雌花しか着生しませんが、種なし果実は年によって早期落果を生じやすいため、安定生産のためには「禅寺丸(ぜんじまる)」など雄花を持つ品種を受粉樹として混植する必要があります。

4)早期落果と後期落果、単為結果力
   カキの結実性を決める主な要因は、7月までに生じる早期落果と8月以降に生じる後期落果です。早期落果は、種なし果実が結実する能力(単為結果力)と種子の入りやすさ(種子形成力)という2つの要因で決まります。「富有」は単為結果力は低く種子形成力は高いので、受粉樹を混植して果実に種子が入れば安定生産できますが、受粉樹がない条件では早期落果を生じやすくなります。単為結果力が高い品種は受粉樹を混植する必要はありません。一方、後期落果は単為結果力や種子形成力とは無関係に発生します。後期落果が生じやすい品種では、収穫期近くになって落果が生じ、収穫減につながります。

5)汚損果
   カキの果皮の表面に生じる汚れのことです。複数のタイプがあり、果皮に生じた同心円状の亀裂が黒変したものを条紋(写真左)といい、薄墨を拡げたように果皮が黒変あるいは褐変する症状を雲形状汚損(写真右)と言います。他に、黒点が果実表面に多数生じる黒点状汚損等があります。


写真_カキの汚損果の一種、条紋(左)と雲形状汚損(右)
写真      カキの汚損果の一種、条紋(左)と雲形状汚損(右)