プレスリリース
農業機械の通信制御方式の共通化を支援する技術を開発

情報公開日:2014年2月24日 (月曜日)

-つながる・かしこい農業機械の実現へ-

ポイント

  • 従来、メーカー間で異なる通信制御方式であった農業機械について、簡単に使えるよう通信制御方式の共通化を可能とする電子機器類を開発しました。また、その国内規格の制定を支援しました。
  • 本研究成果により、機械経費の節減と高精度作業による高品質農産物の生産が期待されます。
  • 通信制御方式の国内規格に対応した農業機械はすでに市販が開始され、開発した電子機器類も26年度からの市販が予定されています。

概要

農研機構は、国内の農業機械メーカー、業界団体、公的試験機関と連携し、農業機械に用いられる通信制御方式の共通化を実現する電子機器類を開発するとともに、日本農業機械工業会規格の制定を先導、支援しました。

  • 従来、農業機械のトラクタと作業機は、メーカー間で通信制御方式が異なるため、同一メーカーで一式を揃える必要があり、生産者にとって多大な経費が負担になっていました。農研機構では、この問題を解決するため、通信制御方式を共通化した機器(ハードウエア)と、それを用いた各種ECU (電子制御ユニット)および共通リモートコントローラを開発しました。本機器類は、トラクタと多種多様な作業機を簡単に接続できるため、ユーザーのニーズに合わせて、機械の組み合わせが可能であり、経費節減に貢献できます。
  • 欧米の国際標準規格(ISO 11783)は、通信仕様が複雑であり、国産の農業機械に対応する機器の開発が困難であること、また、国際標準規格の機器は、非常に高価で国産の小型の農業機械にも適合しないため、接続コネクタや配線に関する新たな国内規格として、日本農業機械工業会規格(日農工規格)に働きかけ、「JAMMAS 0021-2012」の制定を支援しました。本規格は、国際標準規格に則った情報通信を行ないつつ、よりシンプルかつ低コストの接続を可能にするものです。
  • 本成果により、トラクタと作業機の互換性を高めて、機械経費の節減をはかるとともに、施肥量の自動制御や薬剤の散布密度均一化など精度の高い農作業による高品質な農産物の生産が図れます。
  • 開発した電子機器類は26年度からの市販が予定されているほか、制定された国内規格に対応した農業機械は既に市販されており、今後の普及が期待されます。

予算:農林水産省農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「農業機械のシンプル化と情報化・高度化を両立する通信制御共通化技術の開発」


詳細情報

開発の社会的背景

◎通信制御方式の共通化技術の必要性とは

農作業の多くの場面においては、動力・走行源のトラクタと施肥・播種・資材散布等の作業を行う作業機は一体となって作業を行います。トラクタは早くから電子制御化が進み、車速、回転数、傾斜角などの様々なセンサーが搭載されてきました。一方の作業機側も近年は電子制御化が進み、散布量をトラクタの座席に乗ったままで操作できる施肥機や、散布量を設定すると圧力を自動調整してくれるブームスプレーヤなどが国内でも市販されはじめました。近年はトラクタと作業機との間で情報通信を行い、これらの情報をトラクタから作業機に提供することによって、作業機のシンプル化(センサー削減)と高度化を図る試みも始まっています。

しかし、その情報の通信制御の方式が農業機械メーカー間(トラクタ・作業機間)で異なると、生産者はトラクタと作業機の一式を一度に買い換えなければ高度化の恩恵を十分に受けることはできません。また、生産者側の導入に必要なコストが増大するほか、農業機械メーカーにとっても、異なる方式間で相互に接続できないことで多様な方式へ対応するために開発に多大な労力とコストが必要となり、生産者、農業機械メーカー双方に多大なデメリットが生じてしまうことになります。

そこで、農業機械の通信制御方式を共通化する技術が必要とされました。つまり、どのトラクタとどの作業機を組み合わせても、その間の情報通信を問題なく行なえるような技術が強く求められていました。通信制御方式の共通化技術は、情報通信方法がメーカーごとに異なることで生じていた問題を解決するだけではなく、シンプルな農業機械に必要に応じて高度な機能を容易に追加できるようになります。まさに農業機械のシンプル化と高度化の両立を果たすための根幹となる技術です。

研究の経緯

農業機械における通信制御方式の共通化技術の開発は欧米が先行して取組を進めており、長い年月を費やして議論を重ねた末に国際標準ISO 11783が制定されました。これは農業機械の内部、あるいはトラクタと作業機等の農業機械の間で、走行速度やPTO回転数(トラクタから作業機へ動力を伝達する際の伝達軸回転数)などの情報を送受信する際の通信プロトコル(通信手順の規定)であり、およそ農業機械の制御に必要なほとんどの情報が規定されています。欧米では普及が始まりつつあり、日本における共通化技術についても市場規模の拡大等を鑑みると国際標準をベースにする必要があるという認識はありましたが、

