プレスリリース
ウンシュウミカンに多く含まれるβ(ベータ)-クリプトキサンチンの血中濃度が高い人では2型糖尿病や非アルコール性肝機能異常症等の生活習慣病になりにくいことが明らかに
-浜松市(三ヶ日町)における10年間の追跡調査から-

情報公開日:2016年3月23日 (水曜日)

ポイント

10年間の追跡調査の結果、β-クリプトキサンチンを多く含むウンシュウミカンの摂取が2型糖尿病1)等の生活習慣病の予防に有用である可能性が示唆されました。

今後、ウンシュウミカンの機能性表示の拡大が期待されます。

概要

1.   農研機構果樹研究所は、浜松医科大学健康社会医学講座、浜松市(旧三ヶ日町(みっかびちょう))と合同で2003年度から継続して栄養疫学調査(「三ヶ日町研究」2))を実施しています。三ヶ日町研究では、ウンシュウミカンに多く含まれるβ-クリプトキサンチンや緑黄色野菜に多いβ-カロテン、葉物野菜に多いルテインなどのカロテノイド色素3)と様々な健康指標との関連を調査しています。

2.   1,073名を対象とした10年間の追跡調査の結果、β-クリプトキサンチンの血中濃度が高い者は2型糖尿病、脂質代謝異常症、及び非アルコール性肝機能異常症(血中高ALT値)の発症リスクが有意に低下することを発見しました。

3.   これらの成果を活用し、ウンシュウミカンの機能性訴求ポイントを増やすために産地と検討を進めていきます。

予算:
   農研機構「機能性を持つ農林水産物・食品開発プロジェクト」(2014~2016)
   果樹試験研究推進協議会委託試験研究(2006~2016)

論文:
  1)   血中β-クリプトキサンチンと非アルコール性肝機能異常症発症リスクとの関連について
   Sugiura M, Nakamura M, Ogawa K, Ikoma Y and Yano M. High serum carotenoids associated with lower risk for elevated serum alanine aminotransferase among Japanese subjects: Mikkabi prospective cohort study. The British Journal of Nutrition2016 Feb 26:1-8. [Epub ahead of print] PMID: 26916997

2)   血中β-クリプトキサンチンと糖尿病発症リスクとの関連について
Sugiura M, Nakamura M, Ogawa K, Ikoma Y and Yano M. High serum carotenoids associated with lower risk for type 2 diabetes among Japanese subjects: Mikkabi prospective cohort study. BMJ Open Diabetes Research & Care2015; 3:e000147.

3)   血中β-クリプトキサンチンと脂質代謝異常症発症リスクとの関連について
Sugiura M, Nakamura M, Ogawa K, Ikoma Y and Yano M. High serum carotenoids associated with lower risk for metabolic syndrome and its components among Japanese subjects: Mikkabi prospective cohort study. The British Journal of Nutrition 2015; 114(10): 1674-1682.


詳細情報

研究の背景・経緯

   欧米を中心とする最近の栄養疫学研究から、果物・野菜の摂取が、がんや循環器系疾患の予防に重要であることが明らかにされつつあります。また、これらの生活習慣病の発症に酸化ストレス4)の関与が示唆されるようになり、果物・野菜に多く含まれるカロテノイド等の抗酸化物質5)が酸化ストレスを軽減することで様々な生活習慣病の予防に有効であると考えられるようになってきました。

   「三ヶ日町研究」は浜松市北区三ヶ日地域の住民1,073名を対象にした栄養疫学調査であり、ウンシュウミカンなどの果物や野菜等に豊富に含まれる抗酸化物質であるカロテノイド類(リコペン、α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン)が健康に及ぼす影響を疫学的に明らかにすることを目的としています。

   そこで今回、調査開始から10年間で追跡調査が完了した910名について、β-クリプトキサンチンをはじめとする血中カロテノイド値と2型糖尿病等の生活習慣病の発症リスクとの関連について縦断的に解析しました。

方法および結果

1. 2003年度の調査開始から10年間の間に少なくとも1回以上の追跡調査が完了した被験者910名を対象に解析を行いました。調査開始時に既に2型糖尿病(診断基準:空腹時血糖値が126 mg/dL以上、または糖尿病治療薬を服薬中の者)を発症していた被験者を除いて、血中β-クリプトキサンチン濃度について、低いグループから、高いグループまでの3グループに分け、各グループでの2型糖尿病の発症率を調査しました。その結果、血中β-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける2型糖尿病の発症リスク(ハザード比6))は、低濃度のグループを1.0とした場合0.43となり、統計的に有意に低い結果となりました(図-1)。この関連は、喫煙・運動習慣や総エネルギー摂取量、アルコール摂取量などの影響を取り除いても統計的に有意でした。

