ポイント
・高い抗酸化能1)のあるケルセチン2)を高含有するタマネギF1品種3)「クエルゴールド」を育成しました。
・「クエルゴールド」にはケルセチンが、国内で栽培されるタマネギ品種の中では最も多く含まれています。
概要
- 農研機構は、国内で栽培されるタマネギではケルセチンを最も多く含有する4)F1品種「クエルゴールド」を育成しました。ケルセチンは顕著な抗酸化能を示し、摂取による血圧降下作用が報告されています。
- ケルセチン含有量が高いため、既存のタマネギ品種よりも効果的に摂取が可能となることから、新たな付加価値を持った農産物として需要の拡大が期待されます。また、乾物率5)が高く、加熱加工に向いているので、加工食品原料としての利用も期待されます。
- 「クエルゴールド」は寒地・寒冷地における春播き栽培に適した品種です。
- 現在、北海道内の民間企業(植物育種研究所)により平成28年からの種子販売が予定されています。他の民間企業等への種子生産の許諾も可能です。
関連情報
予算
農林水産省委託プロジェクト「医農連携プロ」(平成22年~平成25年)
品種登録
出願番号:第28219号(平成25年8月30日出願公表)
問い合わせ先
研究担当者:農研機構北海道農業研究センター 主任研究員 室 崇人 Tel 0155-62-9284
広報担当者:同 情報広報課長補佐 柴垣 誠 Tel 011-857-9260 Fax 011-859-2178
プレス用 e-mail:cryoforum(at)ml.affrc.go.jp
メール送信の際は(at)を@に置き換えて送信してください。
詳細情報
品種開発の背景・経緯
タマネギは国内生産量第3位の主要な野菜です。また、ネギ属の野菜は、古来より単なる野菜としてではなく健康機能性を持つ食品として民間療法にも利用されてきました。タマネギの持つ健康機能性については複数の成分が関与すると考えられていますが、その成分の一つに、フラボノイド6)に分類される"ケルセチン"があります。フラボノイドのなかでもケルセチンは高い抗酸化能を有することが知られています。 そこで、健康に関心のある消費者にアピールできるケルセチン含有量の多いタマネギ品種の育成を目標としました。
品種開発の内容・意義
- 2002年よりケルセチン含有量の高い品種の育成に取り組み、より安定してケルセチンを多く含有する系統「OSP-3」と「OPP-5」を選抜しました。
- 2006年に「OSP-3」に「OPP-5」を交配し、交配後代から選抜したF1系統についてケルセチン含有量の評価を行い、特性が安定して発揮されることが確認できたため、「クエルゴールド」として品種登録出願し、平成25年8月に出願公表されました。
- 2010年から2012年の3ヶ年の評価試験で、「クエルゴールド」のケルセチン含量(平均値)は、乾物1g当たり5.3mg、1球当たり109mgとなりました。これは、一般的な北海道産タマネギの1.6倍以上でした(図1)。
- 可食部は淡いレモンイエロー色を示します。乾物率が高く風味を強く感じ、小球のため調理で使い切りやすいサイズです(表1)。通常の加熱調理ではケルセチンの分解は軽微ですが、煮込み調理ではスープ中にケルセチンが溶け出すため、スープも含めて食べることをお勧めします。
栽培上の留意点
- 「クエルゴールド」は北海道および東北地域といった寒地・寒冷地における春播き栽培に適した品種です。
- 生育の進んだ株が低温に遭遇することで生じるトウ立ち(花茎の伸長)により、商品価値が低下するリスクが他の品種よりも高いため、地域の慣行よりも早期の播種・定植を避ける必要があります。
- 収穫時の調査では、他の品種よりもやや病害の発生率が高いため、収穫時以降の球腐敗につながる生育後半の病害について適宜防除に努めてください。
図1.「クエルゴールド」のケルセチン含量(mg)
注)タマネギ1球に含まれるケルセチン含量は、タマネギ可食部を凍結乾燥後に粉砕し、簡易法で定量した。棒グラフの上の直線はサンプルの標準誤差範囲を示す。異なるアルファベット間には1%水準で有意差有り(Tukey法)。
表1.「クエルゴールド」の農業特性
注)札幌市における平成22年から平成25年の3カ年の平均値、「北もみじ2000」は春まき栽培における主要品種、倒伏期:播種後日数、生育指数:生育盛期の葉数(枚)×葉長(cm)、貯蔵性:良-中-不良(5段階評価)
写真1.生育盛期の「クエルゴールド」の草姿(中央)(2012年7月撮影)
品種の名前の由来
「クエルゴールド」はケルセチンを多く含有するタマネギで、可食部が淡いレモンイエローを呈するため、金色のタマネギに見立てて名付けられました。
今後の予定・期待
「クエルゴールド」は、世界的に見てもケルセチンを多く含有するタマネギ品種です。ケルセチンの示す健康機能性により、健康に関心のある消費者にアピールできる特性を生かし、付加価値を持つタマネギとして北海道栗山町で生産への取り組みを進めています。また、農研機構では「クエルゴールド」を用いて、ケルセチン高含有タマネギの認知機能改善効果及び生活習慣病改善効果についての試験を進めています。
用語の解説
1.抗酸化能
呼吸により体内で生じる活性酸素は、ガンや心臓疾患、脳血管障害などの生活習慣病や老化につながる原因物質であると言われています。この活性酸素の発生抑制や、生成した活性酸素を除去する能力のことを抗酸化能と呼びます。
2.ケルセチン
フラボノイドに分類される化合物。タマネギには主に配糖体(ケルセチンにグルコースが結合したもの)として含有されます。ケルセチン配糖体はケルセチンよりも体内で効率よく吸収されます。健康に対する効果が期待され、サプリメントとしての販売や大手飲料会社の特定保健用食品(茶飲料)に添加されるなど、利用が広まっています。
3.F1品種
作物の品種育成では一般的な手法となっている、2種類の親品種の交雑により得られる雑種第一代品種のことです。生育が旺盛となり収量性が向上します。両親の優良形質を受け継ぐことで付加価値の高い品種となります。生育が斉一となる、などの特徴を示します。
4.タマネギのケルセチン含量
日本のタマネギ品種は、本州以南で栽培される「秋播きタマネギ」と主に北海道で栽培される「春播きタマネギ」の大きく2つのグループに分けられます。一般的に、秋播きタマネギは肉厚でみずみずしく柔らかく、春播きタマネギは煮崩れしにくく風味が強い傾向があります。春播きタマネギのケルセチン含量は、秋播きタマネギの2倍以上になります。「クエルゴールド」は、一般的な春播きタマネギのおよそ1.6倍のケルセチンを含有するので、一般的な秋播き品種との比較では3倍以上となります。 世界的にみても、日本の春播きタマネギ品種はケルセチン含量が多い傾向があるので、「クエルゴールド」は含有量の高い品種と考えられます。
5.乾物率
タマネギの水分以外の物質の割合を示したもの。ここでは、重量乾物率を示し、一般にその値が高いほど風味を強く感じる傾向があります。
6.フラボノイド
色素成分として植物界に広く分布し、2つのベンゼン環を3つの炭素原子で結合した基本骨格を持つ化合物。基本骨格に結合する修飾基によって、フラボン、フラボノール、アントシアニン等の複数のグループに分類され、現在までに4,000以上もの分子種が確認されています。