  • 通信仕様が複雑であり対応するハードウエア・ソフトウエアの開発が困難
  • 接続コネクタ・配線が大きく高価であるため国産の小型農業機械には不向き

という大きな問題が円滑な導入や普及の支障となっていました。

この問題を解決するべく、平成23年度より農研機構(北海道農業研究センター、中央農業総合研究センター、近畿中国四国農業研究センター)、国内の農業機械メーカー15社(株式会社クボタ、ヤンマー株式会社、井関農機株式会社、三菱農機株式会社、松山株式会社、小橋工業株式会社、株式会社やまびこ、株式会社IHIスター、三陽機器株式会社、東洋農機株式会社、株式会社ササキコ-ポレ-ション、株式会社タカキタ、株式会社丸山製作所、スガノ農機株式会社)、業界団体(一般社団法人日本農業機械工業会)、公的試験機関(北海道立総合研究機構(十勝農業試験場、中央農業試験場、工業試験場))が連携した取り組みとして「農業機械におけるシンプル化と情報化・高度化を両立する通信制御共通化技術の開発(以下、「通信制御共通化技術の開発」)」と題する3年間の研究開発プロジェクトが開始されました。

研究の内容・意義

「通信制御共通化技術の開発」では、大きく技術開発と国内規格への反映について取り組んできました。

  • 技術開発
    前述の「通信仕様が複雑であり対応するハードウエア・ソフトウエアの開発が困難」という問題を解決するために、以下の取組を行いました。

    (1)通信技術共通化ハードウエアの開発
    以下の(2)~(4)に掲げるような、農業機械の通信のための電子機器の製作に用いる「ハードウエア(基板とケースやコネクタ等)」の仕様を検討し、設計と試作を行いました。通信技術共通化ハードウエアは、外部機器の制御機能を持つほか、通信インターフェースも充実したものとなっています。

    (2)後付け型トラクタECUの開発
    通信技術共通化ハードウエアをもとに後付け型トラクタECUを開発しました。生産者の方がお手持ちのトラクタへ搭載して通信制御を共通化することが可能となりました。

    (3)作業機ECUの開発
    通信技術共通化ハードウエアをもとに作業機搭載用のECU(ブロードキャスター用、ブームスプレーヤ用の2種)を開発しました。農業機械メーカーが今後の開発時にそのひな形として利用が可能です。

    (4)共通リモートコントローラの開発
    オペレータ(作業者)が作業機の操作を行うために、共通的に利用可能でトラクタ・作業機情報の表示と作業機の操作を行うことができる共通リモートコントローラを開発しました。現在国際標準で規定されている同種の装置と比較して簡易的な表示ではありますが大幅にコストを削減できる仕様となっています。

  • 国内規格への反映
    また、前述の「接続コネクタ・配線が大きく高価であるため国産の小型農業機械には不向き」について、国内の農業機械に適したコネクタや配線といったネットワークの接続部分の検討とあらたな提言を行ないました。その結果、昨年3月に日本農業機械工業会規格(日農工規格)「JAMMAS 0021-2012」が制定されました。本規格はISO 11783に準拠した情報通信を行ないつつ、より小型の農業機械への搭載を進めるべく、よりシンプル・低コストの接続コネクタを規定するものです。すでに本規格に対応する国内メーカー製の農業機械の一部市販化が始まっており、今後の対応機種拡大と普及が期待されます。また、これらの取組は国外においても注目を集めているほか国際標準の策定の場においても高い評価を受けて、国内標準と国際標準の連携に向けた取組も始まっています。

今後の予定・期待

今回の取組における技術開発の成果は参画いただいた各農業機械メーカー等を通じて市販される農業機械に多く採用されるものと期待されます。

すでに制定された国内規格に対応したトラクタと作業機は複数メーカーより販売が開始されているほか、26年度から新たに市販化が予定されているものもあり、こうした農業機械が必ずや生産者の皆様の農業生産に役立つことを期待しています。

今後、農業機械での通信制御方式の共通化技術は「より高度な作業」と「より高度な情報利用」を実現できます。

「より高度な作業」というのは、例えば「だれでも地力や生育に応じて圃場内の場所毎の施肥量を制御しながら作業ができる農業機械の実現」、「速度の変動にかかわらずに薬剤散布量を設定した散布密度で散布できる農業機械の実現」等が挙げられます。今後、国内でも、これまで紹介した開発技術を搭載したトラクタが市販されれば、外部から操舵・車速・前後進・ヒッチ・PTO・油圧を制御できるようになり、より高精度・高能率な作業を支援するために作業機からトラクタに対して走行速度やハンドル操作を指示することが可能となります。これにより作業者は、トラクタの運転操作ではなく「農作業」に専念できます。

また「より高度な情報利用」に関しては、通信制御共通化技術によりトラクタと作業機間で通信した情報の記録や取り扱いが容易になることから、これらの情報を記録して、走行軌跡や接続した作業機の制御情報から作業日誌や帳簿の自動生成を行う等、生産管理システムの利用がずっと身近になります。

私どもの取組がこの通信制御共通化技術の発展に寄与し、精密農業などの農業の情報化に係る新たなビジネスの創出を通じて、バリューチェーン構築に向けた農業生産性の向上・食料の安定供給につながることを期待しています。