2. 次に追跡調査が完了した910名のうち、調査開始時に既に脂質代謝異常症(診断基準:空腹時の血中中性脂肪値が150mg/dL以上、もしくは善玉コレステロールであるHDLコレステロールが40mg/dL未満、または脂質代謝治療薬を服薬中の者)を発症していた被験者を除いて、血中β-クリプトキサンチン濃度で低いグループから、高いグループまでの3グループに分け、各グループでの脂質代謝異常症の発症率を調査しました。その結果、血中β-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける脂質代謝異常症の発症リスクは、低濃度のグループを1.0とした場合0.66となり、統計的に有意に低い結果となりました(図-2)。この関連は、喫煙・運動習慣や総摂取カロリー、アルコール摂取量などの影響を取り除いても統計的に有意でした。

3. さらに、追跡調査が完了した910名のうち、調査開始時に既に肝機能異常が認められた者(診断基準:血中ALT値が31 IU/L以上、またはB、C型肝炎ウィルス陽性者、または脂質代謝治療薬を服薬中の者)及び一日当たりのアルコール摂取量が60g以上の者を除いて、血中β-クリプトキサンチン濃度で低いグループから、高いグループまでの3グループに分け、各グループでの非アルコール性肝機能異常症(血中高ALT値)の発症率を調査しました。その結果、血中β-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける非アルコール性肝機能異常症の発症リスクは、低濃度のグループを1.0とした場合0.51となり、統計的に有意に低い結果となりました(図-3)。この関連は、喫煙・運動習慣や総摂取カロリー、アルコール摂取量などの影響を取り除いても統計的に有意でした。

4. 調査開始時の血中β-クリプトキサンチン濃度の平均値は、低グループでおよそ0.5μM、中グループで1.5μM、高グループで3.5μMでした。調査の結果から、それぞれのウンシュウミカンの摂取量は、低グループでは毎日は食べていない、中グループでは毎日1,2個、高グループでは毎日3,4個食べていました。

今後の予定・期待

   これまで果樹研究所では、農林水産省委託プロジェクト「安全で信頼性、機能性が高い食品・農産物供給のための評価・管理技術の開発」(2006年~2010年)、果樹試験研究推進協議会研究支援事業等により、β-クリプトキサンチンの骨の代謝に与える効果を明らかにしてきました。また2013年度補正予算:農研機構「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」により、ウンシュウミカン中のβ-クリプトキサンチン含有量の保証技術の開発に取り組んできました。これらの研究成果により、生鮮品としては初めて「三ヶ日みかん」が骨の健康に役立つ機能性表示食品として発売されました。今回新たに得られた知見は、機能性表示食品としてのウンシュウミカンの生活習慣病予防効果等、新たな機能表示に繋がるものであり、更なる消費拡大が期待されます。

 用語の解説

1)2型糖尿病
   インスリンを全く合成分泌できないかあるいは少量のインスリンしか合成分泌出来ないために起こる1型糖尿病に対してインスリン非依存型の糖尿病でインスリンの合成分泌量が少ないかインスリンの働きが悪いために発症する糖尿病である。食生活習慣により発症する糖尿病の殆どが2型糖尿病である。空腹時の血糖値が126mg/dL以上で糖尿病と診断される。

 2)三ヶ日町研究
   旧静岡県引佐郡三ヶ日町(現浜松市北区三ヶ日町)の住民1073名を対象に2003年より開始した栄養疫学調査。住民の多くがミカン産業に従事しており、ミカンをたくさん食べる人からほとんど食べない人まで幅広く分布している。そのためミカンの摂取と健康指標との関連を高い精度で評価することが可能である。

 3)カロテノイド色素
   天然に存在する色素であり、ニンジンやカボチャに多いβ-カロテン、トマトに多いリコペン、緑色野菜に多いルテインなどがある。β-クリプトキサンチンは日本のウンシュウミカンに特徴的に多く含まれている。

 4)酸化ストレス
   脂質、蛋白質、遺伝子等の生体成分が酸化反応を受けること。がんや動脈硬化、肝疾患等の様々な生活習慣病の原因の一つと考えられている。

 5)抗酸化物質
   酸化ストレスを減弱もしくは除去する物質の総称。

 6)ハザード比
   追跡期間を考慮したリスクの比。ハザード比が1より大きい場合はリスクが高くなり、1より小さい場合はリスクが小さくなる。

 

図-1 調査開始時の血中β-クリプトキサンチンレベルと2型糖尿病発症リスクとの関係
図-1 調査開始時の血中β-クリプトキサンチン
レベルと2型糖尿病発症リスクとの関係

図-2 調査開始時の血中β-クリプトキサンチンレベルと脂質代謝異常発症リスクとの関係
図-2 調査開始時の血中β-クリプトキサンチン
レベルと脂質代謝異常症発症リスクとの関係

図-3 調査開始時の血中β-クリプトキサンチンレベルと非アルコール性肝機能異常発症リスクとの関係
図-3 調査開始時の血中β-クリプトキサンチンレベル
と非アルコール性肝機能異常症発症リスクとの関係