プレスリリース
北海道地域向けの超強力秋まき小麦「ゆめちから」

- コムギ縞萎縮病抵抗性でブレンド適性が優れる -

情報公開日:2009年3月31日 (火曜日)

ポイント

  • 「ゆめちから」は、北海道初の超強力小麦優良品種です。
  • 製パンした際の、パンの引きが強くもっちりした食感が特徴です。また、中力粉とのブレンド適性に優れ、パン用・中華麺用等への国内産小麦の消費拡大に貢献します。
  • 北海道で発生が拡大しているコムギ縞萎縮病に対する強い抵抗性があり、安定生産に貢献します。

概要

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という)北海道農業研究センター【所長 鈴木 修】は、北海道での栽培に適したコムギ縞萎縮病抵抗性で、ブレンド適性に優れる超強力秋まき小麦「ゆめちから」を育成しました。本品種は土壌病害であるコムギ縞萎縮病に対して、既存品種と比較して極めて優れた抵抗性を有するので、本病発生地帯の秋まき小麦の安定生産に貢献できます。また、小麦粉の品質は超強力であり、「ホクシン」等の中力小麦粉とブレンドすることにより、生地の弱さが改良され、本来は強力粉が使用されるパン用・中華めん用に利用することができます。また、蛋白質含量が高く、醤油原料用としても利用することもできます。(詳細はこちらから)


詳細情報

《背景とねらい》

「超強力」小麦粉は、その特異な強すぎる生地物性のため、これまで国内ではあまり注目されていませんでした。しかし、現在生産が拡大しつつある冷凍生地製パンに適することや、国内産中力小麦にブレンドすることによりその脆弱な生地物性が改善され、強力粉として利用できることなどが明らかにされており、国内産小麦の用途・消費拡大に寄与することが期待されています。また、近年コムギ縞萎縮病の被害が広がる中、本病に対する抵抗性品種の育成が望まれています。そこで、コムギ縞萎縮病抵抗性に優れ、「ホクシン」等の中力小麦とブレンドすることにより、優れた製パン適性を示す超強力小麦を開発しました。


《栽培にあたって(PDF)》

 

《成果の内容・特徴》

  • 「ゆめちから」は、秋まきで硬質のパン用品種育成を目標に、「札系159号」と 「KS831957」とのF1を母とし、「月系9509(後のキタノカオリ)」を父とした交配後代 から育成されました。
  • 「ゆめちから」の特性を北海道の主力品種「ホクシン」と比較して以下に示します。
    • 出穂期は同程度で、成熟期は2日遅いです(表1)。
    • 稈長はやや短く、穂長はやや長いです(表1、写真1、2)。
    • 収量性はほぼ同程度です(表1)。
    • コムギ縞萎縮病抵抗性は優れます(表2)。
    • 60%粉の粗蛋白質含量は高くファリノグラムの吸水率・バロリーメーターバリュウは高く、ミキソグラムの生地形成時間は長く、生地の物性は強く、小麦粉は超強力です(表3)。
  •     中力小麦粉とブレンドすることにより優れた製パン適性を示します(図)
  •     原粒粗蛋白質含量が高く、醤油原料用としても利用できます。

《品種の名前の由来》

新しく登場する国産パン用超強力小麦に託した夢を表します。

 

参考データ

表1.生育特性(育成地 平成17~19年度)

 

表2.生育特性(育成地、特性検定場所、平成17~19年度)

 

写真1 「ゆめちから」の草姿、左「ゆめちから」 中「ホクシン」 右「キタノカオリ」

写真1 「ゆめちから」の草姿
左「ゆめちから」 中「ホクシン」 右「キタノカオリ」

 

写真2「ゆめちから」の穂および粒 左「ゆめちから」 中「ホクシン」 右「キタノカオリ」

写真2「ゆめちから」の穂および粒
左「ゆめちから」 中「ホクシン」 右「キタノカオリ」

 

表3.品質特性(育成地、平成17~19年度)

 

図 「ゆめちから」の製パン試験結果

図 「ゆめちから」の製パン試験結果(平成16年、(社)日本パン技術研究所)
横軸の数字は、「ゆめちから」:「ホクシン」の混合比率を示す。1CW(カナダ産の高品質パン用銘柄)を80点として評価。

 

《用語説明》

超強力小麦粉
小麦粉に含まれる蛋白質の量と質は様々で、このうち、蛋白質の量が多く、極めて力の強い生地が出来るものが超強力小麦粉です。蛋白質の量が多く、力の強い生地が出来るものが強力小麦粉で、逆に蛋白質の量が少なく、力の弱い生地が出来るのが薄力粉麦粉になります。強力小麦粉はパンに主に使われ、薄力小麦粉は菓子やてんぷらに使われており、食品によって性質の違う小麦粉が使い分けられています。

小麦縞萎縮病
平成3年に道内で初めて発生が確認された病害で、現在までに9支庁(渡島、胆振、後志、石狩、空知、十勝、網走、上川、日高)管内の52市町村に発生が拡大しています。コムギ縞萎縮病はポリミキサ菌が媒介するウィルス病であり、栽培管理や農薬の使用による防除法では被害を防ぐことが難しく、道央中部・道央南部では深刻な被害が発生しています。

硬質(小麦)
小麦の品種により、粒の硬さに違いがあり、このうち硬いものを硬質小麦と称します。硬質小麦は一般に蛋白質含量が高いため、強力小麦粉の原料として使用されます。

ミリングスコア
ミリングスコア=製粉歩留+35-50×ストレート粉灰分で得られる数値です。ストレート粉灰分は製粉の際に得られた小麦粉の灰分です。製粉歩留は小麦を挽く過程で機械の調整等で高めることが可能ですが、灰分の多い種皮に近い部分の混入が増えますので、その結果小麦粉の灰分も高くなり、ミリングスコアは下がることになります。ミリングスコアは良い小麦粉の得やすさの指標となります。
なお、灰分は小麦粉を燃焼した際に残った灰の量で、カリウム、リン等が主成分で、品質の良い小麦粉ほど灰分は少ないです。

60%粉の色
60%粉とは試験研究機関で分析に使用する小麦粉のことです。色は色彩色差計という分析機械で測定した数値で、L*の数値が高いほど明るいことを、b*の数値が高いほど黄色いことを示します。L*は高いほど望ましいですが、b*は適正値があるとされています。

60%粉の粒度
小麦粉の粒子の大きさを示す数値です。今回用いている数値は比表面積(単位重量当たりの表面積)で、数値が大きいほど小麦粉の粒子が細かいことを示します。軟質小麦に比べ、硬質小麦はこの数値が小さいので、粒子が粗いことを示します。

ファリノグラム
小麦粉の生地物性を測定する器械によって得られたものです。このうちAbは一定の硬さの生地を作るために必要な水の量を示し、薄力小麦粉に比較し強力小麦粉は高い数値となります。DTは一定の硬さになるまでの時間を示し、薄力小麦粉に比較し強力小麦粉は長い数値となります。VVは生地物性を測定した図形であるファリノグラムの形態を規定の測定板で計測した値です。0~100の数値で示され、高い値ほど生地が強い(強力であること)を示します。

ミキソグラム
小麦粉の生地物性を測定する器械によって得られたものです。生地形成時間は生地の硬さが最大になるまでに要した時間を示し、薄力小麦粉に比較し強力小麦粉は長い数値となります。