プレスリリース
種なしスイカ生産のための「花粉長期冷凍保存技術」

- 種なしスイカの省力生産を可能とする不活化花粉の保存技術を開発 -

情報公開日:2009年6月 4日 (木曜日)

ポイント

これまで困難であったスイカ花粉の長期保存技術を開発しました。これにより、従来、生産者が自ら調製しなければならなかった種なしスイカ用の花粉をいつでも利用することが可能となり、大幅な省力化が期待できます。

概要

農研機構 北海道農業研究センター【所長 折登 一隆】では、種なしスイカ用の花粉を1年以上の長期にわたり冷凍保存する技術を開発しました。

この技術により、これまで生産者が自ら調製していた種なしスイカ用花粉(寿命が短いため各自で作っていました)を専門業者等から購入できるようになり、種なしスイカの生産を大幅に省力化できるようになりました。

これにより、種なしスイカ生産技術の実用性がさらに高まり、全国に普及するものと期待しています。


詳細情報

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)北海道農業研究センターでは、気候変動(温暖化)に対応する技術を開発するため、(1)「農業生産からの温室効果ガス発生量の低減方法の開発」、(2)「広域連携栽培試験による温暖化適応型水稲栽培シナリオの提示」のプロジェクト研究を平成20~22年度の3年間実施します。研究概要を以下のとおりご紹介いたします。

【新技術開発の経緯・背景】

これまで、軟X線を照射することにより部分的に不活化した花粉を利用して、既存のスイカ品種を種なし化する技術が開発されています。この種なし化技術は、どのような品種にも適用でき、品種の特性を生かしたまま種なし化することができます。しかし、不活化花粉を利用するためには、生産者が自ら早朝に雄花をつみ取り、花びらを除去した後、軟X線を照射する必要がありました。また、スイカの雌花の寿命は極めて短いため、当日の午前中に授粉作業を終わらせる必要があり、多大な労力を要していました。
そこで、私たちは、産学官連携の研究体制の下、生産者がいつでも不活化花粉を利用できるよう、花粉の長期保存技術の開発に取組みました。

【新技術の特徴】

軟X線を照射した花粉を真空保存用袋に入れ、窒素ガスを封入した後、-25°Cで冷凍することで、1年以上保存できます(図1、図2)。
本技術によって、生産者は購入してきた花粉を利用し、いつでも好きな時間に授粉することができます。また、人工授粉が必要ですが、これまで授粉に要していた労力を大幅に軽減でき、生産規模の拡大も可能になります。なお、花粉や果実にX線が残ることはありません。
図1.不活化花粉を利用した種なしスイカ生産の新技術

図2.スイカ不活化花粉保存時のガス環境と保存期間が花粉発芽率に及ぼす影響

【導入実績】

本技術による冷凍不活化花粉は特許許諾先であるケイワン(株)より販売されています。現在、鳥取県、熊本県、高知県などの生産者によって利用されており、今後、さらに利用の拡大が見込まれています。

本技術は、農研機構 生物系特定産業技術研究支援センター「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」(平成17年~19年度)で得られた成果です。

連携先:高知大学、高知県果樹試、JA鳥取中央、ケイワン(株)等

【利用許諾契約に関するお問い合わせ先】
農研機構 情報広報部 知的財産センター 技術移転係
Tel 029-838-7968 Fax 029-838-8905

【用語の解説】

「不活化花粉」
軟X線を照射することによって得られた花粉で、果実を作る能力を維持していますが、種子を作る機能が失われています。この花粉を授粉させると、種の中身は発達せず、種なし(シイナ)となります。
不活化花粉は、ブンタンなどのカンキツ類や柿の種なし果実の生産にも利用可能です。

写真.左:種なし(富有柿)、右:種なし(土佐文旦)

「軟X線」
X線のうち透過する力の小さいものをいいます。波長でいうと約0.1~1Å(オングストローム)程度のものです。